小坂森中建築 / 小坂怜+森中康彰が設計した、東京の住宅「武蔵野の戸建」です。郊外のゆったりと家が建ち並ぶ街で敷地固有の在り方を目指し計画、周辺と呼応する建物の配置と構えを意図し、内部では空間分節で内外風景が同時に見える体験を生みこの土地を親密に感じさせます。
敷地は、東京のなかでも比較的若々しく明るい雰囲気の街に程近い住宅地に位置し、北東方向には玉川上水沿いの緑道、東には隣接する学校の桜を望むことのできる80㎡ほどの土地。周辺は、建ぺい率40%という条件下、どの住宅もゆったりとした建ち方をしていて、積極的に緑を導入することを推奨する景観ガイドラインによって大きな庭木を纏ったような住宅も多く、敷地西側には複数の住宅の庭がまとまった大きな緑も形成されている。
数年前から近辺に住む若い夫婦が、将来的な展望も明るいこの街に住み続けることを選択し、周辺のそうした要素に魅力を感じて土地を手に入れたことに対して、この土地/敷地ならではの風景を最大限に感じられるような住宅のあり方を考えた。
小さな気積をあえて小さく分節することで、間取りというにはとても断片的でささやかな場所の集合となっているが、結果この住宅では場所場所において複数の室内風景、また外の風景が見え隠れしながら同時に目に飛び込んでくるような体験が生まれている。場所場所のスケールの小ささは、床/壁/天井、また架構のリズムを身体的に親密なものに感じさせ、振れた軸線が成すパースペクティヴの揺らぎがその身体感覚を増幅する。
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以下、建築家によるテキストです。
小さなその場に立って、大きな全体を感じる
敷地は、東京のなかでも比較的若々しく明るい雰囲気の街に程近い住宅地に位置し、北東方向には玉川上水沿いの緑道、東には隣接する学校の桜を望むことのできる80㎡ほどの土地。周辺は、建ぺい率40%という条件下、どの住宅もゆったりとした建ち方をしていて、積極的に緑を導入することを推奨する景観ガイドラインによって大きな庭木を纏ったような住宅も多く、敷地西側には複数の住宅の庭がまとまった大きな緑も形成されている。
数年前から近辺に住む若い夫婦が、将来的な展望も明るいこの街に住み続けることを選択し、周辺のそうした要素に魅力を感じて土地を手に入れたことに対して、この土地/敷地ならではの風景を最大限に感じられるような住宅のあり方を考えた。
まず配置は、隣家との距離感を保ちつつ、周辺に対して四方構えるべく、敷地の中央付近に建物のヴォリュームを据えた。さらに、外壁の角度を部分的に振り、また隅切りを設けることで、隣家との距離感やそのあいだの広がりを一層感じられるものとし、また緑道や桜に対する構えの向きをより明確に示すことを狙った。南北それぞれのオープンスペースには敷地の奥に引き込むように庭木を植え、周辺の緑と連なるようなものとした。
内部の構成は、正方形に近い平面を3×3の9マスにおおよそ分け、そのマスを立体的に陣取り合戦するように、敷地いっぱいの奥行きのある空間、床としては小さいが天井の高い空間など、さまざまなプロポーションの空間を立体的に組み合わせている。そのそれぞれを耐力壁となる間仕切り壁により、断片的に隔てまたつなげていくことで、さまざまな方向に対して抜けのある空間となるようにした。
対して窓は、北東側の緑道、東側の学校の桜、西側の緑といった周辺の要素に向けるように配置し、ときに小さな空間を束ね、ときにつなぐように連ねていくことで、それぞれの空間を超えた広がりを感じられるようにした。
小さな気積をあえて小さく分節することで、間取りというにはとても断片的でささやかな場所の集合となっているが、結果この住宅では場所場所において複数の室内風景、また外の風景が見え隠れしながら同時に目に飛び込んでくるような体験が生まれている。場所場所のスケールの小ささは、床/壁/天井、また架構のリズムを身体的に親密なものに感じさせ、振れた軸線が成すパースペクティヴの揺らぎがその身体感覚を増幅する。壁の向こう、また窓の向こうに広がる大きな全体、その全体を親密なものに感じさせるきっかけとして、それぞれの小さな場所は機能する。
■建築概要
所在地:東京都武蔵野市
主要用途:専用住宅
構造・規模:木造 地上2階建
設計・監理:小坂怜+森中康彰 / 一級建築士事務所 小坂森中建築
施工:山菱工務店
制作家具(ダイニングテーブル、ソファベンチ):石川徳摩 / 石川製作所
外構・造園:森中裕樹+森中彩 / ガーデン三葉
敷地面積:83.08㎡
建築面積:33.19㎡
延床面積:64.59㎡
竣工年月:2019年9月