


工藤浩平建築設計事務所が設計した、秋田市の「楢山の家」です。
浸水被害を受けた住宅の建替の計画です。建築家は、被災対策に加え経済性も求め、独立基礎を併用した“高床”と急勾配の“落雪屋根”を特徴とする建築を考案しました。未来を見据えて取捨選択した設計の末に“不思議なアイコニックさ”が現れています。
秋田市にある住宅の建て替え計画である。
既存住宅は、2023年の豪雨災害による内水氾濫の被害を受け、建て替えが必要であった。計画敷地は区画整理事業から取り残され、周囲よりも地盤面が低いことが原因で冠水被害にあった。地方経済の疲弊により、将来的な区画整理事業の目処もなく、治水工事の改善にも時間がかかっており、今後も浸水被害の可能性が捨てきれない中で、施主はこの土地に住み続ける判断をした。施主の思いを汲み取り、たとえ氾濫が起きたとしても、生活の場が被災しないよう、高床の簡素な住宅を提案した。
過去の浸水被害を調査し、床面を浸水高さよりも高い1200mmとした。高床式とする場合、現代ではRCの高基礎を設けることが一般的だと考えられるが、被災により予期せぬ建て替えを迫られ、建設資金に限りがある事情もある。ここでは、高コストになる高基礎の範囲を絞り、古来から受け継がれる独立基礎を併用した。
また、落雪屋根となる10寸勾配の方形屋根をかけることで基礎、屋根ともに経済的な構成を採用した。家族の一人が車椅子生活であったため、スロープを建物沿いにぐるりと設け、雨や雪からスロープを守るため、1,500mmの軒を跳ね出した。
このように与件を満たすことで出来上がったシンプルな住宅だが、結果として現れた立ち姿は、アイコニックでどこかで見たことがあるような、周辺の住宅より少し高く、特異な存在として街にたつ。
徹底したグリッドや、全体を覆う10寸勾配の屋根、内外とも真壁としたことも手伝って、住宅としてはやや強い構成で、ともすると寺社のような出立である。しかし同時に、構成部材が住宅スケールであることや、二階建てであること、生活スタイルに応じて開口を設けた結果、寺社とも似つかわしくない、生活の匂いがする民家となった。
構成の強さを維持することと、強い構成を崩していく現代の生活、その両者のせめぎ合いを調整し、どちらかに傾けることが設計行為なのだとしたら、その調整を良い意味で放棄し、長い時間在り続けるものを優先した結果が、この不思議なアイコニックさの一因となったように思う。