岡佑亮 / チドリスタジオと岡倉慎乃輔が設計した、石川・金沢市の店舗「シンタテベイクストア」です。
商店街の建物に入るパン店です。建築家は、最小限の操作での“全体性を持った意匠”の実現を求め、色を用いて既存の痕跡を“チューニング”する“他律性”を備えた設計を志向しました。また、周辺環境の色をサンプリングして内外の一体感も創出しています。店舗の公式ページはこちら。
石川県金沢市の中心部にある商店街に面した、2階建て木造店舗を改修し、ベーカリーを設計した。
過去には、いくつものテナントが入れ替わっており、我々が改修する前に現地調査をした時点で、その様々な痕跡が確認できた。プラスターボードが、部分的に貼られていない。重ね枚数が異なっている。塗装が途中で止まっている。屋外と室内が繋がっている。随所に度重なる改修工事のチグハグが見てとれた。
予算や工期の都合もあり、本改修では建物を使用するための、最低限必要な箇所の補修・メンテナンスに留めつつ、全体性を持った意匠をどのようにまとめるか検討した。
内装全体をボード貼りや上塗りすると工費が膨らむため、機能的に問題のある部分をボード等で補修、ペンキで上塗りし、既存の取り合いで問題のない箇所はそのままとした。その結果生まれる不思議な納まりに合わせて色を切り替え、他者の痕跡にこちらがチューニングするように色彩計画を重ねることで、時間軸を伴う他律性を持った内装設計を試みた。色の切り替えが通常では不可解な位置ではあるが、既存建築がもつチグハグを意匠化することができた。
内装設計において、テナント内部だけに留まらない拡がりを持たせることに可能性を感じ、内部から認知できる周辺環境の色を取り込んだ色彩計画を考えた。対面の建物の各要素、本建物の既存のオーニング、北陸の曇天等、自らも含めた街の構成要素をサンプリングし、塗装色番号に置き換えた。その色を用いて自律性を担保しながら色彩の位置や比率を調整して配色した。その結果、窓外の風景と親和性を持つ内部空間が現れ、室内が外まで一体であるような拡がりを獲得する一方、商店街の色彩がこの店舗の広告のようにも読み替えられる。