SHARE 山田貴仁+犬童伸浩 / studio anettaiによる、ベトナムの飲食店「CHIDORI COFFEE IN BED PASTEUR」。若者の“第三の居場所”を目指した施設。ベッドで珈琲が飲める滞在型カフェの為に、地域の路地“ヘム”を参照した動線空間から個室的空間に到達する構成を考案。文化を継承して“人間的な街”を守り生かす
山田貴仁+犬童伸浩 / studio anettaiが設計した、ベトナム・ホーチミンの飲食店「CHIDORI COFFEE IN BED PASTEUR」です。
若者の“第三の居場所”を目指した施設です。建築家は、ベッドで珈琲が飲める滞在型カフェの為に、地域の路地“ヘム”を参照した動線空間から個室的空間に到達する構成を考案しました。そして、文化を継承して“人間的な街”を守り生かす事も意図されました。店舗の公式サイトはこちら。
ホーチミン市中心街に建つ典型的な長屋をリノベーションした、ベッドでコーヒーが飲める滞在型カフェ「CHIDORI」の旗艦店である。
平均給与の上昇を大きく上回って不動産価値が上昇しつつあるベトナムでは、多くの若者にとって、友人同士、恋人同士で過ごす快適な住環境を手に入れることが難しくなっている。彼らが憩い、プライバシーを守れる場所に、そして住居と公共空間に代わる第三の居場所となることを本プロジェクトでは目指している。
敷地はホーチミン市で最も人気のある大通りの一つ、パスター通りに面している。既存建物は、中心街でよく見られるチューブハウスという長屋形式の建物である。かつて間口税の影響で作られたこれらの建物は、「ヘム」と呼ばれる特徴的な細路地をそこかしこに生み出している。
ヘムの中は驚くほど静かで、大通りに面しているとは思えないような別世界が広がっている。通りから見つけづらいことは欠点とも思われがちだが、その中には多くのバーやカフェ、ショップが潜んでおり、別の空間価値があることで商業的にも成功しているのである。
エリアの特徴であるこの「ヘム」からインスピレーションを得て、それを空間化することを試みた。
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以下、建築家によるテキストです。
ホーチミン市中心街に建つ典型的な長屋をリノベーションした、ベッドでコーヒーが飲める滞在型カフェ「CHIDORI」の旗艦店である。
平均給与の上昇を大きく上回って不動産価値が上昇しつつあるベトナムでは、多くの若者にとって、友人同士、恋人同士で過ごす快適な住環境を手に入れることが難しくなっている。彼らが憩い、プライバシーを守れる場所に、そして住居と公共空間に代わる第三の居場所となることを本プロジェクトでは目指している。
ヘム
敷地はホーチミン市で最も人気のある大通りの一つ、パスター通りに面している。既存建物は、中心街でよく見られるチューブハウスという長屋形式の建物である。かつて間口税の影響で作られたこれらの建物は、「ヘム」と呼ばれる特徴的な細路地をそこかしこに生み出している。
ヘムの中は驚くほど静かで、大通りに面しているとは思えないような別世界が広がっている。通りから見つけづらいことは欠点とも思われがちだが、その中には多くのバーやカフェ、ショップが潜んでおり、別の空間価値があることで商業的にも成功しているのである。
エリアの特徴であるこの「ヘム」からインスピレーションを得て、それを空間化することを試みた。
ヘムを空間化する
間口わずか4mの細長い既存建物をさらに分割し、三層を貫く裂け目のような空間を挿入する。
ジグザグと折れ曲がったこの空間は動線であり、奥まで見通せないことで人々をより奥へと誘因する細く長い路地ーつまり「ヘム」である。この「ヘム」は境界線上に有機的な開口を持つ分厚い壁を持ち、その内に配置されたバンクベッドは、表通りから距離をとった洞穴のような空間となっている。
ヘムに用いられている素材は、ブリックタイル、スタッコを模した左官、ベントブロックなど、外部空間で観察される素材が再解釈されており、巨大な開口部を通し、内外が連続的に体験されることを意図している。
一方で多くの人が長い時間を過ごして触れるバンクベッド内部には、メラミン板や合皮など、メンテナンスと安全性に長けた素材を用いることで、外部空間との対比を生み出すとともに、実際のヘムに対する屋内空間のような、安らげる空間作りを目指した。
生き残る路地文化
ベトナムは開発途上国というイメージが対外的にあるが、ホーチミン市のような大都市では日々見慣れた景色がダイナミックに変わり、開発途上という言葉がおよそ似つかわしくなくなってきているように感じる。そのような大規模開発の波の中でも、カオティックな文化多様性を保つ都市の空隙として、ベトナムの路地文化ーヘムは寄与している。
本プロジェクトはこうした路地文化を継承することで、ベトナムらしい人間的な街を守り、生かしていく試みである。
■建築概要
所在地:134 Pasteur, Ben Nghe, District 1, Ho Chi Minh, Vietnam
用途:カフェ
設計:studio anettai
担当:山田貴仁、犬童伸浩
延床面積:204.1m2
竣工:2022年1月
撮影:大木宏之
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外構・床 | 床 | 舗装用レンガ |
外装・壁 | 外壁 | 外壁用塗装(Jotun) |
内装・床 | 室内廊下部分床 | 舗装用レンガ 馬目地 |
内装・壁 | 室内廊下部分壁1 | 舗装用レンガ半割 馬目地 |
内装・壁 | 室内廊下部分壁2 | 左官風特殊塗装(CONPA) |
内装・天井 | 室内廊下部分天井 | 塗装(Jotun) |
内装・床 | 室内バンクベッド床 | MDF+ベニヤ貼り |
内装・壁 | 室内バンクベッド壁 | MDF+ベニヤ貼り |
内装・天井 | 室内バンクベッド天井 | MDF+ベニヤ貼り |
内装・床 | キッチンおよび地上階カフェエリア床 | セラミックタイル |
内装・照明 | 照明 | ローカルより購入 |
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The new flagship store of “Chidori – coffee in bed”, a café where guests can have coffee in beds, was inserted into a typical row house in the center of Ho Chi Minh city. As real estate values are rising much faster than average salaries in Vietnam, the living environment for the younger generation stays poor, resulting in lack of comfortable space for them to spend time with friends and partners. Against this background, “Chidori” aims to provide a third place where they can rest in the intimate atmosphere, that is an alternative to their home or public space.
HEM
The project is located facing Pasteur street, one of the city’s most popular boulevards.
The existing building was one of the narrow and deep tube houses spread out in the area, which stems from the frontage tax in the past. Under the taxation system, urban blocks became fragmented, leaving characteristic alleyways called “Hem” within them.
Once stepping inside the “Hem”, it is surprisingly quiet in spite of the busy streets out there. These secluded alleys often attract various small businesses such as shops and bars, due to the spatial characteristics, many of which have commercial success regardless of invisibility from the main street. Inspired by this urban fabric, the renovation seeks to spatialize “Hem” within the existing building structure.
Spatialize HEM
The “Hem” is scaled into an extremely tall 3-stories split at the frontage, subdividing the already-narrow existing space into much narrower tubes. It leads to a continuous meandering pathway, inviting people to explore deeper inside as one cannot see through the whole alley. The thick zig-zag walls with a series of openings create the boundary, inside which are cavernous bunk beds distanced from the outside world.
The material palette of “Hem” is the reinterpretation of the ones often observed in the exterior space in Vietnam, such as brick tiles, stucco-like beige plaster, and vent blocks. This reinforces the perception of seamless transition between inside and outside through the huge openings. In contrast, the interior surfaces of the bunk beds are finished with safe and maintainable materials such as laminated wood and synthetic leather to accommodate the guests for a longer time of stay.
Surviving alley culture
Vietnam is often considered a developing country as a whole. But seeing the drastic and rapid changes of urban structure in this metropolis, it seems that the central area is already going beyond the “developing” stage. Even in the midst of such a wave of large-scale development, “Hem”, the urban void serves as a cradle to nurture the city’s chaotic diversity. This project is an attempt to reconceptualize the alley culture, and preserve the livable and humanistic city.
Location: 134 Pasteur, Ben Nghe, District 1, Ho Chi Minh, Vietnam
Program: cafe
Office: studio anettai
Designers: Takahito Yamada, Nobuhiro Inudoh
Completion: January 2022
GFA: 204.1m2
Photo: Hiroyuki Oki