下川徹 / TORU SHIMOKAWA architectsが設計した、福岡・久留米市の住宅「津福今町の家」です。
家は3度建てると納得のいくものができると聞くが、建主にとって3度目の建築がこの計画。敷地は、高度医療都市としても知られる福岡県久留米市。緊急車両の往来が激しい国道付近の住宅地で、とりわけ防音対策は必須であった。3方には住宅が連なり、東側一方にはいずれ量販店が建つであろう広々とした空地がある。その向こうに国道が走る周辺環境で、四方いずれも外に開くことは考え難い。そこで、玄関となる幅600mm(型枠1枚)の開口以外を重厚なRC壁で被う、単純明快で閉じた構えとした。重厚な壁は喧噪からの遊離と、むしろ開放的な私生活を約束する。その壁に守られた東側の庭は、いわば緩衝空間となる。庭に面する居間には良質な光が採り込まれ、静謐で豊かな在処となる。この住宅に限らず設計に着手する際は、建主が身を置く室内空間を最優先し、特に身体に近い素材をじっくり吟味するようにしている。居間のL型の対称に配置した壁は、スギ小幅板を型枠とした240mm厚のコンクリート打放し。食事室の壁は、45mm厚の無垢ニヤトーに深く決りを入れた材。そこから中庭まで続く床の磁器タイルは、この空間のため焼かれた。これらすべては大工や職人による丹念な手仕事の結実である。 そんな素材で形成された空間は、身を置く者に量感を伝え、どこか心地よく、美しい佇まいになると信じている。しかし、建築の本質は構造である。真摯に取り組まれた建築は、RC造・木造に関わらず、構造体が露となる上棟時にその本質的な美しさを感じさせる。その『途上の美』を生かしたいと常々思っている。この場に必然的な建築を目指したつもりだが、最善だったかどうか解が出るには年月を要するであろう。だが幸い、建主には3度目のこの建築での生活を喜んでいただいている。これが終の住処となり、子から孫へ引き継がれてゆく建築になることを望む。