【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)

本記事は「島根県」と建築メディア「アーキテクチャーフォト®」のコラボレーションで制作されました。

建築意匠の世界に特化したメディアでは、設計者を中心として完成した建物を“作品”として紹介する事が一般的です。弊サイトも例外ではありません。しかし、実務に携わった人の誰もが知るように、ひとつの建築が完成するには、実に様々な人たちの関りがあります。

施工に携わる人は勿論ですが、検査機関の人もそうですし、土地を測量したりする人も、間接的にではありますが、建築に関わっていると言えます。また、出来上がった建築を写真に収める人、それを掲載する人も建築に関わっていると言えます。公共建築であれば、定期的な修繕の為の検査や補修工事も行われます。これも設計とは違った形で建築に関わっていると言えます。ここに書いたように、ひとつの建築には、多様な職種からの関わり方が存在しています。

本シリーズ「様々な角度から‟建築”に携わる」では、それぞれの立場で建築に関わる人達の話を聞き、普段表にあまり出ることのない、その背景や物語に加え、個々の仕事が持つ楽しさも紹介します。


今回、島根県行政職員の山本大輔に、アーキテクチャーフォト編集長の後藤連平が話を聞きました。

後藤は、常々建築メディアの仕事は「裏方」だと言っています。表に出るのではなく裏方の立場で、設計者の皆さんが心血を注ぎ完成した建築を、社会に広く伝えるために知恵を絞る。アーキテクチャーフォトは裏方として働くことに強いモチベーションを持ち活動しています。

また、後藤は設計実務に携わっていた時代に、設計者を助けてくれる様々な行政職員に出会ったそうです。彼らの仕事は、目立って表に出ることはありませんが、「良い建築を世の中に生み出したい」という想いにあふれており、それが実際に完成した建築として結実する場面を何度も見たとのこと。それは、建築メディアとは違った立場での、建築に関わる「裏方」の仕事と言ってよいと思います。

山本は、菊竹清訓の作品に関わる活動等で、SNS上でも広く知られる人物です。
その山本に、行政職員としての日々の業務について、働き方について、自分自身の“建築人生”の切り開き方について等、様々な視点から話を聞いたのが本インタビューです。

それぞれの拠点や活動内容は異なりますが、お互いに「裏方」の仕事に美学すら感じている二人。どのような対話が行われたのでしょうか。
建築に携わる人達の視野を広げる切っ掛けとなれば幸いです。


山本大輔 / 島根県行政職員

1976年島根県生まれ。1999年名古屋大学工学部建築学科卒業、2000年島根県入庁(建築職)。2011~2013年菊竹清訓作品(県立博物館、図書館、武道館)の耐震改修担当。2013年県庁舎ライトアップイベント「結いとうろ」の立ち上げ。2021年島根県立美術館企画展「菊竹清訓 山陰と建築」企画協力及び技術サポート。2022年島根県立美術館特定天井改修工事担当。

主な受賞歴:2014年JIA25年賞「島根県立図書館(耐震改修)」、2015年JIA中国建築大賞特別賞「島根県立図書館駐輪場」

公式プロフィールより

山本大輔が関わった代表的な活動

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)左上:島根県立美術館特定天井改修工事(2022)、右上:島根県立美術館「菊竹清訓 山陰と建築」で展示された 1/1スケール模型 スカイハウスの屋根(2020)、左下:島根県立図書館駐輪場建替(2013)、右下:島根県総務部営諸課の職員を中心とする有志の会「大建築 友の会」主催の建築見学ツアーの様子 photo©髙橋菜生、photo©島根県(右下)

菊竹建築の耐震補強

後藤:ぼくは、アーキテクチャーフォトを運営する以前に、建築設計の仕事をしていました。その時代に、市の建築住宅課の方々が適切な助言をくれたことが何度もあったんです。また、同じ市を拠点としていた建築家の渡辺隆さんからも公共建築を手掛けた際の話を聞くこともありました。そのような経験のなかで、建築、とくに公共建築をつくることは、設計者だけではなく、行政の人たちの存在があってこそ成立しているのだと強く感じるようになりました。今回は島根県の職員として働く山本さんから、行政の建築職の働き方や活動について、あまり語られない部分も含めてお話をうかがいたいと思っています。

山本:よろしくお願いします。私は島根県でずっと建築の職員をしています。生まれも島根県の安来市というところで、大学は名古屋大学に入り、西澤泰彦先生の研究室で日本近代建築史を専攻していました。その後大学院に進んだのですが、就活の心配をした両親からのプレッシャーもあり、ほとんど準備もしないまま地元である島根県の建築職を受けてみたら運がいいのか受かってしまいました。まだ修士1年でしたが、当時は就職氷河期真っ只中ということもあり、大学院を中退して就職しました。

後藤:就職された当時、山本さんは県の建築職がどういう業務をするのか、ある程度分かっていたんですか?

山本:正直に言うと、ほとんどわかってなかったですね(笑)。建築確認申請をみたり、県有施設を建てる時に企画のようなことをするんだろうなっていう漠然としたイメージしかありませんでした。

後藤:山本さんのご経歴を見ると、菊竹清訓さんの建築(以下、菊竹建築)の耐震改修の担当になったことが大きなできごとだったのだろうと思われるのですが、それまではどのような仕事をされてきたのですか?

山本:主に建築指導業務と、営繕の業務です。最初の所属では、建築指導業務として確認申請の審査を3年間担当しました。その後、営繕工事を担当する部署で3年働いて、槇文彦さん設計の「島根県立古代出雲歴史博物館」でも監督員を担当しました。毎週現場に通って、常駐監理されていた槇事務所の方とコミュニケーションしながら、大きな公共建築をつくるという貴重な経験をさせてもらいました。その後は県庁に異動して、民間の集合住宅の補助金担当などの業務を経て、菊竹建築の改修工事の現場を担当するようになりました。最初の10年は、建築職としての基礎的な業務をいちからしっかり経験させてもらえたと思います。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県立古代出雲歴史博物館 (2006)  設計:槇総合計画事務所 photo©山本大輔

後藤:菊竹建築の改修というのは、具体的にどういうことをされていたんですか?

山本:改修工事のメインの内容は耐震改修なので、リノベーション的な改修というよりは、耐震壁を入れるなど、とにかく構造的な補強に特化したものでした。菊竹建築の特殊性から原設計者である菊竹事務所に設計を依頼しましたが、同様に構造設計者である松井源吾さんが設立されたO.R.S.事務所にも協力事務所として参画していただき、耐震診断から補強設計まで担当していただきました。

後藤:山本さんは発注者側の担当として、ふたつの設計事務所と主体的に関わりながら、方向性などをまとめ上げていたということなんですね。

山本:発注者として、設計内容の取りまとめと現場監理を担当しました。現場監理については、東京の菊竹事務所に確認を取りながら、私が現場を見るというスタイルで進めていきましたね。

後藤:そもそも、菊竹建築を耐震補強しようという話はどういうふうに出てきたんですか?

山本:島根県は県民1人あたりの公共施設面積が全国でもトップクラスです。公共建築をたくさん所有していますが、一方で財政力が弱い県でもあります。私が県に入った頃は、先ほど触れた槇さんの博物館や、内藤廣さんの「島根県芸術文化センター グラントワ」などのビックプロジェクトが動いていましたが、全国的に地方の財政が厳しくなっていく時期とも重なっていました。その頃から島根県は公共施設の耐震化や長寿命化などファシリティマネジメントに力を入れ始めています。初期の菊竹建築の3作品「島根県庁第三分庁舎(旧県立博物館)」「島根県立武道館」「島根県立図書館」を耐震補強したのもその一環ですね。よく誤解されるんですが、歴史的な価値があるから耐震補強して残したというわけではないんです。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県庁第三分庁舎 [旧県立博物館](1958) 設計:菊竹清訓建築設計事務所 photo©SATOH PHOTO
【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県立武道館(1970) 設計:菊竹清訓建築設計事務所 photo©髙橋菜生
【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県立図書館(1968) 設計:菊竹清訓建築設計事務所 photo©髙橋菜生

後藤:どういった経緯で山本さんが担当されることになったのですか?

山本:本当にたまたまなんですけれども、営繕課というところに異動したとき、業務を引き継いだ前任者がその仕事を担当していたんです。最初の耐震診断まで終わったところで私とバトンタッチしました。もし引継ぎの相手が別の人だったら自分は担当になってなかったと思います。

後藤:山本さんはそもそも建築愛が強い人でしょうから、そういう人が菊竹建築の耐震補強というものに出会って、実際に菊竹さんと会って、事務所とも打ち合わせをして、というご経験はめちゃくちゃスリリングなできごとだったと思います。そこからその後の発信に繋がっていますよね。

山本:発信することの重要性に気づくことができたのは、もともと歴史的な建築物に強い関心があったことが大きかった気がします。過去の資料を読んだり、現場に行ったりするたびに発見があるので、とにかく誰かに話したくて仕方がなかったですね。


縦割りと縦割りの間の隙間

後藤:山本さんの公務員としての働き方や活動は、一般的な公務員のイメージからするととても自由なものに見えます。もちろん、山本さんが行政の中で信頼を得て、着実に仕事をされていることがベースにあるとは思うのですが、行政の中で責任を持ったうえで、いろんな制約みたいなものを乗り越えておられるように思います。どうしたらそうした活動ができるのでしょうか?

山本:役所というと縦割り行政ですよね。これは組織としては合理的なかたちではあるのですが、横の繋がりが生まれにくい部分があります。制約を乗り越えるということは、縦割りを乗り越えているということだと思うのですが、自分の場合は意識的に乗り越えようと考えたことはあまりないし、実際やろうとしてもなかなかうまくいかないんですよね。それよりも、縦割りと縦割りの間の隙間みたいなところから価値あるものを拾い上げていく。こっちが楽しくやってると、その反対側の方からも、なんか面白いことやってますねって関心をもってもらえるんですよね。

後藤:どちらの領域にも属してないようなポイントがあるということなんですか?

山本:いや、どちらにも関係あるけど、どちらも手をつけてないものですね。私たち建築職が担っているのは、「インフラ」としての公共建築を建設したり、維持保全したりする仕事です。また、公共工事の発注を通じて建設業という地域の「産業」を支えていくという側面もあります。しかしもうひとつ、建築にはそれ自体が「文化」であるという側面があります。島根県についていえば、公共建築の「文化」的な側面を発信したり、活用したりすることがこれまで十分できていないように感じていました。そこが、私の活動のスタートですね。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)山本大輔 / 島根県行政職員
【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)後藤連平 / アーキテクチャーフォト編集長

後藤:お話をうかがっていると、ぼくにとってのアーキテクチャーフォトと同じだなって思いました。

山本:役所の建築部門には、建築の「文化」としての側面に苦手意識がある人がわりと多いんですよね。では文化財部門はどうかというと、埋蔵文化財や古代史の専門家はいるのですが、戦後のモダニズム建築に詳しい人はいないんですよ。数年前に県庁周辺の戦後モダニズム建築が国の有形文化財に登録されたんですが、私が図面作成や所見の執筆など登録に関する事務を担当しました。彼らとしても自分たちがなかなか手が出ないところを、頼みもしないのに勝手に楽しそうにやる人が建築部局にいるぞということで関心を持ってもらえて、文化財担当職員向けの研修でレクチャーを頼まれたこともあります。

後藤:縦割りの隙間はそういったところにあるんですね。

山本:そういう隙間を見つけると、そこに隣接する領域の人たちのニーズにも合致してどんどん声がかかるようになります。それを一つひとつ丁寧にこなしているうちに領域をまたいだ動きが生まれていきます。私たち建築職が企画協力させてもらった島根県立美術館の「菊竹清訓 山陰と建築」展は、その最たるものですね。もし私たちの活動が縦割りの制約を乗り越えているように見えるとしたら、そういうことなんじゃないかなと思います。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県立美術館「菊竹清訓 山陰と建築」で展示された 1/1スケール模型 スカイハウスの屋根(2020) photo©髙橋菜生

後藤:アーキテクチャーフォトでの活動は、特定の団体の中ではなくネットの世界ですが、自由というよりも、ネットという枠組みの中でやっていたという意識も強くありました。山本さんの場合は、島根県ということもあって菊竹建築や山本さんのキャッチフレーズ「山陰のモダニズム」などに繋がっていますが、きっと島根県でなかったとしても、建築に関わる魅力的な何かを掘り起こすことはできるということですよね。

山本:きっと探せば色々あるんじゃないかな、という気がします。テーマは人それぞれですけど、関心を持てるテーマが見つかったら、誰かに頼まれなくてもとりあえず何かやってみることが大事だと思います。特に歴史や意匠など、文化としての建築という面では、まだ誰もやってないことがたくさんあるんじゃないかなと思いますね。


専門性と社会にフェアでいること

後藤:山本さんの講演や発信は、専門家に向けるというよりも、一般社会の価値観や見られ方をすごく大事にした発信をされているなと常々感じています。 専門領域に閉じるのではなく、一般の方を意識した上で発信していることの裏にある山本さんの心意気などをうかがってみたいです。

山本:公共建築の意義を理解してもらえるよう努力することは、公務員としてとても重要なことだと思っています。職業柄、公共建築が批判にさらされる場面をよく目にしますが、襟を正して傾聴すべきことがすごくたくさんあります。一方で設計者や施工者の方など専門家の仕事にも非常に敬意をもっています。日頃、彼らの仕事を目の当たりにして、ひとつの建築にどれほど膨大なエネルギーが注がれているか知っているので、ネットでよく見かける最低限の礼儀を欠いた批判などは人として許せないと感じます。公共建築の発注者であり維持保全に関わる技術者でもある立場から、専門家と社会のあいだを橋渡ししたいですね。そのためには、専門家と社会のどちらに対してもフェアでありたいと思っています。

後藤:山本さんのそのような思いは、公務員生活で培われたものなのか、大学時代からそういった考えを持っていたのか、気になります。

山本:いろんな人から影響を受けているんですが、特に県に入っていちばん最初の上司が本当に優秀な人で、私が何か専門性をこじらせたようなことを言うたびに、お前はそう言うけど一般の人や現場の人はこういう風に感じるんだと、よくたしなめられていたんです。それを誰にも伝わる平易な言葉で言われるから、本当にかなわなかった(笑)。学生のときは思考が専門分野に偏っていたのですが、その上司とやり取りをしているうちに、ポジションが少しずつニュートラルなところに戻っていって、その結果いまの立ち位置ができあがっていったような気がします。


設計者と対等に仕事をする

後藤:構造的な補強の業務を菊竹事務所に発注した話が先ほどありましたが、建築を理解したうえで発注するかどうかは非常に大切で、設計者の思いを理解することができる行政職員の方と巡り合えれば、間違いなく良い建築が建つんだろうなっていうのは、ぼくにも想像できます。山本さんが設計者をサポートする存在として、行政職員として意識していることはありますか?

山本:菊竹建築の耐震補強を引き継いだときは、実はまだ菊竹建築に特別な思い入れはありませんでしたし、菊竹事務所の考えをサポートしていけばよいだろうというくらいの気持ちでスタートしたんです。でもとりあえずどういう建物か知っておこうと思い、自分なりに建設当時の記録を調べ始めたらあまりに面白くて、すっかりハマってしまっていました。もうその時点では建設されてから50年以上経ってたんですよね。菊竹さんはご存命でしたが50年前の菊竹さんではないし、改修を担当していただいたスタッフの方もそんな昔のことは直接的には知らない。話をしてるうちに、どうも島根県の菊竹建築のことをいま一番鮮明に理解しているのは自分なんじゃないかみたいな状況になりまして(笑)。工事の打ち合わせでも、昔の記録にこういうことが書かれていて、デザイン的にこういう考え方だったんじゃないか、だから耐震補強はこうすべきなんじゃないかとか、自分の意見を伝えながらスタッフの方とやり取りをしているうちに、最終的には山本さんが一番良いと思うやり方で現場を進めてください、何か判断に困ったら相談してくださいというスタイルになっていきました。

後藤:それはすごい話ですね!

山本:いま思うと、なぜあんなに信用してもらえたのか不思議です(笑)。サポートというより、本当に対等にやっていけるようじゃないと、いいものにならないということかもしれないですね。もちろん、根本的なところでお互いに共有できるものがあるという前提ですけど、自分たちには発注者としての立場があって、なおかつ設計者が考えているデザインとして目指したいものも理解をした上で、対等に議論ができるということが、結果としていいものをつくるためのサポートにつながっているのかなという気がします。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県立美術館特定天井改修工事(2022) photo©髙橋菜生

後藤:発注者として、自分ができる最大限の責任を果たしていく役割はあるとは思いますが、役割を超えるかもしれないけど、自分の知識などを互いにぶつけ合っていった時に、いい仕事ができるということなんですね。

山本:自分はそう思っています。県民を代表する発注者として、方針をきちんと持った上で、相手が大先生であっても、違うことがあれば違う、と言える人が行政には求められているんじゃないかなという気がします。また、違うと言うからには設計者の意図を踏まえた代案を出して議論できないといい仕事にならないですね。そこで流されてしまうと、将来的にトラブルに繋がって、結果的に設計者の信用も損なわれてしまうと思います。

後藤:発注者であると同時に県民の代表として仕事をしているという感覚と、それを守りつつ、いい建築もつくりたい。そういう感情が山本さんの中に強くあることがよくわかりました。そこまで真剣に建築と向き合ってくれる発注者がいることは、おそらく設計者にとって歓迎すべきことなんでしょうね。逆に、山本さんはどんな設計者と仕事をしたいですか?

山本:やっぱり建築が好きな人と一緒に仕事をする方が楽しいですね。良いものをつくるためにそこまで考えてくれてるのか!というのが伝わってくると、こちらもそれに応えようと必死になります。小さな仕事でも、そういう思いを共有できる設計者に巡り会えたときは本当に楽しいし、幸せですね。


行政職に向いている人

後藤:行政職に興味があっても、実際にやってみないとわからないこともあって、そういったことで不安を抱えている人も多いと思うのですが、山本さんはどんな人が行政職に向いていると思いますか?

山本:行政の建築職にもさまざまな仕事があり、実際いろんなタイプの職員がいます。よく向いていると言われるのは、いろんな人の立場を理解できるような調整型ですね。「根回し」というとイメージが悪いかもしれませんが、物事がすんなり流れていくためには、関係者の理解を得ながら、手順を踏んで進めていくのは当然のことですよね。そういったことが得意な人が行政では信頼されて、重要なポジションに上がっていく印象があります。一方で、自分自身がプレイヤーとして主体的に何かを実践するタイプの人は少ない気がしますね。たとえば建築の人って自分で図面も描けたり、絵も描けたり、模型もつくったり、写真も撮れたり、パンフレットのレイアウトも上手だったりと、なんでもできちゃうところがありますよね。そういった訓練を積んで、行政に来ると重宝されるし楽しいんじゃないかなと思います。

後藤:学生時代に学ぶ建築設計って、割と職人的で自己完結的なところがありますが、社会に出た設計行為では監理が仕事の中でもかなり大きな割合を占めると思います。自身で事務所を構える設計者だとしたら、個人のお施主さん、現場監督、職人の意見を翻訳して伝えて、竣工に導くということのような。そうすると、建築業界の“人との関わり”をおもしろいと感じている人は、行政の中に入っても活躍できる可能性が高いのかなと思いました。

山本:おっしゃる通りだと思います。建築は非常にたくさんの人たちが関わって出来上がっていくものですからね。地域の建築を良いものにしていくために、行政と地域の建築業界が良い信頼関係を築いていく必要があります。自分が手を動かせることも武器ですが、建築業界の“人との関わり”をおもしろいと感じることができる人も、きっと活躍の場があるでしょうね。

後藤:実際、島根県の行政職として働いていて、どういったことが楽しいですか?

山本:先ほどお話ししたように、県の財政状況が厳しいので、近年は新築プロジェクトがすごく少なくて、新築という意味で建築をつくりたい人に、こんなことができますよと強く言えないところではあります。一方で、これからの日本はおそらく新しいものがあまり建たなくなっていくので、いまあるものをファシリティマネジメントでうまく活用しながら、利用者の満足度を維持し続けていくことが求められる時代になっていくのではと思っています。島根県は高齢化・過疎化がかなり進んでいるので、良くも悪くも日本の状況の最前線みたいな地域ですね。そんな場所で建築に何ができるか、どうすれば新しい価値を生み出せるだろうかと考えているうちに、自分の場合は、文化的資産として公共建築を活かしていくというところにたどり着きました。派手な新築プロジェクトがない中でも、私なりに誇りを持って仕事ができています。島根県という組織は現状に対する危機感が強いので、職員が自ら考えて新しいチャレンジをすることに対してとても寛容だと思います。よっぽど的外れなアイデアでなければ、経験の少ない若手でもやりたいことを後押ししてサポートしてくれますし、私自身そうやって成長してきたように思います。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)島根県立図書館駐輪場建替(2013) photo©髙橋菜生

後藤:島根県は宍道湖があったり、個人的にすごくいい町だなという印象があるんですが、そういう住みやすさだったり、地域性のおもしろさは感じられていますか?

山本:島根県は東部の出雲、西部の石見、離島の隠岐と大きく3つのエリアがあります。それぞれの地域に特徴的な自然と文化と人間性があって面白いんですよね。人口的には小さな県なので、転勤してもその地域の建築業界の人たちとすぐに顔見知りになりますし、人間同士の結びつきが強い気がします。地域の建築業界の人たちと一緒に自分たちの建築をつくり、支えているんだという実感も年を取るごとに増してきました。そうした自治体の規模的なおもしろさはあると思います。住みやすさの面でも、都会に比べれば不便なところはあるかもしれませんが、子育てもしやすいし、治安もいいです。個人的には住みやすいと思いますよ。


行政職だからこそできる経験

後藤:ぼくはいま、設計者じゃない立場で建築に関わっていますが、そうした意味で山本さんと僕はちょっと近い立場なのかなと、今回お話をうかがっていて思いました。建築学科というと、設計者になるための教育をしているところという印象が強いですが、いまの時代、設計職ではないけれど建築に関わる職業についている人もたくさんいらっしゃって、そうやって建築に関わる楽しさがありますよね。ぼくは建築の裏方的なことが向いているということに気づいて、いまこういうことが生業になって幸せなんですが、山本さんはそういう感覚ってありますか?

山本:自分の場合も、設計は学生時代にそれなりに好きで一生懸命やっていた時期もありました。でも要領が悪くて手も動かない方だったので、卒業設計は途中でしんどくなってドロップアウトしちゃったんですよね。そこでもう自分は設計で食べていくタイプではないなと痛感しました。とはいえとても良い先生に恵まれたので、大学で学ぶこと自体はすごく楽しかったですけどね。結局県に入ってから、自分で設計も経験しましたし。

後藤:行政の建築職の中でも、規模的には大きくないかもしれないですが、設計もされているんですよね。

山本:うちの組織の伝統のひとつに、公衆トイレでもなんでもいいから、とにかく若いうちに何かひとつは自分自身で図面を描いて、積算もやって、現場も見て、最初から最後まで自分がやったんだって言えるものをつくっておきなさい、というのがあります。真に受けて本当に実行する人は少ないんですが、自分は最初の10年ぐらいのところで何度かやりました。そうやって設計を担当した駐在所がしまね景観賞の優秀賞をいただいたりして、少し自信がつきました。菊竹建築の改修工事で、技術的にもデザイン的にもかなり突っ込んだところまで入り込んで関与できたのは、そのときの経験が素養としてあったからだと思います。ただ、設計はとても楽しいのですが、自分は設計の前提条件をつくる企画段階から完成後の維持管理まで、幅広く建築に関わることのほうに興味と可能性を感じます。

後藤:設計をしたり、申請業務や営繕をやったり、そういった一連の流れを経験できるとしたら、行政職員は設計事務所とは少し違った多様な経験ができるんですね。

山本:そうですね。行政の場合はどちらかというと基本的には審査、チェックする立場です。確認申請はもちろん、営繕の設計でも図面がこちらの要求通りにできているかチェックする仕事が中心ですよね。だから逆に言うと、自分が手を動かして何かをつくるっていうことに消極的な傾向があると思います。最近の採用試験では新卒より経験者の応募が増える傾向にあります。民間で自分で手を動かす経験を積んだ方が、環境や心境の変化などで、役所に入ってくるっていうルートは、その経験を積極的に活かそうとする意思があれば、何か面白い仕事ができそうな気がしますよ。

後藤:山本さんは先ほどご自身で設計から監理まで経験したとおっしゃいましたけど、指導やチェックも、設計者の仕事を知っていないとうまくできないだろうと思います。そういった意味で、設計職を経験した人が行政に入ると、相手の立場を理解して円滑に業務ができるということもあるかもしれないですね。

山本:行政と地域の建築業界が信頼関係を築いていく上で、民間での社会人経験がある方には期待していますし、歓迎したいですね。もちろん新卒の方も入ってきてもらいたいですよ。


伝える人自身のキャラクターこそがメディアである

後藤:ぼくは、行政職や編集者、不動産など、設計職以外のところで建築に愛がある人が増えることがとても重要だと常々感じていますし、自分で仕事をするということは同じ志を持つ仲間を見つけることのような気がしています。行政や公務員と言うと、漠然とお堅い印象をもつ人が多いと思いますが、その中に意気投合する人が必ずどこかにいて、そうした人たちとネットワークをつくっていくと自分の仕事もやりやすくなるし、自分がそういう立場になって発注者として建築設計者と仕事をすることもありえるのだなと、山本さんのお話をうかがって気づくことができました。さらに言えば、各地にいる建築愛の強い行政職の人たちがどんどん表に出ていくことも、じつは重要なんじゃないかと思っています。今まで裏方だった人が表に出て、熱い思いを持っていることを発言していかないといけない時代だなとぼくは思っていて、山本さんはその急先鋒なのかなと思います。

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)令和4年度「公共建築の日」の島根県立美術館建築ガイドツアーの様子 photo©島根県

山本:どうしたら自分の言葉がもっと伝わるんだろうと考えながらいろいろと活動する中で、じつは言葉だけではなくて、言葉が載っかっていくメディアがいかに社会から信頼されているかが大事なんじゃないかと思うようになりました。そうした意味で、アーキテクチャーフォトさんは、後藤さんのキャラクターから始まっていて、なんだか匿名のメディアじゃない感じがありますよね。

後藤:そうかもしれないです。

山本:編集長である後藤さんのキャラクターによってみんなから信頼されたり、好かれたりしている部分が必ずあるような気がしています。 自分の場合も、建物の魅力と同時に私自身のキャラクターにも親しみを持ってもらえて、信頼してもらえている感覚があります。見学会をすれば、わざわざ全国各地から来てくださるというようなありがたいこともあるんですよね。一般の方に建築の魅力を届けるためには、メディアがすごく大事になりますが、私は自分自身がそのメディアなのだと思って活動しています。

後藤:ぼくもアーキテクチャーフォトは自分が立ち上げたとはいえ、裏方を代表して建築の存在を伝えるために活動している意識があるので、山本さんが近代建築や県庁などを自分の人柄を通して伝えることが意義深いというお話はすごく共感できるお話でした。今日はいろいろと興味深い話が聞けてよかったです。ありがとうございました。


島根県の建築関係技術職員の採用情報

【シリーズ・様々な角度から‟建築”に携わる】島根県行政職員 山本大輔インタビュー「建築の“裏方”を楽しむ働き方」(聞き手:後藤連平)若手建築職員提案による県庁ライトアップイベント「結いとうろ」 photo©山本大輔

私たち島根県の建築関係技術職員の業務は、県民の生活と密接に関わり、その内容は多岐にわたります。
公共建築工事の発注者として、プロジェクトの企画段階から関わり、設計・監理を担当しながら公共建築を造り上げることは、私たちの主要な業務の一つです。
また、法令に基づき建築物の安全性の確保や秩序あるまちづくりに関する許認可、審査、指導等を行うことも、公務員特有の重要な仕事です。
その他にも住宅政策や県有施設のファシリティマネジメントなど幅広く業務を担当しますが、そこに共通するのは予算の執行や法令等に関するさまざまな「権限」を与えられることです。権限には大きな責任が伴い、県民の奉仕者である私たちは、そこに建築と人々の暮らしがある限り、その責任と向き合わなければなりません。
だからこそ、私たちの関わった公共建築やまちづくりが地域の人々に受け入れられたときの喜びと安堵感は、言葉に尽くせないものがあります。


Credit
企画・監修:後藤連平(アーキテクチャーフォト)
編集:後藤連平、酒井克弥(アーキテクチャーフォト)
文章構成:春口滉平、小野恵実(山をおりる)
文字起こし:小野恵実(山をおりる)
バナーデザイン:山本早紀(PLANPOT DESIGN WORKS)

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妹島和世+西沢立衛 / SANAAによる、オーストラリアの美術館の増築棟「シドニー・モダン・プロジェクト」が完成しました。
港を見下ろす敷地に建つ新棟です。建築家は、芸術・建築・景観が境界なく繋がる在り方を目指し、複数のヴォリュームが傾斜に沿って重なる構成を考案しました。また、約3400㎡の屋上空間“アートテラス”も特別な体験を生み出します。
本建築においては、エグゼクティブアーキテクトを、現地の設計事務所アーキテクトゥス(Architectus)が務めました。施設の公式サイトはこちら

こちらはリリーステキストの翻訳です

ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館の新館が今週末(2022年)12月3日にオープンし、オーストラリアの文化生活におけるエキサイティングな新時代が幕を開け、オープニングの週末にはすでに15,000人以上が来館を予定しています。

プリツカー賞を受賞したSANAAの妹島和世と西沢立衛の設計による新しい独立した建物は、シドニーで約半世紀ぶりにオープンする最も重要な文化的開発であり、拡張工事の中心的な役割を担っています。このプロジェクトの完成により、シドニー湾を見下ろすガディガル・カントリーに、パブリックアートガーデンでつながれた2つの建物からなる新しい美術館のキャンパスが誕生しました。

ニューサウスウェールズ州のドミニク・ペロテ首相は、次のように述べています。
「アートギャラリーは、ニューサウスウェールズ州、オーストラリア、そして世界中の人々に、非常に美しく、拡張され、強化された公共施設の扉を間もなく開くことになるのです」

「このプロジェクトの開発と設計におけるすべての決定の中心とニューサウスウェールズ州政府の投資の中心は、世界をリードする水準の芸術へのアクセス、制限のない教育の機会、具体的な利益をもたらすコミュニティの充実を支援することに、揺るぎない焦点を当てることでした。」

さらに、ベン・フランクリン・アボリジニ問題・芸術・地域青年・観光担当大臣が付け加えました。
「ニューサウスウェールズ州政府は、この一世代に一度のプロジェクトを実現するための芸術文化投資を主導しており、ニューサウスウェールズ州全体の人々に素晴らしい利益をもたらすことを誇りに思っています。 アートギャラリーは、パートナーシップ、教育プログラム、セクターとのつながり、リーダーシップを支援する、真に野心的なビジョンを持つ機関です。これは、喜び、つながり、豊かさを刺激する『すべての人のためのアート』なのです」

ニューサウスウェールズ州政府からの2億4400万ドルの資金提供に加えて、アートギャラリーは、一世代に一度の文化的投資となるこの拡張を支えるために、個人ドナーから1億ドル以上の資金を集めました。これは、オーストラリアで成功したこの種の政府と慈善事業の芸術パートナーシップとしては最大のものです。

過去10年間、アートギャラリーの改革を監督してきたニューサウスウェールズ美術館のマイケル・ブランド館長は、次のように語っています。
「私たちのヴィジョンは、アートギャラリーを、芸術、建築、景観がシームレスにつながる美術館のキャンパスに変えることでした。私は、革新的なアートの展示と強い場所性を持った拡張でお客様をお迎えできることを大変誇りに思います。ニューサウスウェールズ州政府、寄付者、スタッフ、アーティスト、そして幅広い支援者のコミュニティからの支援により、私たちのヴィジョンは今、現実のものとなっています。特に、過去3年間の建設期間中に、山火事、世界的なパンデミック、記録的な大雨の影響という困難に直面したことを考えると、これは大きな意味を持ちます」

ブランドは、こうも述べています。
「まばゆいばかりの新しいステージから、我々は、この場所、この歴史、過去151年間の我々の発展に貢献した多くの人々に対して、今後数十年に渡って、喜び、インスピレーション、洞察を求める多くの人々にふさわしい芸術体験を提供します」

世界で最も美しい文化地区のひとつに位置し、アーキテクトゥスをエグゼクティブアーキテクトに迎えたSANAAデザインの建物は、公園や港を囲む複数の視線に面しています。また、オーストラリアで初めてグリーンスターのデザイン評価で6つ星を獲得した公立美術館でもあります。

建築的な特徴としては、港に向かって緩やかにステップダウンする3つの石灰岩で覆われたアートパヴィリオン、ニュー・サウス・ウェールズ州から調達した材料を使った2層にわたる250mの土壁、アクセス可能な3400㎡の屋根「アートテラス」と中庭が挙げられます。新しいアートスペースとしては、柱のないギャラリー、タイムベースアートのためのギャラリー、第二次世界大戦中に退役した海軍の燃料庫を転用した2200㎡のスペース(現在はタンクとして知られる)があり、オーストラリアで最もユニークなアートスポットの一つとなっています。

今年、高松宮殿下記念世界文化賞の建築部門を受賞したSANAAプリンシパルの妹島和世と西沢立衛は、次のように語っています。
「シドニーのこのような重要な公共建築を設計できたことは、素晴らしい名誉です。ニューサウスウェールズ美術館のチームと密接に協力しながら、私たちは、街や公園、港と呼吸するような、周囲の環境と調和した美術館の建物を設計することを目指しました。この美しい環境の中で、来館者がどこにいてもアートとのつながりを感じられるような、特別な場所になることを願っています」

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