【ap特別企画】岸和郎インタビュー「今、岸和郎に聞く 建築と人生 ─── 教育・京都・設計というキーワードを通して」(聞き手:後藤連平)
京都を拠点とし約40年の設計活動を行ってきた建築家・岸和郎。
2021年6月から8月まで京都工芸繊維大学美術工芸資料館にて、これまでの活動とこれからの活動を紹介する展覧会「岸和郎:時間の真実_TIME WILL TELL 」が行われた(緊急事態宣言により会期終了前に閉幕。現在は2021年10月1まで大阪工業大学にて同展のサテライト展が開催中)。
建築家として世界的に評価されてきた岸は、設計活動と同時に教育現場にも携わり数多くの教え子を育ててきた。今回、そのひとりでもある、アーキテクチャーフォト編集長の後藤連平が聞き手を務め、岸和郎に建築のみならずその人生までも振り返ってもらうという趣旨で行われたのが本インタビューである。
その内容は、建築家を目指す人のみならず、どんな建築人生を送る人にとっても大きな学びがあり勇気をあたえてくれるものであるだろう。
岸 和郎 (きし・わろう)
建築家・K.ASSOCIATES/Architects主宰
1973年、京都大学工学部電気工学科卒業。
1975年、同大学工学部建築学科卒業、
1978年、同大学大学院修士課程建築学専攻修了。
1981年~1993年京都芸術短期大学、
1993年~2010年京都工芸繊維大学、
2010年~2016年京都大学、
2016年から京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)にて教鞭をとる。
その間、カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学で客員教授を歴任。京都芸術大学大学院特別教授、京都大学名誉教授、京都工芸繊維大学名誉教授。日本建築家協会新人賞、日本建築学会賞、デダロ・ミノス国際賞審査員特別賞など、国内外において受賞多数。
WEB SITE:https://k-associates.com/
【ap特別企画】岸和郎インタビュー「今、岸和郎に聞く 建築と人生 ─── 教育・京都・設計というキーワードを通して」(聞き手:後藤連平) 左:岸和郎、右:アーキテクチャーフォト編集長・後藤連平。(インタビューは京都と東京をzoomでつなぎ行われた。)
岸和郎と京都
後藤 :今日は貴重な機会をありがとうございます。ぼくは京都工芸繊維大学を2002年卒業、大学院を2004年に修了しています。岸先生も工芸繊維大で教えていらして、三角スケールの使い方から設計課題の指導までとてもお世話になりました。思い返すと、岸先生は当時から「自分は京都の建築家である」と宣言されていましたよね。
いまでこそ、建築家が地方で活動することが一般的になったように思うのですが、岸先生はその先駆者のようにも思えます。
岸 :最初は東京で独立しようと思っていたんですよ。それで、大学の先生に報告に行ったんです。そうしたら、建築家は設計するだけじゃなくて、営業をしないといけない、君にできるかといわれて。むずかしいのなら、教職に就いたほうがいいと勧められました。それで、ご縁があって最初は京都芸術短期大学に着任しました。
京都は学生時代を過ごした街なので親しみがありましたが、ここで、あらためて京都という都市と向きあうことになるわけです。活動を開始した80年代前半の当時は情報のなさ、遅さに驚愕しました。東京にいれば、友人から1時間くらいで仕入れられる情報が、京都では1週間かかる。これはもう、ゆっくりやるしかないな、と思いましたね。
後藤 :当時は、京都という地方都市をどのように意識されていたのですか?
岸 :ローカルな建築家になるつもりはまるでなかったので、まずは淡々と仕事をしたいと思っていました。こういう言い方はすごく失礼だと思うのだけど、あるとき、ローマやフィレンツェにはいい建築家がいないんじゃないかって気づいたんです。建築家は、どこかで自己陶酔しないとやっていけない職業なので、自分の仕事を褒めたいのだけれど、例えば京都にいて大徳寺を見ると凄く打ちのめされる。同じことが、ローマやフィレンツェでも起きているのではないでしょうか。つまり、京都にいることを意識しすぎると、自己陶酔できなくなる。京都性のようなものを引きずることは、よくないと思ったんです。そうしたことを意識しながら設計していましたね。だからなのか、ぼくの仕事を評価してくれて、最初に作品集を出してくれたのは、バルセロナの出版社でした。