石上純也による、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポート。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅
石上純也による、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポート。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅門をくぐり敷地内に入ると、1927年に建てられた古い邸宅がある。 photo©architecturephoto
石上純也による、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポート。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅庭園への入り口。パヴィリオンの一部が出迎えてくれる。 photo©architecturephoto
石上純也による、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポート。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅 photo©architecturephoto
石上純也による、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポート。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅 photo©architecturephoto
石上純也による、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポート。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅 photo©architecturephoto

石上純也が設計した、東京・千代田区の、20世紀初頭に建てられた邸宅の庭にたつパヴィリオン「木陰雲」のレポートです。敷地のもつ空間の質を、建築によって増幅させています。“パビリオン・トウキョウ2021”の一環として制作された作品です。作品の設置場所はこちら(Google Map)。開催期間は2021年9月5日(日)まで。鑑賞時間や休館日はこちらに掲載されています。

こちらはアーキテクチャーフォトによるレポート

石上純也によるパヴィリオン「木陰雲」の敷地は、東京・千代田区の「kudan house 庭園」である。敷地内には1927年に実業家の山口萬吉によって建てられた古い邸宅がありその庭園内のパヴィリオンを石上が手掛けた。

石上は自身の解説文の中で、このパヴィリオンを「日差しを柔らかく遮る日除け」と表現する。また、この日除けは焼き杉の技術を用いて制作され表面が炭化され黒くなった木材による柱・梁・屋根で構成されている。実際にパヴィリオン内部に足を踏み入れると、言葉にしがたい心地良さを感じる。元々この庭には様々な樹木や植物が植えられており、それによって既に心地よい空間であったことが想起されるが、石上によるパヴィリオンは、元々この庭が持っていたこの心地よさを更に増幅させる方向に作用していると感じた。それは、木々の隙間からの木漏れ日であったり、木々が立ち並ぶことで生まれる安心感であったりするのだが、その感覚をこのパヴィリオンの存在がより鮮明にし増幅させているように思えた。

黒い焼杉の素材感は、ヴォリュームはしっかりしているものの、その加工による色の効果もあり、既存の植栽の中にあって違和感を感じることはない。そして、そのテクスチャーは光や天候によってもその見え方を変える。光が強く当たった部分は明るくなり木目等が確認でき、自然素材の豊かな表情を見せ「図」として認識される。また日が陰った場所や雨天時等には、暗くなり物質感が消え「地」として振舞うように感じられる。天候の変化によって存在感を強く感じさせたり、既存の樹木の背景となったりとその表情が刻一刻と変わるのである。様々な天候の日の訪れると、その空間の変化に驚かされるだろう(筆者は晴天の日、雨の日の2回訪問している)。それは季節によってその表情を変える京都の寺を思い起こさせた。

天井の穴は既存の樹木の位置を配慮した上で設計されており、それは穴を貫通して木々が育っていったかのようにも感じさせてくれる。そして、この穴が、太陽光を適度に遮ることで、その光を実に美しいものとして感じさせてくれる。建築には古来より借景という設計技法がある。それは建具などの建築要素によって風景を切り取ることで、その景色を実物以上に美しく見せる手法である。このパヴィリオンにおいては、屋根に開けられた穴が都市の中で空とその光を借景し、その美しさを増幅させているようだ。

また、既存の庭園がもつ動線や広場など空気感にも、屋根の穴は関連付けられて設計されている。それによって場所場所によって取り入れられる光の量が変化し、その場所固有の空気感を明確にしているようにも感じた。例えば、エントランスを入って歩いていくと、タイルの敷き詰められた小さな広場があるのだが、この場所では屋根の穴が最も疎になるように設計されている。それによってこの場所が最も明るく、からっとした空気感となり、木々の植えられたエリアとの違いが明確になっている。逆にここが明るいことで、木々の下はより暗く親密な空気感を持った場所として感じられるのである。

石上によるパヴィリオンは、この場所だからこその、この場所の持つ意味に真摯に向き合った作品だと言える。
それは、これまでに紹介してきたパビリオン・トウキョウ2021の他の作品にも共通する。各々の建築家が、与えられた場所が持つ固有の特徴に真摯に向き合い、この場だからこそのデザインのパヴィリオンを考案し実現しているのである。そういった意味でもこれらの作品は建築なのだと感じた。

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