前田茂樹 / ジオ-グラフィック・デザイン・ラボが設計した、奈良の「三宅町交流まちづくりセンター MiiMo」です。
地域子育て支援拠点施設の計画です。建築家は、“多世代が繋がり地域の魅力を創出”という展望に応えて、利用者の活動の間に自然と関わりが生まれる空間を志向しました。そして、多様な居場所を用意した上でユーザー自身での繋がり方の調整も可能としました。施設の公式サイトはこちら。
「多世代が繋がり地域の魅力が創出される町民ひとりひとりの“居場所”」というMiiMoの基本計画から運営方針まで一貫するビジョンに対して、私たちは設計において、町民や職員の皆さんとの丁寧な対話プロセスを通して、多世代の町民ひとりひとりが、これまでの活動を継続することも重要視しつつ、その活動が他者から見えたり、活動の音が聞こえたりすることが、地域の魅力の創出につながると考えた。
ひとりひとりの居場所については、時間帯や活動に応じて、「静かな場所」「にぎやかにしていい場所」を用意し、利用者が見え隠れ程度の仕切り方をするなどのチューニングができるような、家具、可動間仕切り、カーテンを、建築と等価に扱って室内外の環境のデザインを行った。
人を包んでいる環境自体を、利用者や運営者が主体的に、自らの居心地のいい状態にチューニングすることで、思い思いに居る場所ができる。また人が居るという風景自体も、他者にとっては環境となり、多世代がそれぞれの活動をしながら居合わせ、地域の魅力が可視化されるという状況が生まれる。
建築がつくりだす立体的な中間領域が、敷地内外の環境と新たな関係をつくり、場所の価値を再定義したいと、この10年来考えている。
今回のMiiMoの敷地では、建て替え前は公民館が、ホール正面をブロックし、歩行者や子どもたちが滞留する場所がなかった。私たちは、公民館の建て替え、学童保育、子育て支援機能という、三宅町の老若男女が必要とする場所を、町役場とホールが集まる敷地に集約するにあたり、3つの建築がMiiMo広場を中心に向き合う関係をつくり、出来るだけ公(おおやけ)らしくない場所の価値へと再定義したいと考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
人と環境相互のチューニングがつくる町民ひとりひとりの”居場所”
「多世代が繋がり地域の魅力が創出される町民ひとりひとりの“居場所”」というMiiMoの基本計画から運営方針まで一貫するビジョンに対して、私たちは設計において、町民や職員の皆さんとの丁寧な対話プロセスを通して、多世代の町民ひとりひとりが、これまでの活動を継続することも重要視しつつ、その活動が他者から見えたり、活動の音が聞こえたりすることが、地域の魅力の創出につながると考えた。
また、ひとりひとりの居場所については、時間帯や活動に応じて、「静かな場所」「にぎやかにしていい場所」を用意し、利用者が見え隠れ程度の仕切り方をするなどのチューニングができるような、家具、可動間仕切り、カーテンを、建築と等価に扱って室内外の環境のデザインを行った。
人を包んでいる環境自体を、利用者や運営者が主体的に、自らの居心地のいい状態にチューニングすることで、思い思いに居る場所ができる。また人が居るという風景自体も、他者にとっては環境となり、多世代がそれぞれの活動をしながら居合わせ、地域の魅力が可視化されるという状況が生まれる。
広場を中心に3つの建築が向き合う関係をつくり場所の価値を再定義
建築がつくりだす立体的な中間領域が、敷地内外の環境と新たな関係をつくり、場所の価値を再定義したいと、この10年来考えている。
今回のMiiMoの敷地では、建て替え前は公民館が、ホール正面をブロックし、歩行者や子どもたちが滞留する場所がなかった。私たちは、公民館の建て替え、学童保育、子育て支援機能という、三宅町の老若男女が必要とする場所を、町役場とホールが集まる敷地に集約するにあたり、3つの建築がMiiMo広場を中心に向き合う関係をつくり、出来るだけ公(おおやけ)らしくない場所の価値へと再定義したいと考えた。
そこで行った敷地全体の設計の工夫は以下の3つに収斂される。
①駐車場を分離し、MiiMo広場を中心にして歩行専用空間を増やし、目的となる飲食店舗を配置。
②大階段や2階テラスなど室内と繋がった、MiiMo広場に対する立体的な視点場を大屋根の下につくる。
③緩い曲線を持つ大屋根や、それを支える柱によって、MiiMo広場に対してヤン・ゲールの提唱するエッジすなわち空間の境界ゾーンをつくる。
場所の価値が再定義され定着するところまでがデザイン
場所の価値を再定義することの先には、それが日常に定着するところまでをデザインと捉えている。
午前中から昼過ぎにかけては、子育て世代の方々が、3階の子育て世代包括支援センターから降りてきて、MiiMo広場でゆっくりと子どもたちを遊ばせる場になり、夕方以降は小学生がMiiMo広場で転がって宿題をしたり、中学生が動画を撮ったり、思い思いの場所で夕食まで過ごす、これまでに三宅町役場前になかった風景が、竣工後約2年間で日常化している。
この風景が定着しつつある理由は、先述のビジョンを運営チーム全体で一貫した核として持ちながらも、実際の運営や利用者の要望に合わせて更新する運営チームの不断の創意工夫にある。設計時には把握出来ていなかった箇所を改修する際にも、運営チームからはデザインについて報告を受けるなど、定着のデザインにも建築家が関わり続けている。
■建築概要
作品タイトル:三宅町交流まちづくりセンター MiiMo
所在地:奈良県磯城郡三宅町大字伴堂689
主要用途:地域子育て支援拠点施設
建主(発注者、事業主体、クライアント):三宅町
建築設計:ジオーグラフィック・デザイン・ラボ 担当/前田茂樹、中野照正(元所員)、村上康史(元所員)、田中宏幸(元所員)
構造設計:tmsd萬田隆構造設計事務所 担当/萬田隆、春日良介、小林充
機械設備:島津設計 担当/島津充宏 西寿隆(元社員)
電気設備:島津設計 担当/島津充宏 細沼昭勝
監理:株式会社URリンケージ西日本支社 担当/都市再生本部監理部工務課
外構設計:環境デザイン事務所 素地 担当/松下岳生
サインデザイン:UMA / design farm 担当/原田祐馬、平川かな江
ファブリック:fabricscape 担当/山本紀代彦、森永一有
照明計画:ツキライティングオフィス 担当/吉楽広敦 佐藤未由希
建築施工:森組 奈良営業所 担当/現場代理人・監理技術者 上村勝彦
空調施工:森組 奈良営業所
衛生施工:森組 奈良営業所
電気施工:森組 奈良営業所
階数:地上3階
主体構造:鉄骨造
杭・基礎:独立基礎
敷地面積:1542.28㎡
建築面積:967.02㎡
延床面積:1881.56㎡
1階:449.51㎡、2階:690.08㎡、3階:741.97㎡
建蔽率:62.71%(許容:70%)
容積率:118.78%(許容:200%)
竣工年月:2021年3月
撮影:笹の倉舎 / 笹倉洋平、衣笠名津美