SHARE STA土屋辰之助アトリエが改修を手掛けた、東京都内の、植物園内の管理棟・倉庫棟「名もなき木造建築改修」
STA土屋辰之助アトリエが改修を手掛けた、東京都内の、植物園内の管理棟・倉庫棟「名もなき木造建築改修」です。
都心でありながら豊かな自然に包まれた植物園の維持管理のための倉庫および作業スペースとして、それぞれ昭和32年、昭和37年に建設された名もなき木造建築の改修である。そのような建築であるから当初の図面などは存在せず、改修にあたっては実測を行ったうえでなるべく詳細に現状を把握するように努めた。
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以下、建築家によるテキストです。
名もなき木造建築の改修
都心でありながら豊かな自然に包まれた植物園の維持管理のための倉庫および作業スペースとして、それぞれ昭和32年、昭和37年に建設された名もなき木造建築の改修である。そのような建築であるから当初の図面などは存在せず、改修にあたっては実測を行ったうえでなるべく詳細に現状を把握するように努めた。
倉庫棟は中央部にY字柱を一本建て、桁を渡して小屋組を載せる起点としている興味深い組み方をした構造である。倉庫として使われていたので、いわゆる羽柄材でつくられた棚などが更に程よいスケール感を醸成し、数本の樹木からとられた木材による「木の再構築」と言えるような、自然で初源的な空間をつくりだしていた。改修にあたっては、今後、園内でのボランティア活動やイベントなどでの使用も可能となるように机や棚の造作を羽柄材のモチーフに連続させるようにデザインし制作設置したこと、自然光が差し込む倉庫であった雰囲気を継承するような照明計画を行った。
管理棟は方杖を用いた構造であり、外周を塗装で仕上げてある、いわゆる擬洋風建築の趣を残している。今後も長く使い続けるべく、一定の耐震性能を確保する目的で、壁の少ない短手方向中間部に耐力壁を、南面の開口部を大開口として使いやすいように改修しつつ、木ブレースを追加した。方杖のモチーフがつくり出す造形を邪魔することがないように木ブレースの角度など慎重に配慮し、中間部に設けた袖壁上の耐力壁も収納・作業スペースと休憩・外部への搬出入スペースを緩やかに分ける役割を自然なかたちで果たしていると思う。
建設の年代は異なるが、同じ4間×5間の矩形の平面が直交し対峙する配置や木の組み方での空間の質の違いなどの微妙な差異と調和が生み出す関係性が都心に貴重に存在する悠久の自然のうちに静かに存在していることの尊さをそのまま永らえるためのささやかな改修を私の手によって行えたことは、どのような大きな仕事にも比すことのできない経験であり名誉である。それが、この名もなき木造建築への私の敬意である。
(土屋辰之助)
■建築概要
「名もなき木造建築改修」
所在地:東京都内
主要用途:植物園内管理棟、倉庫棟
設計・監理:STA土屋辰之助アトリエ
管理棟
担当:土屋辰之助 寺岡克子 齊藤啓輔※ 小西光樹※
倉庫棟
担当:土屋辰之助 寺岡克子 山﨑朋哉 小西光樹※
※は元所員
調査設計協力:増子ひかる 井手希(東京理科大学)
構造協力:ビーファーム
担当:岡本隆之
施工:建築 有限会社矢島工業
電気 栄光電気株式会社
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建築面積:66.24㎡(管理棟) 66.24㎡(倉庫棟)
延床面積:66.24㎡(管理棟) 66.24㎡(倉庫棟)
構造・規模:在来軸組木造、地上1階
最高高さ:管理棟:5m程度、倉庫棟:5m程度
軒高:管理棟:3.15m、倉庫棟:3.17m
設計期間 2018年 9月〜 2018年12月
工事期間 2019年 1月〜 2019年 3月(管理棟)
2019年 10月〜 2019年 12月(倉庫棟)
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■管理棟
主な外部仕上げ
屋根:既存のまま(小波板葺き)
外壁:既存のまま(スギ板壁、塗装仕上げ)、一部ポリカーボネート小波板貼り新設
開口部:アルミ製折戸新設、他木製建具既存のまま
主な内部仕上げ
飼育管理室
床/既存のまま(コンクリート土間)
壁/既存のまま(スギ板壁、塗装仕上げ)
新設耐力壁/構造用合板張 EP-G
天井/スギ板張 WP 新設
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■倉庫棟
主な外部仕上げ
屋根:既存のまま(小波板葺き)
外壁:既存のまま(スギ板壁)
開口部:出入口木製引戸改修、他木製建具既存のまま
ポーチ床:コンクリート平板敷
主な内部仕上げ
床/既存コンクリート補修の上、防塵クリア塗装
壁/既存のまま(スギ板壁)
新設区画壁/上部:ポリカーボネート小波板+アクリル板張、下部:構造用合板張
天井/既存のまま(野地ベニヤあらわし※後の改修による)
造作家具・既存棚改修/スギ羽柄材