石上純也建築設計事務所が設計した、神奈川・厚木市の「神奈川工科大学KAIT広場」です。記事後半には動画も掲載しています。
現在は一般公開はされておらず、2021年4月から一般公開予定とのこと。
神奈川工科大学にKAIT工房が2008年冬に完成し,同じ年の秋,東側に隣接する校庭の一角でこの計画が始まった.プログラムは多目的な半屋外の広場だ.多目的性とは何か,半屋外性とは何か.それらが最初の問いであった.
いわゆる均質な空間ではない.大学には多目的な用途の場所は既に多くあり,そのような機能上の多目的性ではなく,ここでは過ごし方の多様性が求められた.学生たちが,のんびりと過ごすための居場所が学内には少なかったからだ.用途の曖昧さが多く含まれ,それが魅力になる多目的性が必要であった.たとえば,床に座って談話やランチを楽しんだり,寝転びながら考えごとをしたり,昼寝をしたり,雨天時に運動部がストレッチをしたり,イベント時に車や機械を展示したり,学祭の時にお店などが並び市場のようになったりなど.「どのように使うか」よりも「どのように過ごすか」ということに重心がある,そういう場所である.
構造のスケールも技術も材料も土木的である.巨大な鉄筋コンクリート地中梁基礎には杭が83本,アースアンカーが54本計画され,床の斜面の高低差は5mほど,構造も吊橋を360度回転させたような成り立ちである.最大スパンは90mほどで,鉄板の熱収縮で天井高が30cmほど変化する.季節によって空の高さが変わるかのようだ.メガストラクチャー的構造スケールである.しかしながら,同時に身体的スケールが共存するように考えた.天井高は2.2〜2.8mほどで住宅のスケールとし,屋根鉄板の厚さも12mmで家具スケールとした.屋根鉄板の外周3mの範囲には圧縮リングとしてのリブを計画し,壁への張力の負担を軽減し,壁の厚さを250mmとし一般的な建築のスケールを維持している.床面には車道の舗装に使う透水性アスファルトを敷き詰め,高圧洗浄で油分を完全に取り去り塗装を施す.雨水は瞬時に吸収され床の下を流れ,床面はドライな状態が保たれる.人間の肌に接しても不快でないような状態にしている.