五十嵐淳建築設計事務所が設計した、北海道・虻田郡の「ニセコの小さな住居」です。
海外から移り定住する若夫婦の為に計画、自然との関係の在り方を熟慮して環境と多様な距離感をもつ居場所を複数内包する建築を考案、建設費高騰も考慮し地場の工法を取り入れてつくりました。
シンガポールからニセコに移住した若い夫婦と犬1匹のための小さな住居である。
ニセコは道央の後志管内中央に位置する、東に羊蹄山、北にニセコアンヌプリの山岳に囲まれた波状傾斜の多い丘陵盆地である。
冷帯湿潤気候で平均気温は6.7℃、夏は暑く雨量は多い。冬は寒く、特別豪雪地帯に指定されている。
現在このエリアはインバウンド需要により地価が高騰し、同時に建設コストも高騰していることから、汎用性のない方法ではなく、地場の施工慣習に則って設計する、この地での住宅の建ち方として反復可能な方法を選んだ。フットプリントは最小に、構造は枠組壁工法のオープン工法とし、軒の出は工法による最大値とした。基礎形状や断面、暖房方式についても慣習に則った。
自然や環境は多様である。
コンドミニアムや別荘やキャンプのように、時どき触れ合う自然や環境と、住居のようにそこに生き続け、向き合わなければならない自然や環境は、付き合い方が大きく変わる。厳しさも豊かさであるといえるが、付き合い方や向き合い方にも多様性が必要となる。そんな地球環境との多様な距離感をつくった住居である。
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以下、建築家によるテキストです。
自然環境とさまざまな距離感をもつ
シンガポールからニセコに移住した若い夫婦と犬1匹のための小さな住居である。
ニセコは道央の後志管内中央に位置する、東に羊蹄山、北にニセコアンヌプリの山岳に囲まれた波状傾斜の多い丘陵盆地である。
冷帯湿潤気候で平均気温は6.7℃、夏は暑く雨量は多い。冬は寒く、特別豪雪地帯に指定されている。
現在このエリアはインバウンド需要により地価が高騰し、同時に建設コストも高騰していることから、汎用性のない方法ではなく、地場の施工慣習に則って設計する、この地での住宅の建ち方として反復可能な方法を選んだ。フットプリントは最小に、構造は枠組壁工法のオープン工法とし、軒の出は工法による最大値とした。基礎形状や断面、暖房方式についても慣習に則った。
またコンドミニアムや別荘とは違い、定住する住居であることによる壮大な自然環境との関係や距離感について考えた。
私は北海道で活動を続けてきた中で、自然環境と住居をおおらかに繋げたいと試みてきた。それは風除室をきっかけとし、縁側に興味をもったことによるものだ。境界を点や線としてとらえるのではなく、自他の境界を曖昧にし、境界を共有するような感覚である。
この住居では常に自然と直接向き合うような暮らし方ではなく、小さな平面に天候や気分・感覚に応じて居場所を選びながら暮らせるように考えた。
茫漠とした自然環境から風除室を抜け、身体スケールを取り戻す小さなエントランス、その先に外部から奥まった少し薄暗い天井の低い空間がある。居場所1は洞窟の入り口から奥に入ったような感覚の場で、リビングのような役割のほかにインテリアコーディネーターである建主の応接室や打合せ室も兼ね、取扱う家具を実体験する場でもある。居場所2は主に仕事の場であり、外の居場所と緩やかに繋がる。居場所3は家事など日常の場であり、外部から少し距離を取りつつも高い天井により、空を感じる空間とした。
自然環境と一定ではなく、種類のある距離感をもった居場所をつくり、それらが互いに曖昧になるような小さな住居である。
自然や環境は多様である。
コンドミニアムや別荘やキャンプのように、時どき触れ合う自然や環境と、住居のようにそこに生き続け、向き合わなければならない自然や環境は、付き合い方が大きく変わる。厳しさも豊かさであるといえるが、付き合い方や向き合い方にも多様性が必要となる。そんな地球環境との多様な距離感をつくった住居である。
(五十嵐淳)
■建築概要
題名:ニセコの小さな住居
所在地:北海道虻田郡ニセコ町
主用途:住宅
構造:木造(枠組壁工法)
設計:五十嵐淳建築設計事務所
担当:五十嵐淳 樋口瑞希
敷地面積:617.56m2
延床面積:74.287m2
床面積:1階 43.268m2 2階 31.019m2
竣工:2021年夏
撮影:IKUYA SASAKI