


堤庸策 / arbolとwalk scapeによる、兵庫・西宮市の住戸改修「Apartment Renovation in Nishinomiya」です。
コロナ禍を経て意識が変化した施主の住まいです。建築家は、“大切な物だけを引寄せる暮らし”を意識し、家具等を引き立てる“円弧”状の天井がある空間を考案しました。また、既存開口の一部は“敢えて閉じる”操作で“魅せるニッチ”としています。
コロナ禍を経て、多くの人が「本当に必要なものとは何か」を見直すきっかけを得ました。この住まいの住み手もまた、自宅という空間に対する意識が大きく変化したと語っておられます。
好きな家具や植物、アートなど、自分にとって大切なものだけを引き寄せる暮らし。それらを美しく引き立て、静かに受け止める背景としての住まいを整えることが、このリノベーションの出発点となりました。
今回のリノベーションでまず取り組んだのが、空間の大きな整理でした。住まい手のご希望は「和室をなくして、光が届く広いリビングにしたい」「細かい仕切りや廊下はできるだけなくしたい」という明快なもの。その意図を受け、既存の間取りを一新し、ワンルームのような広がりと一体感を持たせた空間へと再構成しています。
もともと存在していた和室は撤去し、リビングの一部として取り込みながら、視線と光がのびのびと行き交う空間に。壁ではなく天井に曲線をもたせることで、仕切らずに“場”の気配をつくる工夫も盛り込みました。
天井に描かれた大きな円弧の造作は、空間に柔らかい緊張感をもたらしつつ、光の陰影をやさしく受け止め、家具の輪郭を引き立てる存在になっています。マットな質感の左官調仕上げ「マーブルフィール」と間接照明の組み合わせが、陰影のレイヤーを生み出し、静かな奥行きをもたらしています。
空間全体において、「光が入る広いリビングがほしい」「廊下をなくしたい」「細かく仕切らずにすっきりと」という施主の希望は、空間の構成に大きく影響しました。その中でも、リビング南側の処理は設計上の要所のひとつでした。
もともとこの部分には、マンションの共用部に面した開口部がありました。しかし、そこから見える景色に心地よさはなく、採光の期待も薄い。そこで私たちは、「あえて閉じる」という選択を採用しました。
新たに立ち上げた壁面には、楕円形に切り抜いた開口部を設け、そこにワーロン材のスライド建具を組み込みました。これにより、外の視線や雑多な要素を遮りながら、やわらかい光と奥行き感だけを室内に取り入れることができます。
開口部の奥には、間接照明とTVボードを計画的に配置。テレビや照明を空間に馴染ませながら、まるでアートピースのように“演出する”工夫を施しました。これは、「生活感を隠したい」「機能性と美しさを両立させたい」という住まい手の意図に応えたものであり、“閉じることで魅せる”という、住まいづくりにおけるひとつの逆転の発想でもあります。

















