小野良輔建築設計事務所が設計した、鹿児島・奄美大島の、宿泊施設「琉球ヴィラ ソテツ」です。
微傾斜地のソテツが茂る環境に計画されました。建築家は、琉球圏の建築因子・奄美の気候風土・敷地の文脈への応答を求め、高床基礎と縁側空間を導入した“継承と再編集”の設計を志向しました。そして、建築形式の参照を用いた空間の体験で地域文脈を伝える事が意図されました。施設の公式サイトはこちら。
奄美大島北部の、やや人里離れた高台にある一棟貸しの宿泊施設である。
「高床、低く深い軒、緩勾配の寄棟、縁側」等といった琉球文化圏において散見される土着的建築因子を、奄美大島の気候風土というマクロなコンテクスト、農地として使われていた段々畑状のランドスケープが作り出す地形や眺望といったミクロなコンテクスト、それぞれに対し横断的に応答するよう、継承・再編集を試みた。
計画地はもともと段々畑状の農地として使われており、建築可能範囲は巨大な蘇鉄(そてつ)に囲まれた小さな緩傾斜地のみであった。その自然地形の魅力を極力損なうことなく、防風林としての恩恵も受けながらささやかに建つ建築の佇まいが、自然と共に生きてきた奄美大島の人々の生活を反映する宿泊体験の器としてふさわしいと考えた。
高床形式の基礎は、既存の微地形を造成することなく受け入れると同時に室内からの良好な眺望、雨天時の足元の悪さの改善および床下の湿気対策を実現している。これは奄美式高倉をはじめとする島に根付いた建築形式でもあり、風土を想起させるアイコンとしての効果も無視できない。
室内は18坪に満たないコンパクトな空間であるが、外周部に設けた縁側空間と深く低い軒が人の居場所を作り出しながら強い日差しや雨風に対抗する緩衝空間も生み出し、狭小の内部空間を外縁に向け延長している。この軒下・縁側を纏う形式も同様に琉球文化圏における建築ではよく見られるものである。
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以下、建築家によるテキストです。
奄美大島北部の、やや人里離れた高台にある一棟貸しの宿泊施設である。
「高床、低く深い軒、緩勾配の寄棟、縁側」等といった琉球文化圏において散見される土着的建築因子を、奄美大島の気候風土というマクロなコンテクスト、農地として使われていた段々畑状のランドスケープが作り出す地形や眺望といったミクロなコンテクスト、それぞれに対し横断的に応答するよう、継承・再編集を試みた。
計画地はもともと段々畑状の農地として使われており、建築可能範囲は巨大な蘇鉄(そてつ)に囲まれた小さな緩傾斜地のみであった。その自然地形の魅力を極力損なうことなく、防風林としての恩恵も受けながらささやかに建つ建築の佇まいが、自然と共に生きてきた奄美大島の人々の生活を反映する宿泊体験の器としてふさわしいと考えた。
高床形式の基礎は、既存の微地形を造成することなく受け入れると同時に室内からの良好な眺望、雨天時の足元の悪さの改善および床下の湿気対策を実現している。これは奄美式高倉をはじめとする島に根付いた建築形式でもあり、風土を想起させるアイコンとしての効果も無視できない。
室内は18坪に満たないコンパクトな空間であるが、外周部に設けた縁側空間と深く低い軒が人の居場所を作り出しながら強い日差しや雨風に対抗する緩衝空間も生み出し、狭小の内部空間を外縁に向け延長している。この軒下・縁側を纏う形式も同様に琉球文化圏における建築ではよく見られるものである。
またインテリアはクライアントがこの施設で目指す「泊まれるアートミュージアム」のコンセプトのもと奄美大島を中心に活動している作家の作品を積極的に採用しており、建築はそれらの展示空間としての機能も担っている。
気候風土から生まれ引き継がれてきた建築形式のレファレンスによって生み出される建築は、初めてそこを訪れる人にもコンテクストを空間体験として伝える翻訳機のようなものだ。
離島という明快なコンテクストのフレームを可視化することこそ、単なる快楽的な居心地の良さだけではない宿泊体験を生み出すのである。その宿泊体験の質こそが宿泊施設としての建築を考える上での一つの命題になり得ると考えている。
■建築概要
題名:琉球ヴィラ ソテツ
所在地:鹿児島県大島郡
主用途:宿泊施設
意匠設計:小野良輔建築設計事務所/小野良輔
構造設計:円酒構造設計/円酒昂
施工:政建設/政和豊
棟梁:愛建工業/愛川聖也
外構:中山造園/中山和紀
ステンドグラス:Sea Shore Stained Glass/熊﨑浩
真鍮金物・照明:千sen/西本卓也
構造:木造(在来軸組工法)
階数:地上1階
敷地面積:1081.83m2
建築面積:65.81m2
延床面積:57.14m2
設計:2021年11月~2022年4月
工事:2022年5月~2022年10月
竣工:2022年10月
写真:石井紀久