SHARE SDレビュー2023の入選作品の展覧会レポート(前編)。“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件での建築コンペで、若手建築家の登竜門としても知られる
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- 2023年9月15日(金)–9月24日(日)
SDレビュー2023の入選作品の展覧会レポート(前編)です。
“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件の建築コンペティションで、若手建築家の登竜門としても知られています。本記事では展覧会の様子を前編・後編に分けて紹介します。会期は2023年9月15日~24日。SDレビュー2023の審査を務めたのは、千葉学、中山英之、山田憲明、金野千恵でした。展覧会の公式サイトはこちら。
SDレビューとは
SDレビューは、実際に「建てる」という厳しい現実の中で、設計者がひとつの明確なコンセプトを導き出す思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうというものです。
実現見込みのないイメージやアイデアではなく、実現作を募集します。
1982年、建築家・槇文彦氏の発案のもとに第1回目が開催され、以降毎年「建築・環境・インテリアのドローイングと模型」の展覧会とその誌上発表を行っております。
以下、入選作品を展示順に掲載します。
小さな開発
水上哲也
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繁華街に建つペンシルビルの計画。不動産業を営むオーナーは都心の小さな土地を購入しテナントビルを建てる事業を行なっている。敷地は高さ28mのビルが建ち並ぶ街区に空いた間口4m、15坪の土地である。周辺は薄暗い環境に閉鎖的な建物が詰め込まれ闇深い。本来ペンシルビルの建設は小さな開発でありその土地へ価値を還元するべきだが多くは土地の価値に、ぶら下がっているだけである。本計画では建物に必要不可欠なエレベーター、直通階段、避難上有効なバルコニーを光と風を呼び込む装置と見立てる。5階建とすることで直通階段を1つとし、エレベーターと階段を敷地奥に配置し高く持ち上げ、敷地の奥に光と風を取り込む計画とした。エレベーターシャフトは高反射アルミ材による光井戸、階段室は中性帯の位置を引き上げ換気塔とした。エレベーターは常時1階にあり稼働すると建物内全体の光環境が大きく変化する。階段室による換気塔は基本重力換気であるが中間期一定以上の風速の風が吹くと採風塔となり風力換気により上空のフレッシュな風を建物内と街へ取り込む。敷地の奥側から各テナントへアクセスする動線計画は表通り側が店主の居場所となり、バルコニーを介しその人々の様相や動的なアルミスクリーンによって自主的に周辺に良好な環境をつくり出す。建物の小ささ故に人間の動きがそのまま表層に立ち現れた瑞々しい建築による開発を目指した。
100年の家 S邸改修計画
百枝優
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長崎市にある RC 造3階建住宅の改修計画。依頼当初は新築も検討していたが、環境負荷を鑑みて既存建築を長く使うための仕組みをデザインすることにした。
まず現状の問題点を洗い出した。元々は2世帯だったため延床面積は100坪以上あり、5人家族には大きすぎる。また、施主が経営する医院の敷地内に建設されたことで日照条件
が悪い。さらに、断熱材が 無いことで過酷な温熱環境になっている。
そこでRCラーメン躯体の屋根、床、内壁を抜いて荷重を減らしながら耐震診断+設計を行い、柱梁のフレーム間に木造の「部屋を建てる」ことを考えた。集合住宅の実践が多いスケルトン・インフィルの考えを部屋スケールに展開、既存建築をオープン・ビルディング化し、3階→2階建てへの減築、天窓からの採光、躯体内側を断熱した合理的な環境計画を実現する。部屋は個別に空調し、共用部に面する窓を開閉することで「室内」から「室外」へと快適な温度の空気を緩やかに取り込む。
ここでは「延命(躯体の長寿命化)」と、「新陳代謝(部屋の建て替え)」という「建築の生」に関する異なる概念をコンクリート、木造という2つの架構の入れ子によって両立させた。耐久性と断熱性を備えた外皮の内部に更新性を構築することで、建築、都市、地球の均衡を保つためのモデルを提示したい。施主には3人のお子さんがいて、仮に1番下の息子さん(9歳)が67才までこの家を住み継ぐ事ができれば、ちょうど100年が経過する。
TEMPO
湯浅良介
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商品化店舗付き住宅の計画。そのエントリーモデルとしての花屋兼住居を設計している。
土地がまだ決まっていないからこそ、地球の上にある、ということを設計の拠り所としている。店舗併用住宅、という住むことに加えて働く時間が重なる形式が、人の生活がある一つの場所で日々昼夜繰り返されることを意識させる。陽が照ること、雨が降ること、風が吹くこと、夜の帳が降りることと人の暮らし。それぞれがそれぞれのテンポをもってある一つの場所に重ね合わされる。
建築を構成するエレメントは単純な幾何形態を使用することで、プロトタイプとしての展開可能性を担保しながら、各々のエレメントが地球上に存在する様々なテンポに反応する役割を担い演じることで建築は形作られ豊かさを纏う。
“tempo”には「拍の速さ、時間、天気」の他に、「演劇のなかの一部」という意味がある。自分の生も大きな何かの一部である、地球の上に滞在することでこの世界の建設に加担している、と感じることは、自分以外の他者、自分をとりまく環境や世界への想像力をより高い解像度をもって描く助けにならないだろうか。
そう感じる想像力を得ることができたなら、今生きているこの時間、目の前でただ起きている事実や現象そのものにかけがえのなさを感じながら世界を見ることができないだろうか。その一助となるような、日々の現象を人や街の彩りとする建築を考えている。
1:1のハウス
河嶋正樹+荒木康佑
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半外部空間と内部空間の気積比1:1の住宅である。
敷地が広い地方の住宅においては外部環境と共生することが必然となるが、住宅の高性能化が進む現在、外部と親密に繋がる大きな窓を設けることは困難になりつつある。そういった状況下にある住宅事情を肯定しながら外部との豊かな関係を再考したい。
敷地は農業地帯と工業地帯の間に位置し、周辺民家は母屋、下屋(半外部)、納屋といった要素で構成されている。
母屋と下屋の関係を反転しながら半外部空間を内部空間との気積比1:1で設けてみる。
ヴォールト屋根の空間を母屋に、片流れ屋根の空間を下屋に読み換え、双方を噛み合わせ、母屋は納屋を内包した半外部空間とし、下屋は純粋な内部空間とした。気積の半分を割いた半外部空間は敷地の広い地方暮らしには欠かせないさまざまな道具や行為を受け入れる場所となり、夏期は大きな軒下、冬期は温室、中間期は室内の延長として利用され、気積の小さな内部空間はエネルギー効率の良い高気密高断熱な室内となる。
庭や 畑と暮らすための道具に囲まれながら、四季を通じてダイナミックに変化する自然を感じ取ることができる半外部空間の余剰は、豊かで時に過酷な外部との暮らしを置き去りにしてしまう現代の住宅に必要な、おおらかな豊かさである。
竹が繋ぐ地域の和ものづくりを通した町づくり
西村安未+猪又理子+江南聖也+吉川直杜+大石親良+川崎爽+中田陸+箱田里菜+陶器浩一+滋賀県立大学陶器浩一研究室
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「ゆめみヶ丘岸和田」は広大な丘陵地を開発して誕生した新しいまちで、その約半分を自然エリアが占め、さらにそのうちの8割が竹林となっている。
ここで提案するのは、竹林およびその麓に築く「竹工房」と「ギャラリー」で、建築は竹林から伐り出した竹を用いて自らで築く。竹工房では竹林内で伐採した竹を、枝打ちから加工まで一連の流れ作業で行うことで、一貫して竹製品を生み出すことができ、工房での制作物を展示するギャラリーを併設することで竹の地産地消にも貢献し、新たな産業を創出する礎にもなる。
また今回、新たな竹林との向き合い方を提案する。行政や企業が一対一で自然保護活動に取り組むのではなく、この場を中心として竹林とかかわる人たちのコミュニティを作り、それが地域社会に連鎖してゆくことで、自然環境に溶け込んだ心にゆとりのある暮らし、サスティナブルな街を目指す。
House on the Border
土屋紘奈+杉山幸一郎+倉掛健寛+豊福晃弘+早坂環
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計画敷地は福岡市から車で40分ほど離れた田園風景の広がる地域にある。
ここに母と2人の子供が住まう家を計画している。
敷地の一方は町道に、もう一方は気持ちのいい緑が広がる田園地帯に面しており、私たちはそちらに開いた空間を頭に浮かべた。
建築は自分と他人の間に線を引くことからはじまる。自分と他人、街の間には無数の境界(線)があり、あちらとこちらが生まれる。
それらは時に堀や柵として現れている。計画敷地の周辺は塀に囲まれた家々が立ち並ぶ、まさにそのような環境であった。
私たちのプロジェクトは、線の引き方を考えることから始まった。
南側の田園地帯を大きな庭のように大きく取り囲み、道路に面した北側の空間ではプライバシーをどう確保するかを考えた。
結果、境界(線)は敷地の真ん中を横断して描かれ、その上の空に向かって大きな開口を持つ、屋根がそっとのっている。
あちら側には緑の田園風景を取り込むプライベートなリビングがあり、こちら側には収納と水回りをコンパクトにまとめた住宅のインフラを計画した。
限られた予算からコンパクトなボリュームが求められたが小さいながらも、あちら側とこちら側は、外の空気や風景と一緒に繋がり、自分のいる領域が広がっていくような、豊かで大きな家を計画している。
■展覧会情報
会期:2023年9月15日(金)~9月24日(日)会期中無休
11:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ヒルサイドテラスF棟 ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8