DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる
photo©長谷川健太

DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる

DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太

元木大輔 / DDAA土井伸朗 / SOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の、複合施設「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みました。施設の公式サイトはこちら

ヒロッパは、長崎県波佐見町で磁器を企画製造する企業・マルヒロが立ち上げた、広さ4,000平方メートルほどの施設。いただいたオーダーは、「県外から訪れる焼物ファンだけでなく、地元の住民や子どもたちも集まるような、自然な賑わいが生まれる場をつくりたい」というものだった。「ヒロッパ」という最高な名前をつけたのはマルヒロの方々だったが、「広場」や「原っぱ」のような響きもあって、この空間にぴったりなように感じた。まさに「原っぱ」の考え方でこの施設をデザインしていきたいと思ったのを覚えている。

建築家によるテキストより

ヒロッパでは、こうした「遊園地」的なつくられ方のあまりよくない側面を避け、なんとかして遊具の新しい形式を発明できないかと試行錯誤した。しかし結局、安全基準のために、最終的にはお決まりの遊具に収束してしまった。

そこで、新しい遊具を考えるのは一旦ストップして、できるだけ根源的な状況から考え直してみることにした。たとえば、すべり台をつくるのであれば、「滑ると楽しい」という本質的で根源的なコンセプトないし気づきからスタートする。そこから、「滑る」を何か別の状況で再現できないかと考える。遊びとは遊具の形によって決められた行為ではなく、「目的もないのに楽しい」という事実を発見した時に生まれるものだったはずだ。

建築家によるテキストより

最終的に僕たちがデザインしたのは、遊具というよりも「地面」そのものだった。人が腰かけたり、滑ったりするための「きっかけ」を地面に与えてみたのだ。たとえば、土を盛って斜面をつくりつつ、その上部に日陰をつくるためのパーゴラ(植物を絡ませられる日陰棚)も設置する。傾斜地を下ったところには、廃品の陶器を細かく砕いた砂を敷き詰め、砂遊びができるビーチを設けた。浅く水を貯めれば波打ち際のようなじゃぶじゃぶ池もつくれるし、夏には水をたくさん貯めて水遊びもできる。

「地面の操作」というアイデアに至った経緯としては、遊具の制作費が思いのほか高く、土の移動だけで済むやり方がコスト上とても有利だったという現実的な事情もありつつ、「遊具のある公園」よりももう少しプリミティブな広場を考えてみたいと思ったことが大きい。地形に様々な特徴を与えることで、広場そのものに対して、様々に解釈可能な「原っぱ」として質を持たせたいと思ったのだ。

建築家によるテキストより

HIROPPAの広場

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DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
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DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太

建築家によるテキスト

僕たちが興味をもっているのは「いかに多様な使い方ができる未完成品=いい原っぱをつくれるか」ということだ。可能なら、そこにプロダクトとしての完成度、つまり「いい遊園地」性も求めたい。ただの「原っぱ」だと、利用者がばらばらに遊んでいるだけで全体性が乏しくなってしまう。やはり、何らかの体験の質をデザインするような作為がそこにはあって欲しい。「いい遊園地」の役割は、「原っぱ」の参加可能性に導かれた人々にとってのロールモデルとして機能することだと思う。とはいえ、それが「原っぱ」のよさである自由を阻害するものであってはならない。そのバランスをいかに取るかが、これからの課題になる。

そんなことを考えながら取り組んだプロジェクトが、広場、店舗、カフェで構成された複合施設「ヒロッパ」の総合計画だ。ヒロッパは、長崎県波佐見町で磁器を企画製造する企業・マルヒロが立ち上げた、広さ4,000平方メートルほどの施設。いただいたオーダーは、「県外から訪れる焼物ファンだけでなく、地元の住民や子どもたちも集まるような、自然な賑わいが生まれる場をつくりたい」というものだった。「ヒロッパ」という最高な名前をつけたのはマルヒロの方々だったが、「広場」や「原っぱ」のような響きもあって、この空間にぴったりなように感じた。まさに「原っぱ」の考え方でこの施設をデザインしていきたいと思ったのを覚えている。
とはいえ、プロジェクト開始当初から「原っぱ」的につくろうと思えていたわけではなく、遠回りのスタディもたくさん行った。最初は「原っぱ」ではなく、公園と遊具をつくろうとしてしまったのだ。

なぜ公園と遊具ではだめなのか。すでに批判され尽くしているきらいもあるが、現代の多くの公園には、注意書きの書かれた看板がいくつも立てられている。コンセプチュアル・アートかなと思うほどに、ほとんどすべての行為が禁止されている公園も存在する。また、公園に置かれる遊具にも様々な制約が課せられていて、事故が起こるたびに業界内で新たな安全基準が設けられている。危険と判断された遊具は撤去され、次につくられる公園や広場では採用されなくなっていってしまうのだ。この安全基準においては、ブランコは「揺動系遊具」、シーソーは「上下動系遊具」といったように、遊具はカテゴリーで分類されている。柵はこうしましょう、金具はこれを使いましょうといった制限もカテゴリーごとに定められる。こうして「この遊具はこのように遊ぶ」というルールが先行して決められてしまうと、遊びは形骸化して画一的なものになってしまう。なのでヒロッパでは、こうした「遊園地」的なつくられ方のあまりよくない側面を避け、なんとかして遊具の新しい形式を発明できないかと試行錯誤した。しかし結局、安全基準のために、最終的にはお決まりの遊具に収束してしまった。

そこで、新しい遊具を考えるのは一旦ストップして、できるだけ根源的な状況から考え直してみることにした。たとえば、すべり台をつくるのであれば、「滑ると楽しい」という本質的で根源的なコンセプトないし気づきからスタートする。そこから、「滑る」を何か別の状況で再現できないかと考える。遊びとは遊具の形によって決められた行為ではなく、「目的もないのに楽しい」という事実を発見した時に生まれるものだったはずだ。

最終的に僕たちがデザインしたのは、遊具というよりも「地面」そのものだった。人が腰かけたり、滑ったりするための「きっかけ」を地面に与えてみたのだ。たとえば、土を盛って斜面をつくりつつ、その上部に日陰をつくるためのパーゴラ(植物を絡ませられる日陰棚)も設置する。傾斜地を下ったところには、廃品の陶器を細かく砕いた砂を敷き詰め、砂遊びができるビーチを設けた。浅く水を貯めれば波打ち際のようなじゃぶじゃぶ池もつくれるし、夏には水をたくさん貯めて水遊びもできる。

「地面の操作」というアイデアに至った経緯としては、遊具の制作費が思いのほか高く、土の移動だけで済むやり方がコスト上とても有利だったという現実的な事情もありつつ、「遊具のある公園」よりももう少しプリミティブな広場を考えてみたいと思ったことが大きい。地形に様々な特徴を与えることで、広場そのものに対して、様々に解釈可能な「原っぱ」として質を持たせたいと思ったのだ。

また一方、風景を引いてみた時には、不自然に直線的な稜線や、グラデーション状に機能が変わる斜面、ベンチとして使える真っ赤な三角形の穴など、自然の中ではあり得ない特殊なランドスケープが浮かび上がるようにデザインしている。この部分については、「遊園地」的なデザインも意識した。ヒロッパ自体もまだ完成というわけではなく、現代進行形のプロジェクトで、今後も様々な使い方や施設が追加されていく計画がある。竣工して完成ではなく、ここからまた変化していくことを前提にしており、増改築にも対応可能なつくりになっている。この点はアアルトの分散型規格化に大いに影響を受けており、つまりヒロッパは、ここまでに議論してきたような内容をすべて詰め込んだプロジェクトともいえるだろう。

これからのプロジェクトにおいても、「遊園地」と「原っぱ」を両立するようなあり方を探していきたい。言い換えれば、プラットフォームかコンテンツかどちらかだけを設計するのではなく、どちらもつくりたいということだ。みんながおのおの好き勝手に過ごしているのに、全体性が失われていない状態。高い質が確保されているのに、参加可能性が残されている状態。要するに、Stool 60のような状態を目指したい。

『元木大輔/ DDAA LAB Hackanility of the Stoo スツールの改変可能性』より抜粋

■概要

施主:マルヒロ
所在地:長崎県波佐見町
用途:広場
建築設計:DDAA / SOUP DESIGN Architecture
プロジェクトチーム:元木大輔 / 村井陸 (DDAA) / 土井伸朗 (SOUP DESIGN Architecture)
構造設計:yasuhirokaneda STRUCTURE
施工:上山建設、西海園芸
構造:木造
敷地面積:3947.99m²
延床面積:2727.96m²
竣工:2021年8月
撮影:長谷川健太


HIROPPAの建築(店舗・カフェ)

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DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo courtesy of マルヒロ
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DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる photo©長谷川健太

建築家によるテキスト

完成しない、ということに興味がある。建築に限らず、プロダクトからランドスケープまで、竣工や完成をピークとするのではなく、その後の更新や参加可能性が残されていることで、変化や様々なノイズを受け入れることのできるおおらかな質に魅力を感じている。プロジェクトの完成度は重視しつつも、完成してしまうことでプロジェクトが元々持っていた可能性がひとつの価値観に収束してしまうことなく、オープンに広がっていく可能性を残してデザインできないだろうか。

昨年、モダニズムのマスターピースの一つ、アルヴァ・アアルトがデザインしたStool 60をもう一度「未完成品」ととらえなおし、小さなテーブルやキャスターを付けたり、高さの調節などの機能や役割を追加する100パターンのアイデアを発表した。Stool 60に代表されるモダニズムのデザインは、最大公約数的にできているけれど、決して万能ではない。この「Hackability of the Stool」 (スツールの改変可能性)というプロジェクトは、その最大公約数なデザインの過程で削ぎ落とされてしまった、多様で、ニッチで、ささやかな機能を付加していくものだ。モダニズムや大量生産品の良いところはキープしたまま、地域差や個人差といった変数を加え、多様性を担保することはできないか。これは、モダニズムが席巻した後の均質化した世界を生きる僕たちにとっては、とりわけ切実な問題に感じている。100パターン以上の多様な改変を許容してくれるStool 60のように、人々に多様なアクティビティを促し、オープンエンドな参加可能性が担保されている魅力的な空間やプロダクトは設計可能なのか、という関心に基づいて設計したのが、このHIROPPAとおうちというプロジェクトだ。

地場産業を公園から盛り上げる
江戸時代から陶磁器づくりが盛んで、現在も住民の約3割が焼き物づくりに関わるという長崎県波佐見町。この地域を代表する企業であり、陶磁器の企画・販売を手がける「マルヒロ」より、複合施設的な店舗の設計依頼があった。興味を惹かれたのは、彼らのプランに「公園」が含まれていたことだった。遠方から訪れる焼き物ファンだけでなく、地場産業を支える地域の人々も自然に集まり、波佐見焼やさまざまな文化を身近に感じられる場をつくりたい。それを実現できるのは、単一の目的しか持たない店舗や博物館ではなく、多様な目的を受け入れられる寛容さをもった「公園」なのではないか。マルヒロのそんな考えに強く共感した。

厳密にいえば、私企業がつくる空間は「公園」ではない。それでも老若男女誰でも自由に入れて思い思いに過ごせる開かれたあり方や、地域のためにつくられているという公共性はまさに「公園」の持つ性質といえる。そんな場所で生まれる何かが、めぐりめぐって地域や地場産業を盛り上げ、後継者不足や売上の減少といった課題の風向きを変えるかもしれない。

「地面」を多様に解釈する
マルヒロからのオーダーを空間に落とし込み、多様な目的を受け入れられる寛容さをもつ空間の質を作るべく、あらゆるレイヤーにおいて「オープンエンド」な設計を試みている。HIROPPAは店舗やカフェ、キオスクとトイレからなる「建築」と敷地の大半を占める「広場」、そして両者をつなぐ中間項の「パーゴラ」から構成されている。どのエリアについても、「利用者の過ごし方や場の使われ方」、「場の雰囲気や空間の質」、「構法や構造」にかんして、特定の機能やコンセプトに集約されない開かれた状態をキープしたい。

広場については、たとえば、すべり台をつくるのであれば、「滑ると楽しい」という本質的で根源的なコンセプトからスタートする。そこから、「滑る」を何か別の状況で再現できないかと考える。遊びとは遊具の形によって決められた行為ではなく、「目的もないのに楽しい」という事実を発見した時に生まれるものだったはずだ。最終的に僕たちがデザインしたのは、遊具というよりも「地面」そのものだった。人が腰かけたり、滑ったりするための「きっかけ」を地面に与える。たとえば、土を盛って斜面をつくり、その上部に日陰をつくるためのパーゴラを設置する。傾斜地の下には、廃品の陶器を細かく砕いた砂を敷き詰め、砂遊びができるビーチになっている。浅く水を貯めれば波打ち際のようなじゃぶじゃぶ池もつくれるし、夏には水をたくさん貯めて水遊びもできる。「地面の操作」というアイデアに至った経緯としては、遊具の制作費が思いのほか高く、土の移動だけで済むやり方がコスト上とても有利だったという現実的な事情もあるのだが、「遊具のある公園」よりももう少しプリミティブな広場を考えてみたいと思ったことが大きい。地形に様々な特徴を与えることで、広場そのものに対して、様々に解釈可能な「原っぱ」的な質を持たせたいと思ったのだ。

内と外をつなぐパーゴラ
店舗とカフェについては、まず広場と建築をつなぐ中間領域としてのパーゴラを中心に考えていった。パーゴラはHIROPPA全体のエントランス、カフェと広場をつなぐような形で配置されているほか、広場の高台にも設けられている。

広場は日陰が少なく、日差しの強い日は大人にとってはつらい。しかし、そこで単なる日よけや建物をつくってしまうと、大人がそこから出なくなることは容易に想像できる。そこで日よけとして、子どもと大人のスペースをほどよく混在させられる「建物未満」のパーゴラを高台に設置することにした。パーゴラの中には桜などの季節を感じる樹種を植えており、木々が成長することで木漏れ日を楽しめる日陰のスペースになる。パーゴラの2階部分には子どもたちが遊べるハンモックを設けており、壁にシーツなどをかぶせればイベント時にプロジェクターで映像を投影することもできる。

エントランス付近については特に、中と外の境界や仕上げの範囲を丁寧にずらすことで、パーゴラと建築の境界が曖昧になり、連続性が生まれるようにデザインした。カフェのカウンターはそのまま広場に延び、テラス席のテーブルになっている。テラスの地面には陶石(磁器になる前の石)が敷き詰められ、それがそのままカフェカウンター周辺の床にも敷き込まれている。さらに、外と同じように、その床に直接植物を植えた。カフェスペースのカウンター周辺は、テントを間柱に直付けしている。テントのジッパーを開け放つと、サッシがないことで架構だけのパーゴラのような佇まいになる。また、屋根もパーゴラに折半屋根を乗せただけのつくりにすることで、明確な内外の境界をつくらないように納めた。

構法もオープンエンドに
パーゴラと建築は、つくり方についても在来工法に拠らず、DIYの延長のような技術的にも開かれた構法を構造家とともに考えた。構造材はプレカットをせず直線カットのみで加工し、材どうしを沿わせて止めるだけのつくりにしている。在来工法のように仕口の加工がなく、シンプルな加工のみで特殊な技術も必要としない。また、パーゴラには、パッションフルーツやキウイといったつる性植物を植えている。生長とともにパーゴラ屋根のルーバー状の垂木につるが絡まり、やがて実もなる予定だ。将来梁や柱が腐食した場合も、ボルトやビスを外すだけで架構を1本単位で交換することができる。

内装についても同様、空調用のスパイラルダクトを使った台やオフィスの床材に用いられるOAフロアを転用した什器は既製品のモジュールでできているため、必要に応じて簡単に縮小や拡張ができる。二期、三期と拡張を続けていく予定のHIROPPA、そのカフェが最終的に「オープンエンド」と名付けられたのは、可変性をもたせたいという思想の象徴といえるかもしれない。また、「公園」をつくるというアプローチは波佐見町に限らず、全国のどこにでも応用できる。このアイデア自体がいわばオープンエンドに広がっていき、日本各地によい公園が増えていったら面白い。

(新建築2022年3月号のためのテキストより抜粋)

■概要

施主:マルヒロ
所在地:長崎県波佐見町
用途:店舗・カフェ
建築設計:DDAA / SOUP DESIGN Architecture
プロジェクトチーム:元木大輔 / 村井陸 (DDAA) / 土井伸朗 (SOUP DESIGN Architecture)
構造設計:yasuhirokaneda STRUCTURE
施工:上山建設、西海園芸
構造:木造
延床面積:288m²
竣工:2021年8月
撮影:長谷川健太


「人工芝クッション」と「△ハイスツール」

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DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる人工芝クッション photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる人工芝クッション photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる人工芝クッション photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる△ハイスツール photo©長谷川健太
DDAAとSOUP DESIGN Architectureによる、長崎・波佐見町の「HIROPPA」。企業が立ち上げた広場・店舗・カフェからなる施設で、“自然な賑わいが生まれる場”の要望に対して様々に解釈可能な“地面”をデザイン、特殊なランドスケープも組み合わせ“原っぱ”と“遊園地”の両立を試みる△ハイスツール photo©長谷川健太
■概要

人工芝のクッション
用途:クッション
デザイン:DDAA LAB
プロジェクトチーム:元木大輔 / 村井陸
完成年月:2019年9月
Photo:長谷川健太
───
△Stool
用途:クッション
デザイン:DDAA LAB
プロジェクトチーム:元木大輔 / 村井陸
完成年月:2021年8月
Photo:長谷川健太

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私たちはこうした「シェアする場をつくる」ために、「そこにどんな営みを作り出すか」を突き詰めます。ハードとソフトの双方を捉え、それぞれの場に相応しいコンセプトとデザインを提案しています。プロジェクトによっては企画から提案を行い、人の生き方に多様な選択肢を生み出す建築を提案しています。
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text:辻琢磨

 
 
思い描いていた「修行」ではなかった3年間

2019年の4月から渡辺事務所での勤務が始まり、3年が経った。
勤務の日は朝8時に家を出て、息子を保育園に預け、天竜川沿いを走り、9時に出社、18時に退社。ざっとこの堤防を200往復以上、累計1800時間を超える非常勤職員の生活は、今振り返ると大変充実した時間だった。

当初は「修行」と銘打って週2-3回の勤務を想定していたが、二年目からは名古屋造形大学の特任講師の仕事が始まり、継続して403architecture [dajiba]のプロジェクトも動いていたこともあり、お茶汲み/電話取り/玄関対応は続けたものの、最終的には週1勤務となった。当初想定していた図面や申請図書の作成、拾いといった下積み業務は一年目こそ関われたが、週一勤務では断続的になってしまうため継続的には担うことがなかなかできなくなった。

代わりに、所内でその時に抱える大小様々な課題を渡辺さんやスタッフと一緒に解決するための打ち合わせが増え、あるいは現場に一緒に行き、設計監理業務を手伝うことも自分の役割の一つとなった。その他に、プロジェクト初期の案出しや、建築賞の応募資料の作成、所々の図面修正、断続的な法規チェック、外部打ち合わせへのスポット参加、書類提出や買い出しなどの庶務、など、ちょっとずつ事務所を助けるような役回りに自然となっていった。


建築家の重たい悩み

中でも一番大きかった業務?が渡辺さんとの昼食である。
スタッフ3名(2022年3月時点)の事務所規模では考えられない量の膨大な仕事に追われる渡辺さんの、その時その時の悩みや困りごと(もちろんたわいもない話もしたし僕の相談にもたくさん乗ってもらった)を聞くという役まわりである。

当然ここでは話せない内容が多いのだが、実はそこでの話が最も勉強になったのかもしれない。渡辺さんの重たい悩みを聞くたびに、あぁ自分がもしこんな大変な状況に出くわしたら無理だな、建築とはなんと大変な仕事なんだろう。と自分の建築に対するハードルが日増しに高くなっていった。そういう厳しい現実をお昼に聞いた帰り道は、運転しながら、なぜあんな大変なのに渡辺さんは建築を続けるのだろう、と渡辺さんの建築のキャリアに思いを馳せた。

建築へのモチベーションがどこから来るのか。渡辺さんと話す時にいつも辿り着く最終的な結論(極論)は二つ。
「建築が好きだから」と「人生の間が持つから」。純粋無垢な少年のようで、同時に山にこもった仙人の言葉にも見える渡辺さんの結論に、二人で毎回笑った。


価値観の混乱

渡辺さんの建築、建築家としての印象は、(入札というキラーワードも相まって)地方で土着的に地道にクオリティの高い建築をつくる、という受け取られ方が多いだろう。つまりこれははっきり言えるが、世界でグローバルに活躍しあっと驚く革新的な建築をつくるような、雑誌の誌面を賑わせるようなたぐいの建築、建築家ではない。
しかし、3年間、渡辺さんを、渡辺さんがつくる建築を間近で見てきて、自分にはその両者の間に差や線引が本当にあるのか、わからなくなった。一言で言えば、良い建築、目指すべき建築がわからなくなってしまった。

建築家が違えばディテールも違う、届けられる媒体も違うし、当然建築の形態も違う。施工者やクライアントとの関係性の作り方も違う。共通するのは、苦労をしてでもより良い建築を建てたいという意志だ。その意志に優劣はつけられないだろう。あるいは街場の大工だって工務店だって、組織設計事務所だって、スーパーゼネコンだって、与えられた土俵の中でより良い建築(建物かもしれないけれど)をつくろうとしているはずで、そうだとしたら、建築家か組織か、設計者か大工か、という違いは少なくとも僕からは消え失せる。

日本で建築教育を受けると、何故か建築家のつくった建築が一番良いという価値観に、設計が優秀な人ほど染まっていく傾向があるように思う。そして少なくとも僕は(決して優秀な学生ではなかったが)そういう価値観を持った学生だった。

その価値観は今でも僕に根付いて自分の建築観を支えてくれているが、3年間、渡辺さんの不思議なスタンスに触れ続けたことで、ともかくキャンセルされたのである。キャンセルされて価値観がゼロになったというよりも、フラットになったという感覚が近い。

村山徹と杉山幸一郎による連載エッセイ ”今、なに考えて建築つくってる?” 第2回「サステイナブルであること、その正しさ」
村山徹と杉山幸一郎による連載エッセイ ”今、なに考えて建築つくってる?” 第2回「サステイナブルであること、その正しさ」

「今、なに考えて建築つくってる?」は、建築家の村山徹と杉山幸一郎によるリレー形式のエッセイ連載です。彼ら自身が、切実に向き合っている問題や、実践者だからこその気づきや思考を読者の皆さんと共有したいと思い企画されました。この企画のはじまりや趣旨については第0回「イントロダクション」にて紹介しています。今まさに建築人生の真っただ中にいる二人の紡ぐ言葉を通して、改めてこの時代に建築に取り組むという事を再考して頂ければ幸いです。
(アーキテクチャーフォト編集部)


第2回 サステイナブルであること、その正しさ

text:杉山幸一郎

 
 
はじめまして、杉山幸一郎と言います。
本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせてください。

スイスアルプスの麓にあるクールという(涼しげな笑) 街で生活し始めて8年目になりました。昨年夏にピーター・ズントー事務所を退所して以来、大学で教える傍ら、パートナーの土屋紘奈と共に自身の事務所を設立し建築設計活動をしています。

実は、度々友人から、「日本に帰ってこないの?」「なんでチューリッヒやバーゼルといった都市に引っ越さないの?」と尋ねられることがあります。たしかに。ズントー事務所があったからクールに住み始めたので、ここに留まる本来の理由はなくなったのかもしれません。

ピーター・ズントーはスイス有数の国際都市である彼の地元バーゼルでもなく、チューリッヒでもない、人口千人の村ハルデンシュタインを拠点にして世界中でプロジェクトを行なっています。そうした彼の生活の仕方、働き方を見ていると、もっと自由に好きなところで生活していっていいんだよ。と言われたような気がして。

ここからチューリッヒでも、日本でも活動できる。片足をついているのがたまたまアルプスの街クールで、もう片足はピボットのように自由に動けるままにすることもできるんじゃないか。と今のところは考えています。とはいえ、数年後全く違ったことを言っている可能性もあるので、その時は笑って許してくださいね(笑)。

昨年まで連載していた全10回のエッセイ「For the Architectural Innocent」から、今年はムトカ建築事務所の村山徹さんとともに執筆することになりました。タイトルにあるように、今まさに考えていることをそのまま文章に起こしていくつもりです。

ムトカ建築事務所と、僕たちの建築設計事務所atelier tsuの活動は、どちらも建築を通して世の中に貢献しようと試みている。けれども異なるアプローチをとっていると思います。たぶん、だからこそ、お互いに刺激し合えるんだろうと。その辺をもっと知っていくことも、この対談エッセイで楽しみにしています。


第1回を読んで。コスト感覚の身につけ方

村山さんのエッセイで、「何をすればいくら掛かるかを瞬時に判断できる建築コストの感覚を身につける」という話がありました。なるほど、竣工した建築を見にいく機会が減ってきて、コストを気にして見ていた経験も少なかった自分にとって、感覚を養う話から始まり、2つのプロジェクトを通して丁寧に説明された文章からは、たくさんの気付きをもらいました。

そもそも、ペインターハウスという可愛らしくも力強い住宅が、そういう背景でできていたなんて知らなかったし、言われないとローコストで建てられたなんて、全く思えません。

ところで、、スイスではどんな風にコスト感覚を身につけているの?
どうやって総工費を試算したり、設計料を決めるの?という疑問に少しだけ応えてから本題へ移っていこうと思います。

以下の写真はクリックで拡大します

村山徹と杉山幸一郎による連載エッセイ ”今、なに考えて建築つくってる?” 第2回「サステイナブルであること、その正しさ」『werk bauen+wohnen 5.2020』より。赤線部分は筆者が加筆。
村山徹と杉山幸一郎による連載エッセイ ”今、なに考えて建築つくってる?” 第2回「サステイナブルであること、その正しさ」『werk bauen+wohnen 5.2020』より

僕が建築コストに関して得ている情報源の一つは、スイスの建築雑誌『werk, bauen + wohnen』の巻末ページに紹介されているプロジェクトです。公共、民間建築問わず、基本図面、矩形図から面積、総工費までの情報がまとめられています。

少しだけ項目をチェックしていきましょう。
赤でマークしてある箇所を見てください。例えば「1-9 Erstellungskosten total」は設計料含む総工費になります。約19億のプロジェクトです。1-6という番号は、BKP(建設コストプランニング)による分類でスイス共通です。設計図書や図面番号でこの番号を使います。

下のパラグラフにある「Gebäudekosten /m2」を見ると3047スイスフラン/m2となっています。三月末現在のレートでは40万円/m2くらいでしょうか。

その他にも建物の延べ床面積、そのうちどの範囲が暖房設備/有断熱なのか。など、細分化された情報がわかります。設計しているプロジェクトに似た用途と規模の建物を調べれば、あらかじめ大まかに全体像を把握することができます。
最近オープンした「werk-material」にもウェブデータベース化されていて、必要な情報を選んで探すことが可能になっています(有料)。

このように、建築における多くの事柄、とりわけ建設工程におけるコストの振り分けや、対応する建築スペックがわかり、効率よく建てられているかも明快です。だからこそ、建築家は建築をできるだけ理にかなった規模で、用と美を満たしながら、それでいて新しいライフスタイルを提案することが求められているのです。このテーマに関しては、後にもう一度帰ってこようと思います。

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