SHARE 新居千秋都市建築設計による、愛知の「小牧市中央図書館」。駅前に位置し商業開発に依存しない活性化の為に計画、地域を象徴する山を参照し建物を段々と後退させ多様な居場所を創出、内部では地上動線と吹抜を繋げ複雑な光景を生み散策の楽しみを提供
新居千秋都市建築設計 / 新居千秋+吉崎良一+村瀬慶彦+上田晃平が設計した、愛知の「小牧市中央図書館」です。駅前に位置し商業開発に依存しない活性化の為に計画、地域を象徴する山を参照し建物を段々と後退させ多様な居場所を創出、内部では地上動線と吹抜を繋げ複雑な光景を生み散策の楽しみを提供します。施設の公式サイトはこちら。また、この作品についての文章を収録した書籍も末尾で紹介します。
小牧市中央図書館は、市の中心市街地である名鉄小牧駅に位置する50万冊の蔵書を誇る約8700㎡の滞在型図書館である。
名鉄で唯一の地下駅である小牧駅の周辺は、桃花台線が廃線された影響もあり賑わいが少ない状況であった。さらに、駅前に緑が少なく、計画地と駅が階段の歩道橋で分断されていた。この建物が駅前に建設されることで、周辺エリアも活性化し、駅前の賑わいを取り戻すことが本プロジェクトの役割である。
我々は地域の象徴でもある「小牧山」を手掛かりに、駅前に「小さな小牧山」を創ることで、緑溢れる景観を創出し、市民が自由に過ごせる居場所をつくることを目指した。小牧山のように段々状にセットバックされた建物には、テラスや緑化、多様な居場所が点在している。
そして「商業開発依存型の街づくり」から「市民が生きがいを感じられる街づくり」への転換を目指した。そのために、小中高生やPTAを中心とする市民ワークショップを開いて、市民が新図書館に誇りを持てて、域外からも注目されるような「居場所」をみんなで話し合って決めるプロセスを重視して進めた。中には吹抜に階段があり各所に繋がっていくスケッチを描いた高校生もいた。
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以下、建築家によるテキストです。
多様な居場所が散りばめられたサードプレイス
小牧市中央図書館は、市の中心市街地である名鉄小牧駅に位置する50万冊の蔵書を誇る約8700㎡の滞在型図書館である。
名鉄で唯一の地下駅である小牧駅の周辺は、桃花台線が廃線された影響もあり賑わいが少ない状況であった。さらに、駅前に緑が少なく、計画地と駅が階段の歩道橋で分断されていた。この建物が駅前に建設されることで、周辺エリアも活性化し、駅前の賑わいを取り戻すことが本プロジェクトの役割である。
我々は地域の象徴でもある「小牧山」を手掛かりに、駅前に「小さな小牧山」を創ることで、緑溢れる景観を創出し、市民が自由に過ごせる居場所をつくることを目指した。小牧山のように段々状にセットバックされた建物には、テラスや緑化、多様な居場所が点在している。
そして「商業開発依存型の街づくり」から「市民が生きがいを感じられる街づくり」への転換を目指した。そのために、小中高生やPTAを中心とする市民ワークショップを開いて、市民が新図書館に誇りを持てて、域外からも注目されるような「居場所」をみんなで話し合って決めるプロセスを重視して進めた。中には吹抜に階段があり各所に繋がっていくスケッチを描いた高校生もいた。
この建物の構成としては大きく3つのゾーンから成り立っているのが特徴である。1つ目ゾーンは、敷地南側を通るシンボルロード(小牧駅から小牧山に通ずる道路)と敷地北側のイベント会場にもなる歩行者専用道路を、建物中央で南北につなぐ賑わい軸である。そしてその賑わい軸の上部に、各階が連続的に繋がる4層の吹抜空間を配した。賑わい軸に連続するようにカフェやラウンジ、総合案内を配している。また壁面書架で囲まれた吹抜空間の周囲には学習室を点在させた。
2つ目のゾーンは賑わい軸の西側の無柱で矩形の開架スペースエリアである。機能性も重視した排架しやすいエリアで、建物の中では少し静的なエリアに位置付けられる。3つ目のゾーンは賑わい軸の東側の動的なエリアである。多目的に利用できるイベントスペースやそれと連続する外部のイベント広場、読書もできる緑に溢れたテラス空間などを設けている。
一見複雑な空間に感じるが、明快な構成とし各エリアにそれぞれの特性を与えることで、多様な居場所を創出しながらも、図書館としての機能性を確保している。この図書館は見る角度や方向によって多様な視線の抜けが突如として現れ、複雑なシーンが連続する。本との出会いを楽しみながら散策できる場所となっている。
ハイサイドライトからの自然光に満たされた吹抜から見下ろすと、館内の約700の席で各々が自由に過ごす様子が、同時多発的に垣間見え、実に多様性に富んだ居場所となっている。またBDSのセキュリティラインを最大限に拡張し、バルコニーテラスも含めて館内全域に本を持ち出せるのも特徴である。
児童のエリアにおいては、絵本のストーリーに合わせて家具の色や空間のイメージを創り、子ども達が楽しんで本と触れ合える場とした。
自由に散策して楽しみながら本と出会う、そして多様な居場所から自分がとびきり心地よいサードプレイスを見つけられる、そんな図書館になっていくことを期待している。
(村瀬慶彦)
これまでの経緯
本建物は、我々が2017年の7月にプロポーザルで選定され設計に着手するまでにも紆余曲折あったプロジェクトである。それまで進められていた基本設計が住民投票によって白紙撤回された。計画が白紙になった後、市民の意見・図書館のあり方を話し合う為、新小牧市立図書館建設審議会が組織され、新図書館の建設方針を17回にわたり慎重に審議した。2017年6月、その結果を次のように導き出した。
①すべての市民が親しみやすく使いやすい図書館
②市民のさまざまな活動を支援する資料と情報が豊富な図書館
③課題解決のための図書館、情報発信のための図書館
④時代の変化に対応できる図書館
⑤市民参画の機会と場を提供する図書館
⑥人々が集い、行きかい、まちの活力につながる図書館
この六つの基本方針のもとで検討を進め、それらを具現化する提案をし、我々が公募型プロポーザルにて選定された。
空間を実現するために・・・
この建物の特徴でもある吹抜空間を実現するため、仕様規定ではなく性能規定である全館避難安全検証法を用いて計画をしている。天井高がそれほど高くない上に本が多い3、4階の開架スペースは火災荷重が極めて多いため、火災発生時に速やかに外部に避難する必要があった。
本建物は段々状にセットバックしているため、各階にテラスが設けられている。それが外部避難動線としても機能し、速やかに外部へ避難させる経路として実に有効に働いている。また天井のデザインも意匠的な観点だけではなく、天井裏の空間を蓄煙空間として活用するために透かし貼りとし、煙の滞留時間を稼ぐことで、この吹抜空間を成り立たせる上で重要な役割を果たしている。
この建物で一番印象的な吹抜空間、外観を特徴づけるセットバックするテラスバルコニー、見上げた時の表情を決定づける透かし貼りの天井。実はこれらの要素が密接に関わりあって空間を成立させている点も、この建物の面白さの一つである。
内装計画
内装仕上げに関しては、壁面は基本的にクロス貼りの上塗装仕上げとし、コストに配慮しながらシンプルなものとした。そのことで、温かみのある木製の書架や家具が映えるよう意識している。内装で特徴のあるのは天井であるが、素材としてはケイカル板に塗装という極めてシンプルなもので形成している。割付は、書架の配置と照明の位置関係、柱、設備の配置などを総合的に調整しながら現場でも何度も調整した。
施工に際しては、現場で石膏ボードなどと比較できるようにモックアップを製作した。結果、ケイカル板は300幅の既製品があり、エッジも出ていることから、施工性、コストにも有利であるため採用に至った。児童エリアは、天井裏への蓄煙の開放性を高めるため、リズミカルにアルミパンチングパネルと組み合わせることで、表情に変化を持たせている。照明や吹き出しなど、基本全ての設備関係を透かし貼りの隙間に配置することで、天井の流れが強調されたシンプルでありながらも、ダイナミックな表情を創り出す天井となった。また、隙間にはライティングレールを仕込んでおり、照明位置を自由に変えられるフレキシブルさも兼ね備えている。
吹抜廻りで各階で飛び出したエリアのみアルミのルーバーによる天井とし、更に垂れ壁部の厚さを薄くすることで、浮遊感を強調し見上げた時の空間の表情に変化を与えている。
外装計画
この建物は、一見するとS造かRC造かわからないような外観をしている。基本の外装を構成しているのはECPパネル(リブパネル+現場貼りタイルパネルの組み合わせ)であるが、独立して建つ柱の仕上げや各階の周囲をぐるりと回る垂れ壁をコンクリートにて施工しているためである。
周囲を取り巻くバルコニー状の張り出し部分の垂れ壁を乾式で施工しようとすると、それらを支える付帯鉄骨が増え複雑になってしまうため、敢えてRCでつくることで施工性を高め、各階で一周ぐるりと取り巻くコンクリートの帯が段々状の構成を強調した外観を形成している。
また1階の独立した柱も構造自体はS造であるが、耐火被覆も兼ねた75㎜のコンクリート巻きとすることで、細くすっきりとしたプロポーションで構成している。
構造計画概要
本建築物は、鉄筋コンクリート造のような外観を有するが、開架スペースやイベントスペースの無柱空間や、上階へ行くにつれてセットバックするなどの特異な建築形態を実現するため鉄骨造を採用した。地下階は鉄筋コンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)としている。
耐震計画として、大地震時におけるエネルギー吸収性能に優れる座屈拘束ブレースを各層にバランスよく配置することで、十分な耐震性能を確保し、地震後の機能維持を図っている。
建物中央には、4層の吹き抜け空間を有する。吹き抜け部は、各階で多様な跳ね出し床が配され、さらに各階をつなぐ階段が複雑な形態で取り合う。
多様な跳ね出し床は、吹き抜け部の隅部に隅切り状に梁をかけ渡すなどして、実際の跳ね出し寸法をできるだけ短くする工夫をしている。
階段は、25mmの手摺用の鉄板を構造体として用いて、立体的なトラス効果を有する階段を形成し、複雑な形態を実現している。設計段階では、階段の湾曲・屈折部や本体構造との力の伝達に配慮し、歩行振動の検証を行い、使用上の支障のないことを確認している。製作・建て方においては、施工者とのやり取りを重ね、複雑な階段の実現に至った。
(村瀬慶彦)
近隣建物の調査と分析
図書館の計画に関する本は、概して出版までに時間を要する。そのため、図書館を取り巻く目まぐるしい変化に十分対応できていない。ゆえに、市長や行政担当者との意見交換にあたっては、近隣の類似施設を自分たちで調査・分析した上で比較・検討し、それらを新しくデータとしてまとめることが不可欠である。
たとえば、同じスケールで各図書館の図面をまとめ、一般書架・児童書架・事務室などエリアごとに比較を行った。客観的なデータや図書館職員、図書館コンサルタント、そして建設検討会議の委員などの意見から、新図書館の書架や座席の配置、それらの機能などを検討した。プロポーザル選定直後から、新図書館の設計に反映させるために愛知県及び近隣の岐阜県の図書館など、三八館を対象に図面を検討したり、電話等でヒアリングをしたりして分析を行い、実際に現地調査する図書館を選定した。
現地調査では裏方の人たちの意見を聞き、各部屋の大きさを比較し、検討を行った。日本ではこのような地道な調査を行い、コンセプトを作り上げるような「考える」ことが重視されず、こうした作業にあまり価値が見出されていない。そのことが、よい建物を作れない一因ともなっている。一宮市、大府市、安城市、岡崎市、岐阜市、関市、小牧市内のすべての図書館等、そして小牧市の議員が推薦した田原市中央図書館、評判がよい神奈川県の大和市立図書館を見学して分析を行った。現地調査には小牧市の行政担当者や図書館関係者、そして山下史守朗市長も加わった。
こうした比較調査を行うことで、使用目的や近隣図書館とのバランスを考え、適正な面積、座席数などを検討していった。
書架や家具の検討
書架は、スチール製ではなく、温かみのある木製がよいという意見が市民から多数あがっていたので、すべて木製で計画した。詳細な模型や図面をもとに、寸法や色も検討した。施工中は原寸模型を製作し、使いやすいか、危険な箇所はないか確認を行った。何十枚もの色見本を製作し、空間に合うかどうかを、使用する床材も合わせて並べ、家具と色のバランスを市長も含めて関係者と決めた。
備品や可動式家具の検討では、メーカー数十社の中から、コスト・素材・重さなどを私たちの設定した基準に照らして、数百点ほどを選定した。新居と体格が異なるスタッフ四名ほどで、選定した家具の座り心地、使い勝手、危なくないかなどを議論しながら、三〇〇点以上を実際に確認した。選定した八〇点程度の家具を小牧市に送り、エリアやタイプ別に並べて、行政担当者や図書館職員も座ったり、動かしたり、強度を確認したりした。さらに、備品が新図書館に合っているか色味の検討を行った。デザインした家具については、実物大の模型を制作し、見え方、座り心地、照明の付く場所、色合いなど、何度も丁寧に検討した。
空間イメージの重視
各スペースを検討するにあたり、周辺建物も含めて各空間を施工図よりパネル割や形状、サッシなど、図面や模型、パースだけでは理解しづらい細部までモデリングを行い検討した。空間をイメージしやすいように実際の空間を歩いているようなウォークスルーの動画を製作した。小牧市中央図書館は1階から4階までシームレスにつながっていく空間であった為、ウォークスルー動画が非常に役立った。
使用したソフトはモデリングをRhinocerosで行いレンダリングをLUMIONで行った。
(上田晃平)
■建築概要
事務所名:株式会社 新居千秋都市建築設計
建築名称:小牧市中央図書館
所在地:愛知県小牧市中央一丁目234番地
建築主:小牧市
用途:図書館、カフェ、駐車場、自転車駐車場
───
設計・監理
建築:新居千秋都市建築設計 担当/新居千秋、吉崎良一、村瀬慶彦、上田晃平
構造:金箱構造設計事務所 担当/金箱温春 野田賢 安生仁(元所員)
監理:新居千秋都市建築設計 担当/新居千秋、吉崎良一、村瀬慶彦
───
施工
建築:鴻池・三喜特定建設工事共同企業体
設備:太平・ウカイ特定建設工事共同企業体
電気:トーエネック・大栄電設特定建設工事共同企業体
空調:太平・ウカイ特定建設工事共同企業体
───
敷地面積:3803.42m2
建築面積:2711.34m2
延床面積:8702.93m2
建蔽率:71.28%(許容80%)
容積率:179.29%(許容400%)
各階床面積:B1F / 2809.03m2, 1F / 2228.13m2, 2F / 942.86m2, 3F / 1471.12m2, 4F / 1203.58m2, PHF / 48.21m2
階数:地上4階, 地下1階
階高 / 天井高:B1F 4.15m / 2.70m、2.40m 1F 3.5m / 2.3m、5.75m 2F 3.75m / 2.3m 3F 4.45m / 2.40m, 3.00m 4F 4.60m / 2.35m, 3.00m
最高軒高 / 最高高さ:19,010m / 19,660m
駐車台数:57台
設計期間:H29年9月~H31年3月
施工期間:R1年7月~R2年12月
地域地区:商業地域
道路幅員:東16.0m, 南20.0m, 北16.0m(歩行者専用道路)
主体構造:鉄骨造 / 鉄筋コンクリート造
杭・基礎:直接基礎
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | アスファルト防水3層 ポリスチレンフォーム 押さえコンクリートの上コンクリート金ゴテ |
外装・壁 | 外壁 | ECP [押出成形セメント板] +タイル貼り及びECPリブパネルの上フッ素ウレタンメタリック塗装 [パールホワイト] の組み合わせ貼り |
外装・建具 | 開口部 | アルミサッシ |
内装・床 | 児童図書コーナー床 | タイルカーペット |
内装・床 | エントランスホール床 | 石貼り:海波花ジェットバーナー+本磨き パターン貼り |
内装・床 | 一般開架閲覧スペース床 | タイルカーペット |
内装・床 | イベントスペース床 | チーク縁甲板t=15mm 着色ウレタンCL塗装 |
内装・壁 | 壁 | 石膏ボード クロス貼りの上EP塗装 |
内装・天井 | 児童図書コーナー天井 | ケイカル板の上EP塗装 透かし貼り 一部アルミパンチングパネル |
内装・天井 | エントランスホール・一般開架閲覧スペース天井 | ケイカル板の上EP塗装 透かし貼り |
内装・天井 | イベントスペース天井 | アルミメッシュ天井:艶消し黒色EP塗装 |
※企業様による建材情報についてのご意見や「PR」のご相談はこちらから
※この情報は弊サイトや設計者が建材の性能等を保証するものではありません
本建築の取り組みが紹介された書籍『市民とつくる図書館』
市民がまちづくりに取り組む方法には、「参加」と「協働」が挙げられ、近年、この方法を用いて、公立図書館を計画・設計・運営する事例がみられる。図書館の事例における「参加」とは、図書館の理念、基本計画や基本設計など図書館の設置にかかる一連のロセスに市民が行政や設計者などと主体的にかかわることを指す。他方、「協働」とは、図書館開館後も市民が継続して図書館活動を支援していくために行政と役割分担しながら協力していくことを指す。本書は、特に市民が図書館活動に参加・協働する状況を「市民とつくる図書館」と捉えて、関係者として携わった方々による具体的な取り組みを紹介することで、各図書館の開館に至るプロセスを明らかにする。
この本に関しては、第1章に弊社設計の大船渡市立図書館(執筆:新居千秋)、
第2章に小牧市中央図書館(執筆:新居千秋/上田晃平)
がそれぞれ執筆いたしました。
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市民とつくる図書館
出版社:勉誠出版