小野寺匠吾建築設計事務所が設計した、東京・港区の店舗「IZA Tokyo」です。
これからの商業店舗開発も主題とした計画です。建築家は、環境負荷等への応答も意識し、“解体をデザインする”を掲げる設計手法での創造を志向しました。そして、解体自体が完成に繋がる“覆う・変質させる・転用する”の手段で空間を作り上げました。店舗の場所はこちら(Google Map)。
東京の南青山にあるセレクトショップ「IZA」の移転プロジェクトである。
「IZA」は骨董通り沿いの路面店で約10年の間多くの人々に愛され利用されてきたセレクトショップである。
既存店ビルの解体に伴い振り返ってみると、この10年の間に取り扱うブランドのデザイナーや消費者の意識、社会の潮流などにたくさんの変化があったはずである。ファッション業界だけでなく商業界全体が環境負荷などの課題を認識する時代になったにも関わらず、未だに新店舗を構える際には大量の廃棄と新素材を使用して煌びやかな世界観を作り込むことに躍起になっているのが現状だ。
新店舗のための移転先物件は前アパレルショップの店舗を居抜きで契約していたこともあり、これをIZAの新しい姿勢を示す場所とするにはいい機会だと考えた。そこで私たちは「解体をデザインする」というコンセプトを打ち出した。
この提案は、これからの時代の商業店舗開発をどう考えていくか、という大きな課題を背景として抱えている。じっくり解体にこだわることで商業界に対する新しいアプローチを切り開き、デザインという概念を実践的にUnmakeすることに挑戦したプロジェクトである。
竣工写真(商品のない状態)
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竣工写真(商品が配置された状態)
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以下、建築家によるテキストです。
東京の南青山にあるセレクトショップ「IZA」の移転プロジェクトである。
「IZA」は骨董通り沿いの路面店で約10年の間多くの人々に愛され利用されてきたセレクトショップである。
既存店ビルの解体に伴い振り返ってみると、この10年の間に取り扱うブランドのデザイナーや消費者の意識、社会の潮流などにたくさんの変化があったはずである。ファッション業界だけでなく商業界全体が環境負荷などの課題を認識する時代になったにも関わらず、未だに新店舗を構える際には大量の廃棄と新素材を使用して煌びやかな世界観を作り込むことに躍起になっているのが現状だ。
新店舗のための移転先物件は前アパレルショップの店舗を居抜きで契約していたこともあり、これをIZAの新しい姿勢を示す場所とするにはいい機会だと考えた。そこで私たちは「解体をデザインする」というコンセプトを打ち出した。
この提案は、これからの時代の商業店舗開発をどう考えていくか、という大きな課題を背景として抱えている。じっくり解体にこだわることで商業界に対する新しいアプローチを切り開き、デザインという概念を実践的にUnmakeすることに挑戦したプロジェクトである。
Unmakingという設計手法
「解体をデザインする」というコンセプトを考案し、その設計手法を「Unmaking(アンメイキング)」と名付けた。作ることを意味するmake[meik]に否定の接頭辞un[ən]が組み合わさることで、「作ることを否定しながら作り上げること」を意味する造語である。
現代に生きる僕たち建築家は様々な側面で、作ることと作るべきでないことについてじっくりと考え向き合う必要がある。その先で、見たことのない世界を見せることができているかどうか、そのレベルまでちゃんとリーチできているかどうかが問われていると感じている。
「Unmaking」することは解体廃棄が出ないことだったり、解体しないことだったり、解体しながら考えることであったり、解体したら完成している状態も含む行為だと考えている。解体のプロセスが同時に完成につながっていて、それが同時に現状の課題の改善に向かうという状態そのもの(回復)をデザインしている。
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「Unmaking」においては壁面や天井に使われていた既存のマテリアルは計画的に下地として再利用、または解体・回収、アトリエに持ち込み再加工をする。再加工の方法は、回収したマテリアルに多彩なメッシュ下地を貼り付け、石膏や樹脂を上塗りした「ギプス」状のプレキャストパネルとして再生する。そしてこれを新店舗の仕上げ(治具)として再利用(治療)するというもの。
ギプスの下地となるメッシュや既存仕上げの表情が見え隠れして、この店舗は単なる白い箱のように単純なものではなく、深く多彩な白い箱と言える。また解体の際に出た端材などはアートピースとして再構築し、この行為についての示唆を与える装置として機能する。
3つの手段
このプロジェクトでは3つの手段によりUnmakingを試みた。
1. 覆う [oh-u] cover / wrap
2. 変質させる [henshitsu] alter its quality
3. 転用する [ten-yo] repurpose
1. 覆う[oh-u] cover / wrap
解体・廃棄予定であったマテリアルを薄い白層で覆い、空間に新しい表情を与える。既存マテリアルの表面起伏がこの薄い白層に響き、白層自体のテクスチャと混ざり合うことで複雑で多様な表面が至るところに現れる。既存マテリアルを解体せずに下地とすることで可能となる豊かな工芸的表現である。空間の中では既存下地の上に様々な材料を組み合わせて、いくつかの「白」が場所に応じて施されている。
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2. 変質させる [henshitsu] alter its quality
真鍮等のメタル系マテリアルを回収し、アトリエに運び込む。メッキを剥がす、あるいは硫黄や酸をかけて洗うことで大きく表面の色味や印象を変質させる。白で覆われる空間の中で、深緑~黒色となった鉄製のマテリアルが対比的なアクセントを生み出す。
一方、化学変化しないクロームメッキのステンレス手すりはハンマーで叩く。伝統工芸の技術を生かし、槌目加工を丁寧に施すことで、重厚な手すりはさらなる存在感をもって吹き抜け空間をゆらめきのある輝きで照らす。既存マテリアルそれぞれの物性を考慮したアプローチによって人の手を加えることが、新たな表現の探求につながる。
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3. 転用する [ten-yo] repurpose
撤去されたマテリアルや既存什器から、新たな価値・機能を創出する。「覆う」「変質」させるといった手段を用いて店内装飾用のアートピースや什器として再構成する。
現場に初めて入った際に見た光景は、既存バーカウンター上部に朽ちた状態で残されていた既存店舗の吊り照明であった。この象徴的な姿を商業の極限状態を示すサインと見立て、これを別の照明器具として転用した。世界の「状態」を表現するシンボルとして再生し、店舗の要となる吹抜け空間に移設・再配置した。
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■建築概要
題名:IZA Tokyo(イザ・トーキョー)
所在地:東京都港区南青山5-8-3
主用途:店舗
施主:グルッポタナカ
設計:小野寺匠吾建築設計事務所
担当/小野寺匠吾、河野祐輝、佐藤大地
施工:白水社
美術施工:Artifact
区画面積:291.53㎡(1階 138.95㎡ / 2階 152,58㎡)
設計期間:2023年2月~2023年4月
工事期間:2023年4月~2023年6月
竣工:2023年6月
写真:三嶋一路