塩入勇生+矢﨑亮大 / アーキディヴィジョンが設計した、東京・墨田区の「新旧の店先」です。既存店舗建物の背景を尊重しファサードとカウンターを並置させることで街との関係を変化させ、より地域に根差したものになることを意図した作品です。
計画地は、国技館にほど近い洋服店である。クライアントご夫婦は、両国を長く居住の拠点としていた。この地に愛着をもったことから3年前にこの建物に引越し、2階を住まいとしながらお店を営んできた。
もともと洋服のみのお店であったが、東京五輪による観光客を巻き込みながらも、お客さんたちとのコミュニケーションツールとして自家製の果実酢を振舞いたいという願いから、お店の中にドリンクテイクアウトができる最低限のカウンターが欲しいということであった。また、中古物件であったこの建物の黄色い外壁が気に入っておらず、外観を大々的に変えることはできないかという思いもあった。
これは改修ではない
ご夫婦との対話を続け人柄に触れたとき、改修後にお店の機能が充実し外観や店内がきれいになれど、この店の本質は全く変わるものではないのだと感じた。お店の利益向上がすべてではなく、より深く地域に根差した生活を営んでいく次の第一歩となる計画のように思えた。
そうしたとき、どうしても改修という古いものを新しいものに刷新する行為と、ご夫婦の求めているものとが結びつかないような感覚だった。おそらく改修という行為そのものが、2人のこれまでの3年間に沿うように展開せず、街に対してお店の背景を含めた時間をぶつ切りに抜き取ることになってしまうのではないかという懸念だった。
そこで改修のように壊して新しいものを付け加えるのではなく、新しく家具を買って部屋に置くように、ファサードとカウンターを敷地内(建物内)に文字通り並置することを考えた。