萬玉直子+西田司+神永侑子+西田幸平+オンデザインが設計した、神奈川・横浜市の「まちのような国際学生寮 神奈川大学新国際学生寮・栗田谷アカデメイア」です。
多様な学生が住む寮の計画です。建築家は、共同生活で“交流を促進”する存在を目指し、最小限の“個室”と様々な特徴を持つ居場所“ポット”を散在させた生活機能を担う“共用部”で構成しました。そして、小さな滞在空間の“連続体”として建築を作る事が意図されました。
この寮では、国内学生から留学生まで多様なバックグラウンドを持った学生が200人集まって生活する。
半年間の短期留学の学生もいれば、2~3年在籍する学生もいることが見込まれている。住まうメンバーの更新サイクルが比較的早い中で、共同生活を通して、交流(国際理解・文化交流)を促進する新しい考え方の学生寮の実現が求められた。
「交流空間」と聞くと、ついつい「人が大勢集まることのできる部屋の用意」が前提となりがち(この場合だと200人が集まることのできる部屋)だが、こういった個人の生活におけるモチベーションが交流のきっかけになると考えた。個人の生活が互いに影響し合い繋がる小さな交流が、200人集まることで同時多発的に起こることを目指した。
そこで、寮室(個室)は可能な限りコンパクトにし、生活のほとんどを受け止める最大限の共用部をつくった。
建物は3つのブロックに分節しており、寮室(や共用キッチンや水回り)が面する廊下に囲まれた4層の吹き抜けが1ブロックごとにある。
この4層の吹き抜けは、平面的には中廊下タイプの廊下をぐわっと広げてつくったような吹き抜けだが、雁行している建物形状がそのまま内部にも入り込んでいたり、バルコニーのように張り出している場所(コーナーポット)がある。また、吹き抜けには縦動線である階段を2軸用意し、各階でいろんな方向に架かっており、各中間階にある踊り場は腰壁に囲まれた居場所(ポット)となっている。
竣工時の様子
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竣工3年後の様子
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以下、建築家によるテキストです。
この寮では、国内学生から留学生まで多様なバックグラウンドを持った学生が200人集まって生活する。
半年間の短期留学の学生もいれば、2~3年在籍する学生もいることが見込まれている。住まうメンバーの更新サイクルが比較的早い中で、共同生活を通して、交流(国際理解・文化交流)を促進する新しい考え方の学生寮の実現が求められた。
共同生活の中に潜む個人の生活に注目してみると、そこにはたくさんの〇〇したいがある。食事は毎食自炊したい、授業の課題を広いテーブルでやりたい、ソファの上で読書したい、体を動かしたい、音楽を聴きたい、映画が観たい、朝は外気に当たりたい、お風呂上がりはごろごろ寛ぎたい、など。そしてそこから、いつもあの子がつくっている郷土料理を食べてみたいな、授業のレポート相談したいな、音楽の情報交換したいな、など他者への興味に繋がる。
「交流空間」と聞くと、ついつい「人が大勢集まることのできる部屋の用意」が前提となりがち(この場合だと200人が集まることのできる部屋)だが、こういった個人の生活におけるモチベーションが交流のきっかけになると考えた。個人の生活が互いに影響し合い繋がる小さな交流が、200人集まることで同時多発的に起こることを目指した。
そこで、寮室(個室)は可能な限りコンパクトにし、生活のほとんどを受け止める最大限の共用部をつくった。
建物は3つのブロックに分節しており、寮室(や共用キッチンや水回り)が面する廊下に囲まれた4層の吹き抜けが1ブロックごとにある。
この4層の吹き抜けは、平面的には中廊下タイプの廊下をぐわっと広げてつくったような吹き抜けだが、雁行している建物形状がそのまま内部にも入り込んでいたり、バルコニーのように張り出している場所(コーナーポット)がある。また、吹き抜けには縦動線である階段を2軸用意し、各階でいろんな方向に架かっており、各中間階にある踊り場は腰壁に囲まれた居場所(ポット)となっている。
ポットやコーナーポットは、さまざまである。カウンターデスクのあるポット、腰壁が黒板になっているポット、たくさん本が置ける書棚に読書灯付きソファがあるポット、広めのワークテーブルがあるポット、畳のポット、芝生のポット、絨毯のポット、L型ソファのあるポット、デイベットのようなソファのあるポット、固めのベンチのポット、木に包まれたポット……
ひとつひとつ形も大きさも素材も家具も異なる。その日の目的や気分によって、自分の好みによって、ひとりで勉強したいから、誰かとお茶したいから、次の寮内イベントの企画ミーティングしたいから……
そのさまざまな〇〇したいに応えるように、毎日生活する環境だからこそ豊かなバリエーションを備えておく。
7m2の寮室の中から一歩外に出ると、ソファやカウンターデスクのあるゆったりとした廊下や、吹き抜けに浮かぶポットや、ポットへと続く階段がある。寮室と共用部全体で見るとXSとXLくらい対照的だが、XLの共用部に散りばめられたSサイズくらいのポットやコーナーポットがそのスケールを緩やかに繋ぐ。ここでは、今まで廊下や階段という場所とも扱われてこなかった移動や避難のための機能を、ポットやコーナポットを多中心に配置することで、人の拠り所となる居場所に読み替えている。
そうすることで、単調な吹き抜けではなく、近距離にポットがあったり、遠くのポットで勉強している友達が見えたり、キッチンからの美味しそうな匂いを感じながらシャワーを浴びに移動したり、日中はトップライトから陽が入るポットを選んだり、ポットで寛ぐ友達を横目にキャンパスへ出かけたり……生活する中で自然と発生する「出会いのある」まちのような場となっている。
常に、個と全体(他者)が同居する環境で、自分の身の回り半径3mくらいを捉える続けるの居場所の連続体でできたこの建物は、みんなの場所でもあるけれど自分の場所でもあるという所有感覚や空間への主体性が育まれることだろう。
他者とともに生きる建築「まちのように人が集まる暮らしの風景」
まちのような国際学生寮、竣工から3年経過して。
ぐんと冷え込んだ12月上旬、数ヶ月ぶりに「まちのような国際学生寮」を訪れた。竣工と同時期にコロナ禍を迎え、しばらく少人数で運営をしていたが、今年の9月より100名を超える留学生が来日し、日本人学生とあわせて200名弱での共同生活がいよいよ始まっていた。今では「栗田谷アカデメイア」の名称で親しまれている。
朝の時間帯、パジャマ姿で個室から出てきて洗面スペースに向かう学生、竣工時にgreenポットと名付けていたポットで朝ごはんを急いで食べている学生、いってきますと管理人さんに挨拶してキャンパスへ出発する学生、いい匂いを共有部に漂わせてつまみ食いしながら料理している学生、卒論なのかパソコンや資料を机いっぱいに広げたままポットのソファで寝ている学生……複数人の日常と遭遇する。
共用部を見渡せば、掲示板には随分と上手い落書きや“〇〇くん掃除してね”という伝言などいくつかの言語が混じり合って書かれており、日当たりの良い場所には小さな植物が育てられ、個室の扉横のボードにはおそらくその部屋の学生が好きなキャラクターが飾られており、吹抜けの手すりには洗濯物が干されている。雑多ながらも豊かな生活風景のなかに、少し専有しすぎでは?と突っ込みたくなるポットもちらほらと見受けられる。
設計時、“まちのような”という言葉に、集合のかたちを超え、使い手の所有感「みんなの場所だけど、自分の場所でもある」という意味合いがあるのではないか?と考えていた。
今回、学生の暮らしぶりを観察していると、共用部に発生しているモノ(何がどこにどのように置かれているか)から、それぞれ大なり小なりは違えど、自分の生活領域を耕している様子がうかがえる。とくに個室の扉横のボードには、好きなモノを発信する学生や、共用部で使うモノを置いている学生、靴やコートなど外部で使うモノの置き場所としている学生、ご自由にとチュッパチャップスを大量に差し込んでいる学生など様々でおもしろい。個室から一歩共用部に出て、そこに自らの生活環境をつくっていく、その重なりがひとつの生活風景となっていることに建築のおもしろさを改めて感じた訪問だった。
(萬玉直子/オンデザイン)
■建築概要
題名:まちのような国際学生寮 -神奈川大学新国際学生寮・栗田谷アカデメイア-
所在地:神奈川県横浜市神奈川区
主用途:寄宿舎 一部大学
設計:オンデザインパートナーズ
担当:萬玉直子、西田司、神永侑子、西田幸平、岩崎修、大西康隆、吉川晃一
施工:松井建設
協力:Arup、岡安泉照明設計事務所、KMD Inc.、藤森泰司アトリエ
構造:鉄筋コンクリート造+鉄骨造
階数:地上4階
敷地面積:5,492.47m2
建築面積:2,233.94m2
延床面積:6,065.63m2
設計:2016年7月〜2018年2月
工事:2018年3月〜2019年7月
竣工:2019年7月
写真:鳥村鋼一