佐藤研吾 / In-Field Studioによる、東京・足立区の、演劇の文化拠点「北千住BUoY」です。職人の仕事ぶりが想起される既存躯体の表情に応えるべく、設備工事以降を設計者が請け負い現場に常駐し職人の横でデザイン、設計施工の間を“溶け合わせ”て具体的な形をつくりだすことが試みられました。現在In-Field Studioは、一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所に改組されています。施設の公式サイトはこちら。
かつての東京オリンピックの年である1964年に、日本住宅公団によって建てられた団地の低層部分を、演劇やパフォーマンスなどのイベントスペースおよびカフェ、ギャラリー、稽古場、そして美術作家による共同スタジオとした改修プロジェクトである。
計画が始まった当初から既に床壁天井のほとんどの内装と設備配管は撤去されており、半世紀が経過した無骨極まりないコンクリートの躯体が露わになっていた。よく眺めてみると、表面はスギ板の型枠による成形だと分かるし、梁は応力に基づいて造形され、天井下地の二次部材の一部が躯体に埋め込まれている。当時の職人の手つき、現場の人々の仕事振りの幻景へと想像を拡げることも、この躯体の中に身を投げ入れてみれば決して困難ではない。
そんな密実な、過去のヒトの気配漂う中に、演劇というヒトの生身が折り重なる新たな文化拠点が生まれた。改修工事では、躯体の表情を覆い隠すのではなく、むしろいかにしてその表情の傍らで新たなモノ・ヒトが応答するか、複数のモノモノ・ヒトビト・モノヒトの混在のさせ方が重要となった。
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以下、建築家によるテキストです。
微細なモノモノを作り出すための請負仕事
かつての東京オリンピックの年である1964年に、日本住宅公団によって建てられた団地の低層部分を、演劇やパフォーマンスなどのイベントスペースおよびカフェ、ギャラリー、稽古場、そして美術作家による共同スタジオとした改修プロジェクトである。
計画が始まった当初から既に床壁天井のほとんどの内装と設備配管は撤去されており、半世紀が経過した無骨極まりないコンクリートの躯体が露わになっていた。よく眺めてみると、表面はスギ板の型枠による成形だと分かるし、梁は応力に基づいて造形され、天井下地の二次部材の一部が躯体に埋め込まれている。当時の職人の手つき、現場の人々の仕事振りの幻景へと想像を拡げることも、この躯体の中に身を投げ入れてみれば決して困難ではない。
そんな密実な、過去のヒトの気配漂う中に、演劇というヒトの生身が折り重なる新たな文化拠点が生まれた。改修工事では、躯体の表情を覆い隠すのではなく、むしろいかにしてその表情の傍らで新たなモノ・ヒトが応答するか、複数のモノモノ・ヒトビト・モノヒトの混在のさせ方が重要となった。
まずいくつかのおおまかな機能配置に従って間仕切壁を配し、電気、水道、空調等の諸設備を新設。ここまでは建設会社に依頼した。それから先の木工事、建具工事、諸仕上げ工事を当方が請け負う形とした。請負体制の調整、分離分割発注はコストコントロールのためであり、またそれを前提にしたデザインに取り組むためである。特に木造作、建具のデザインについては、着工前に詳細な設計図面を揃えずに、現場に机を置き画用紙を並べて常駐し、あらかじめ木材を現場に運び入れ、一人の大工、青島雄大さんの制作を間近にしながらの設計を行った。
設計と施工の間をどう縮め、溶け合わせ、そして具体的なカタチを作り出すか。このプロジェクトでは、設計者が工事を請け負い、現場に常駐して現場でデザインを決め、特定の職人に直接依頼する形式をとった。一つの場に配布した複数の微細な造作を連鎖させていく在り方を考えるためにも、然るべき設計施工体制であったように思う。
■建築概要
題名:北千住BUoY
デザイン:佐藤研吾 / In-Field Studio(現・一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所)
所在地:東京都足立区、日本
主用途:カフェ、イベントスペース、稽古場、ギャラリー、スタジオ
種別:改修
施工:株式会社アセットホーム、佐藤研吾 / In-Field Studio(現・一般社団法人コロガロウ/ 佐藤研吾建築設計事務所)、青島雄大、松本亮
階数:地下1階、地上10階、塔屋2階
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造、一部鉄筋コンクリート造
建築面積:645.31㎡
延べ面積:6,644.52㎡(うち改修部分1,102.5㎡)
設計期間:2016年10月~2017年10月
工事期間:2017年7月~2017年10月
撮影:comuramai、一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所