長谷川駿+猪又直己 / JAMZAと小林千尋+KEIYO DESIGNが設計した、千葉・船橋市の、医療複合施設「船橋のこどもクリニック」です。
農地と宅地が混在する場に計画、現在の大らかな風景に馴染みつつ将来の宅地化にも前向きに作用する、未来の街並みを導く建築が目指されました。
これは、千葉県船橋市の駅から少し離れた農地と宅地が混在するエリアにおける、子どもの医療と福祉の両面をサポートする新たな複合建築の計画である。
医療と福祉の垣根を越えて、子育ての様々な課題に応えたい、という事業者の想いのもと、小児科診療所、 調剤薬局、 病児保育事業、医療的ケア児の受け入れ事業(児童発達支援・放課後等デイサービス)を一つの建物の中に集約し、それぞれの機能が重なり合い全体が緩やかに繋がる、一体的な場をつくることを試みた。
敷地は、東葉高速線の東海神駅と飯山満駅の中間あたりの市街化調整区域で、南西に低地が広がり、北東には舌状台地が控える。
農地と雑木林、高架鉄道、幹線道路に囲まれた中に宅地が点在し、郊外の駅圏外の風景が広がる場所である。一方で、2026年に新駅が敷地付近に建設される予定であり、それにともなって周囲も宅地化されていく計画が描かれている。このような大きな転換を迎える敷地において、現在の広大な農地に馴染む建ち方を模索するとともに、これからの開発に対しても何か少し前向きに作用できるような建ち方ができないかと考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
未来の街並みを導く布石としての建築
これは、千葉県船橋市の駅から少し離れた農地と宅地が混在するエリアにおける、子どもの医療と福祉の両面をサポートする新たな複合建築の計画である。
医療と福祉の垣根を越えて、子育ての様々な課題に応えたい、という事業者の想いのもと、小児科診療所、 調剤薬局、 病児保育事業、医療的ケア児の受け入れ事業(児童発達支援・放課後等デイサービス)を一つの建物の中に集約し、それぞれの機能が重なり合い全体が緩やかに繋がる、一体的な場をつくることを試みた。
敷地は、東葉高速線の東海神駅と飯山満駅の中間あたりの市街化調整区域で、南西に低地が広がり、北東には舌状台地が控える。
農地と雑木林、高架鉄道、幹線道路に囲まれた中に宅地が点在し、郊外の駅圏外の風景が広がる場所である。一方で、2026年に新駅が敷地付近に建設される予定であり、それにともなって周囲も宅地化されていく計画が描かれている。このような大きな転換を迎える敷地において、現在の広大な農地に馴染む建ち方を模索するとともに、これからの開発に対しても何か少し前向きに作用できるような建ち方ができないかと考えた。
いま、目の前に広がる農地には、生業としての農の風景に加えて、週末にはボーイスカウトの子どもたちが畑作業をするなど、活き活きとした活動が息づいている。現在の大らかな環境の質を残しながらも、未来の街並みを導く布石となる建築の在り方とは何か。この問いを前提に、私たちは大きく3つの視点から設計を行った。
一つめは、現在の農地と将来の住宅地の双方に対峙し、風景を引き継ぐ佇まい。
本計画で求められる必要諸室を合わせると延床面積は約500㎡となり、現在の農地や将来ありうる住宅地の風景に対しては大きなボリュームになりかねない。
そこで、敷地に沿って角度を振った2つのボリュームを噛み合わせ、前面道路側に下屋を作り、屋根を重なり合うように分節することで、周囲に対して圧迫感を抑える建ち方とした。さらに、大きな下屋の屋根は外壁面に対して角度を振ることで軒先を2.1m程度まで下げ、広い軒下空間を作るとともに向かいの農地からの連続を意識させている。
広大な農地を引き込む大きな下屋と、将来の街並みに呼応する分節された屋根の連なりが、現在と未来いずれの風景の一部としても親和性を持ち、大らかさを未来に引き継ぐ一助となることを考えた。
加えて、約30mの長い接道面は、周囲の雑木林の樹種から選定した細長い植栽帯とすることで、交通量の多い前面道路との緩衝帯として機能させつつ、古くからある地域の雑木林を道沿いの風景として再編することを試みた。
二つめは、内外・各機能を横断するバッファーの設計。
重なり合う軒下を各機能の入口を繋ぐ半屋外の動線とし、大きな下屋の軒下には内部の待合室の延長となる「軒下まちあい」を計画した。感染リスクを抑えつつ周囲を眺めながら過ごすことができ、道行く人々を迎え入れる、子育て交流の中心にもなる場である。
仕上げは、天井のヒノキ合板を内外連続させ、外壁やそこに造り付けたベンチには木材を使用し、床はムラのある赤褐色に染色することで、温もりを感じる居心地の良い半屋外空間を作っている。
軒下の半屋外動線と軒下まちあいが、各機能を緩やかにつなぐバッファーとなるだけでなく、活動が外部に溢れ出し、風景として現れることで、半屋外空間のアクティビティが将来の街並みへと伝播していくきっかけとなることを意図している。
三つめは、レベルの操作と見る/見られるの関係。
かつて水田だった地下水位の高い敷地に対し、基礎の掘削土を用いて地盤面を全体的に300mm程度上げ、さらに軒下の半屋外空間は車いすが建物の内外をスムーズに行き来できるように室内とフラットに接続するレベル設定とした。
結果として、農地から道路、植栽帯、軒下空間、建築内部まで段々に上がっていく微地形が生まれ、見晴らしの良い屋内・半屋外空間を創り出している。
これは同時に、西側の低地から東側の台地へとつながる広域の地形環境の中に敷地を位置づける行為でもある。
加えて、前面道路と軒下まちあいとの700mm程度のレベル差が、車が行き交う道路からの適度な距離となるだけでなく、将来の住宅地から軒下まちあいの活動を眺め見ることができる舞台としても機能すると考えている。
大らかな周辺環境を引き込んだ佇まいのもと、半屋外空間にアクティビティが溢れ出し、各機能が緩やかに繋がる。これから地域の子育てを支える中心となっていくこの建物が、機能を超えて豊かに使われ、その活動景が活き活きとした街並みを導く中心にもなっていくことを目指した、布石としての建築の計画である。
■建築概要
物件名:船橋青い空こどもクリニック・米ケ崎どんぐり薬局
所在地:千葉県船橋市
用途:診療所・薬局・児童福祉施設
構造・規模:木造 地上2階建て
設計:JAMZA 長谷川駿+猪又直己、小林千尋+KEIYO DESIGN
構造設計:馬場貴志構造設計事務所
設備設計:あとりえ・あい、S・E設計
外構アドバイス:高橋大樹(Landscape Design inc.)
企画・施工:京葉エステート株式会社
敷地面積:1185.64㎡
建築面積:322.39㎡
延床面積:492.74㎡
撮影:楠瀬友将