SHARE ムトカ建築事務所による、東京・小平市の、住宅改修「天井の楕円」。リビングに挿入された“スーパー楕円形状の穴の空いた天井”は、既存の開口部の在り方を変えると共に、空間の重心を中央に引き寄せ多様な居場所をつくる / 板坂留五による論考「楕円の家」
村山徹+加藤亜矢子 / ムトカ建築事務所が設計した、東京・小平市の、住宅リノベーション「天井の楕円」です。リビングに挿入された“スーパー楕円形状の穴の空いた天井”は、既存の開口部の在り方を変えると共に、空間の重心を中央に引き寄せ多様な居場所をつくります。また、RUI Architectsの板坂留五による論考「楕円の家」も掲載します。
築20年の戸建て住宅のリノベーションである。
オーナーが変わり、夫婦と子供ふたりの家族が新たに住むことになった。
この住宅の最大の特徴は、勾配屋根が架かった45m2の大きなワンルームの2階リビングで、幅3.5×高さ3.7mの南向きの大開口部をもっていることである。この大きなワンルームに、ひとつの極大なオブジェクトを入れることで、人の流れ、力の流れ、風の流れ、光の流れを更新し、新しい家族に合った建築をつくろうと考えた。
そこで南窓の横架材の高さ1.8mのレベルに、スーパー楕円形状の穴の空いた天井を挿入した。
空間の重心が南側に偏っていることで拠り所のなかったリビングの重心を中央に引き寄せ、楕円の回りに多様な居場所をつくった。
以下の写真はクリックで拡大します
こちらは、建築家によるテキストです。
極大の楕円で流れを変える
築20年の戸建て住宅のリノベーションである。
オーナーが変わり、夫婦と子供ふたりの家族が新たに住むことになった。
この住宅の最大の特徴は、勾配屋根が架かった45m2の大きなワンルームの2階リビングで、幅3.5×高さ3.7mの南向きの大開口部をもっていることである。この大きなワンルームに、ひとつの極大なオブジェクトを入れることで、人の流れ、力の流れ、風の流れ、光の流れを更新し、新しい家族に合った建築をつくろうと考えた。
そこで南窓の横架材の高さ1.8mのレベルに、スーパー楕円形状の穴の空いた天井を挿入した。
空間の重心が南側に偏っていることで拠り所のなかったリビングの重心を中央に引き寄せ、楕円の回りに多様な居場所をつくった。
また、天井面が火打ちのように突っ張り、階段のささらがブレースの役割を果たすことで、南窓の筋交いを取り外すことができた。それによって隣の公園との距離が縮まり、内部空間が街に広がっていく。また、天井裏に上り上部の窓を開閉することで換気が可能となり、さらに天井が庇のように働き、夏場の熱負荷が軽減された。
この天井は、木造の床のように厚くもなく、吊り天井のように薄くもない。既存の木造の建築からは自律した実体のあるオブジェクトである。そして、楕円の吹抜けは実体がなく空虚である。2階リビングの床に立つと、高さ1.8mにある厚さ101mmの天井の小口面は、終わりのない1本の線として認識され、地平線のような大きな存在にも見えてくる。
そんな線としてしか認識されない天井は、階段を上り、その天井裏に入り込むことで、はじめて楕円としての幾何学形状が露わになる。人の居場所をつくるためにつくられたはずの天井は、その居場所を僅かに残すのみで、空間いっぱいに吹抜けている。まるで、池べりに佇み、その深い底を覗き込むような感覚である。
板坂留五による論考「楕円の家」
天井の楕円は、タイトルとしてすでにキャッチーで、添付された写真も、ダイヤグラムであり空間であった。一息で理解できそうな気さえしていた。そんなわけで、なんとなくそこで見るであろう風景や感じる経験を頭に浮かべながら訪れたが、実物は想定外に、シンプルかつ複雑だった。
片流れ屋根のワンルームに、キッチン、ダイニングテーブル、ソファ、本棚、おもちゃ、地球儀、時計、色々なものが置いてある。雑然と、ではなく、それぞれの居場所にきちんと座っている印象に近い。あたかも、元からそうであったように馴染んでいて、家族それぞれの過ごし方が想像できた。
そもそもお施主さんは、この物件を中古で購入したけれど、元々あった天井の高い空間になんだか居場所がないと感じ、お二人に相談したらしい。居場所がないかもしれないという判断がすぐにできたこと、それを家具の力ではなく、建築の力を借りて解決を試みたことに、私はお施主さんの魅力を感じた。
その話を聞いてやっと「楕円」のことが思い出される。
視界から楕円に開いたスラブを取ると、、、、、、、家具が自由に動き出す。
南に向いた大きな開口、そこから入る光は刻々と動く、その度にソファが動く、それと一緒におもちゃも動くかもしれない本はもっと散り散りに、いろんな場所で読まれ置かれ、運ばれていく。
すっと楕円を視界に戻す。すると、すっと家具が今の位置に戻ってくるのがわかる。
家具が自由に動き出すというのは、楽しそうでとてもいいようにも聞こえるけれど、ここで暮らす人に対してはどうしても落ち着かなさを与えてしまうようだ。はじめに感じた、それぞれの居場所にきちんと座っている印象は、この楕円が下支えしている。
環境、構造もふまえ選択された「楕円」だが、そのような裏付けがどうでもいいと思えるほどに、家具の配置と人の動きが楕円の挿入の必然性を表していた。
真っ白に抽象化された楕円は、その形自身に機能はなく論理的には一瞬設計者の存在を強く感じるのだが、この家族の暮らしと合わさることでそれ以上の力を発揮している。改めて、建築の力を感じた。
板坂留五(RUI Architects)
■建築概要
題名:天井の楕円
設計:ムトカ建築事務所
担当:村山徹、加藤亜矢子、寺田慎平
所在地:東京都小平市
主用途:専用住宅
施工:エスエス
協力:荒木美香(構造)、オンデルデリンデ(カーテン)
階数:地上2階
構造:木造
敷地面積:110.50m2
建築面積:44.18m2
延床面積:88.36m2(1F: 44.18m2 / 2F: 44.18m2)
竣工:2018年10月
撮影:長谷川健太
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
内装・床 | 2Fリビング床 | 既存フローリングt12 |
内装・床 | 天井裏床 | 長尺塩ビシートt2 |
内装・壁 | 壁 | 既存OSBt9.5 |
内装・天井 | 天井 | シナ合板t3+EP |
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The renovation project of a 20-year-old house, whose most unique character is a large window and pitched roof facing south. Our proposal is to insert another ceiling with a super elliptical void at 1.8m height in the upper floor, where living, dining space and kitchen are located.
This ceiling creates not only the space both above and below this, but also works as structural and environmental element, which make it possible to remove the existing bracing and to let the wind in from the upper part of the window.
This ceiling also exists as an maximal/autonomous object in the exsting context. Therefore the strong form of this ceiling/void could react toward the surrounding situation, physically and metaphysically.
Ceiling and Ellipse
Type: House
Location: Kodaira, Tokyo
Floor: 88.36㎡
Consultant: Mika Araki, Studio Onder de Linde
Contractor: SS
Date: 2018.10
Photo: Kenta Hasegawa