SHARE 加藤孝司 BEYOND ARCHITECTURE “長坂常 + なかむらしゅうへい「FLAT PROJECT展」”
photo©Takashi Kato
加藤孝司 BEYOND ARCHITECTURE
長坂常 + なかむらしゅうへい 「FLAT PROJECT展」
建築家長坂常と塗装職人であるなかむらしゅうへいによる展示「FLAT PROJECT展」が、その拠点である中目黒のHAPPAにて始まった。フラットプロジェクトとは一昨年前より始められた「世界のあらゆるデコボコをフラットにしてゆく企画」だ。
ちょうど展示のオープニングに合わせて会場で来場者をもてなす本プロジェクトのデザイナーである長坂に、フラットプロジェクトの始まりを聞くことができた。
それは長坂が代表を務めるスキーマ建築計画と、中村塗装工業、そしてギャラリーである青山 | 目黒とがこの「HAPPA」に入居したときにさかのぼる。自分たちで空間を作る際、ファサードの全面を覆う窓枠と床の合間に微妙な隙間ができた。そこをエポキシで埋めて小さな「美術館」にするという構想があったという。しかしその隙間に、エポキシを流しこんだところ、液状のエポキシはうまく固着せず、床面にだらっと流れ出た。その様を見て、ならばと平面にエポキシを流しこんでみることを思いついたとのこと(ちなみに、現在サッシと床の隙間は、この空間のためのちいさな「庭」になっている)。そのきっかけは意外なところにあったのだ。
そこで生まれたのが「狭山フラット」や恵比寿の書店「ナディッフ」のエポキシによる床だ。ナディッフでは床にあった窪みを平坦にするためにエポキシで養生したようだが、エポキシの厚みや濃度により生まれる色の濃淡は、表現におけるおもしろい効果を生んだのは周知の通りだ。
フラットテーブルは狭山フラットで展示していたアンティークのテーブルを、長坂が引き取りリファインすることからスタートした。古いテーブルの天板に刻まれた、手のひらでなぞるとわずかな引っ掻きを残す小さな傷跡。その傷をそこに記されたもう語られることの無い記憶とともに、作家により全く新しい価値を創造すること。そこからこのプロジェクトはスタートしたのだろう。
新作のフラットテーブルは虫食いのアンティークの板をモチーフにしたものと、枕木を並べて作った天板をもつテーブル、それらにはそれぞれ特注の脚が取り付けられた。それとアンティークの家具をフラットテーブル化したものがいくつか。あわせて今回は持ち込みの家具をフラットテーブル化する新しいプロジェクトのサンプルも展示されている。これは実際に顧客から依頼があり、フラットテーブル化され制作されたものだという。
先日のDESIGNTIDE TOKYO 2009のエクステンション会場であるCIBONEで発表された、テーブル表面がボーダーに彩色されたようなフラットテーブル「Raftered」も展示されている。こちらはCIBONEとのコラボレーションで生まれたものだが、これまでのフラットテーブルでは天板についた傷や凹み、テーブル本体のゆがみにエポキシが「溜まる」ことで模様がつけられていたが、本作品は意識的に天板となる木材の表面に加工を施すことで、天板に美しいカラーのボーダー柄を浮かび上がらせている。
こちらは天板に用いられた角材の配列に微妙な高低をつけることで、天板表面に定着させるエポキシの量をコントロールし、色に濃淡をつけたということ。そこで生まれたボーダー柄は実は偶然生まれたように見えて、実は巧みにコントロールされているあたりにこのプロジェクトの進化型がみえる。
今回展示されているものは今後CIBONEで製品化されるものの試作品だそうだが、この試作品のための数多くの試作品も制作されたようで、そんなところにも長坂となかむらという二人の作家のものづくりに対する飽くなき探究心と執着を見て取ることができる。
あわせて新作として、通常断熱材として建物に用いられる「スタイロフォーム」を用いたフラットテーブルの試作品も制作された。スタイロフォームは先日行われ長坂も参加したプロジェクト「happa hotel」の際にも、長坂自身が制作した家具におけるメインのマテリアルとして選ばれていたから、現在彼にとって興味がある素材なのだろう。
ともかく軽くしなやかなスタイロフォームをテーブルとして自立させること自体困難に思われるのだが、塗装職人であるなかむらしゅうへいの高度な技術と執念により、しっかりと実用可能なテーブルになっているのはさすがだ。そして原型に軽量なスタイロフォームを用いることにより、見た目通りにテーブル本体は片手で持ち上げることが可能なほどに極めて軽量に仕上がった。
会場には前途の組み合わせた角材の板と色をつけたエポキシによる、フラットテーブルの「色見本」も展示されている。こちらもエポキシのグラデーションを見る上で興味深い試作品になっているのでぜひ見ていただきたい。
今回展示されているスタイロフォームのフラットテーブルもそうだが、既成の家具やマテリアルが、デザイナーである長坂常と、塗装職人であるなかむらしゅうへいによりひと手間加えられることで、そのものがそれまで持っていた価値とはまったく異なる価値を持つことを確認する上でも今回の展示は実に興味深かった。現代のもの作りにおいて、物はデザイナー個人のインスピレーションだけでなく、実際のもの作りを担う作り手との恊働があってこそ、物、しいてはもの作りの強度が増すことは疑いの余地がない。その点においてフラットプロジェクトはもの作りとデザインすることの原点回帰と云うこともできるだろう。
photo©Takashi Kato
「FLAT PROJECT展」
期間:2009年11月20日(金)~12月19日(土) ※日祝休館
場所:HAPPA 東京都目黒区上目黒2-30-6
電話:03-5939-6773
時間:11:00~21:00
http://www.happa.tv/