加瀬谷章紀+綱川大介 / I.R.A.が設計した、東京・足立区の住宅「鍵形の家」です。
駅から徒歩10分程度の敷地界隈は、商店街から住宅街といった町へと変わっていく地域で、ちらほらと商店が残っている中に、住宅だけではなく緑道や公園が整備されている。その一角にある敷地は比較的交通量の多い道路と、歩車分離された小さな管理通路に挟まれた細長い角地。
古くから水路だったこの通路には、緑が生い茂り、住人の生活歩道として利用されていることからか、住宅群は背を向けるように建ち並んでいた。この環境を好んでいた施主に我々は、通路を通して町に開いていく建築を提案することにした。
ローコストでつくる必要があった状況で、まず考えられたのが高騰する防火サッシュを減らすこと。角地という条件はこれを可能にする。十分な建築ボリュームを確保し延焼ラインに沿ってセットバックすると、通路側に斜辺の余剰空間が残った。車庫や駐輪場の要求から、必然とそこに半屋外領域としての屋根がかけられる。
外部との繋がりを意識し、1階にリビング・ダイニング・キッチンといった家族のパブリックな場を配置すると、隣り合わせる半屋外との関係性は平行な斜辺により、起こりうるアクティビティが短調に留まる。そこで建築を鍵形のボリュームに再構築する。
鍵型は内外と入れ子になる空間に多様な場をつくる。またそれぞれの場に相応しい大きさや機能、配置が異なる窓を設えた。
見る、感じる、出入りする、といったようにそれぞれの窓に違った役割を持たせることができる。と同時に、通路へは異なる目的を持つ動線を作り出すことができる。内から外に派生していく視線やアクティビティの連続性が、徐々にこの建築を通路へと開いていく。