JAMZA / 長谷川駿+内田久美子+猪又直己が設計した、東京・江東区の「深川えんみち」です。
子供から高齢者までを受入れる“多世代共生の複合型福祉施設”です。建築家は、日常に福祉が存在する状況を目指し、地域の人々を招き入れる“道を引き込む動線計画”の建築を考案しました。また、街と繋がる為に“施設らしくない”境界面を作ることも意図されました。施設の公式サイトはこちら。
江東区深川は、賑やかな参道や趣ある裏路地、ハレの日には道を埋め尽くす縁日や「水掛け祭り」など、道を自在に住みこなし、活き活きとした生活景が現れる、下町情緒溢れる街。
「深川えんみち」は、深川の街とゆるやかにつながる、多世代共生の複合型福祉施設である。
1階に高齢者デイサービス、2階に学童保育クラブと子育てひろばが入り、各事業が連携しながら入り混じる。加えて、地域の人に福祉施設に参画してもらう仕組みとして、一箱本棚オーナー制度の私設図書館「エンミチ文庫」を設け、福祉施設と関わりを持ちにくい世代を巻き込み、交流を生む計画である。
既存建物は、1976年に幼稚園として建てられ、1994年から斎場として使われてきた、地域に関係の深い鉄骨造二階建ての建物。
観光客の多く集まる寺社に囲まれ、公園のエリア内に位置し、門前仲町駅から5分ほどの賑やかな場所にあるため、観光や散歩、駅へ行き来する地元の方々など、様々な人が行き交う場所である。
一方で、老朽化が進み、暗く寂しい街の裏側のような雰囲気のあった建物を、全面的に改修し、これからの地域づくりの「核」となる福祉施設への再生を試みた。
これまで、「施設」というものが世代や障がいの有無によって多くの分断を生んできた。深川えんみちでは、「施設」を街に開く上で、非日常的な点としてのつながりではなく、日常的にゆるやかに開かれ、街の一部として位置づけられるような、線としてのつながりを生むために、以下の3つの操作を行った。
1つ目は、道を引き込み日常的な接点を生む動線計画。
観光と生活の結節点となっている立地のポテンシャルを活かすように、深川の街から建物の中へ道を引き込み、反対側の道まで通り抜けられる見通しの良い「えんみち」を設け、その道に面して様々な機能を配置。賑やかな通りから見える位置に私設図書館やキッチンスペース、奥へ進むとデイサービスのテーブルや小上がり、縁側、かまど、菜園など、緩やかにつながりながら、街を歩くように生活景が現れてくる。
加えて、建物の南側に、日射遮蔽を兼ねた庇付きの屋外階段を増築し、「えんみち」から連続するように2階への動線を計画。学童に通う子供たちは、1階のデイサービスの真ん中を毎日挨拶しながら行き来し、日常的な世代間の接点となると共に、街の流れを自然に引き込み、地域の方を招き入れる。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
江東区深川は、賑やかな参道や趣ある裏路地、ハレの日には道を埋め尽くす縁日や「水掛け祭り」など、道を自在に住みこなし、活き活きとした生活景が現れる、下町情緒溢れる街。
「深川えんみち」は、深川の街とゆるやかにつながる、多世代共生の複合型福祉施設である。
1階に高齢者デイサービス、2階に学童保育クラブと子育てひろばが入り、各事業が連携しながら入り混じる。加えて、地域の人に福祉施設に参画してもらう仕組みとして、一箱本棚オーナー制度の私設図書館「エンミチ文庫」を設け、福祉施設と関わりを持ちにくい世代を巻き込み、交流を生む計画である。
既存建物は、1976年に幼稚園として建てられ、1994年から斎場として使われてきた、地域に関係の深い鉄骨造二階建ての建物。
観光客の多く集まる寺社に囲まれ、公園のエリア内に位置し、門前仲町駅から5分ほどの賑やかな場所にあるため、観光や散歩、駅へ行き来する地元の方々など、様々な人が行き交う場所である。
一方で、老朽化が進み、暗く寂しい街の裏側のような雰囲気のあった建物を、全面的に改修し、これからの地域づくりの「核」となる福祉施設への再生を試みた。
これまで、「施設」というものが世代や障がいの有無によって多くの分断を生んできた。深川えんみちでは、「施設」を街に開く上で、非日常的な点としてのつながりではなく、日常的にゆるやかに開かれ、街の一部として位置づけられるような、線としてのつながりを生むために、以下の3つの操作を行った。
1つ目は、道を引き込み日常的な接点を生む動線計画。
観光と生活の結節点となっている立地のポテンシャルを活かすように、深川の街から建物の中へ道を引き込み、反対側の道まで通り抜けられる見通しの良い「えんみち」を設け、その道に面して様々な機能を配置。賑やかな通りから見える位置に私設図書館やキッチンスペース、奥へ進むとデイサービスのテーブルや小上がり、縁側、かまど、菜園など、緩やかにつながりながら、街を歩くように生活景が現れてくる。
加えて、建物の南側に、日射遮蔽を兼ねた庇付きの屋外階段を増築し、「えんみち」から連続するように2階への動線を計画。学童に通う子供たちは、1階のデイサービスの真ん中を毎日挨拶しながら行き来し、日常的な世代間の接点となると共に、街の流れを自然に引き込み、地域の方を招き入れる。
2つ目は、連携しながら建物全体を使いこなすタイムシェア。
小学生が学校にいる午前中は、2階で子育てひろばが行われ、未就園児とその親御さんが集まり交流し、時に高齢者とも触れ合う。デイサービスが終わり、お年寄りが帰り始める夕方以降は、学童の学習スペースが1階に拡張し、宿題や様々なグループ学習を行ったり、本の閲覧スペースとして地域にゆるく解放され、時には読書会などのイベント会場になる。
次第に、お年寄りに混じって小学生が宿題をやったり、ふらっと世間話をしにきたり、一緒にご飯を食べたり、一人で静かに本を読んだり、各々が求める距離感で自然な混ざり合いが生まれる。
タイムシェアを可能にする設えとして、2階には未就園児が掴まり立ちしながら遊ぶことができ、小学生もみんなで本を読むことができる「だんだん小上がり」や、フレキシブルに配置を変えモードチェンジできる可動式の棚やテーブル、賑やかな通りに面した場所にデイサービスのキッチンを配置し多用途に使えるようにするなど、境界を曖昧にするような細かい工夫を重ね合わせている。
場所を共有し、時間と共に使われ方が変化することで、利用者同士の自然な接点が生まれ、顔見知りが広がり、他者を思いやることが当たり前になっていくことを目指している。
3つ目は、人と人、建物と街をつなぐ境界面の設計。
「施設らしさ」を払拭するように、道に面して防火設備の連窓木製建具を新設し、建築の内外が見守りし合う空間とした。見通しを確保することで、防犯にも寄与し、かつ認知症症状のあるお年寄りも外を眺めながら落ち着いて過ごされている。素材選定においても、漆喰や木仕上げの床など、自然なムラや光の変化、肌触りのある仕上げを採用。
加えて、外部から見える位置に一箱本棚オーナー制度の私設図書館「エンミチ文庫」を設け、地域の方にオーナーとして本を置いてもらうだけでなく、「お店番」として見守りや本の貸借手続き等の運営にも参画して頂いている。本は誰でも閲覧したり借りたりできるので、地域の方もふらっと訪れる。
オーナー同士の繋がりから、街に開かれたキッチンスペースで読書会やブックカバーづくりのワークショップが開かれたり、子供やお年寄りに本の読み聞かせをしたり、季節に合わせて本をセレクトして窓際にディスプレイしたりなど、福祉施設に関わりを持ちにくい中間世代が自発的に関わり、自分ができる福祉を考え実践できる空間となっている。
この先の社会では、多世代が共に集い生活する姿が、街の中に当たり前にあり、地域の人が参画したくなるような福祉の場を実現することで、街の風景の中に福祉を取り戻すことが必要である。
「深川えんみち」は、多世代が混じりながら小さな福祉施設を使いこなすことで、建築が人に生かされ、道に沿ってゆるやかにつながり、街の日常として福祉が広がっていく、これからの地域づくりの拠点となることを目指した建築である。
■建築概要
所在地:東京都江東区富岡
主要用途:児童福祉施設等(高齢者デイサービス、学童保育クラブ、子育てひろば)
運営事業者:社会福祉法人聖救主福祉会、NPO法人地域で育つ元気な子
設計・監理:JAMZA一級建築士事務所 担当/長谷川駿、内田久美子、猪又直己
設計協力:ウェルケアデザイン 担当/清水良宣
実施設計協力:高橋まり
構造設計(増築部):ラム・ワイコン+永井拓生
構造設計(既存部):松原守
設備設計:T.Y.U綜合設計 担当/浜口祐爾、INプロフェクト 担当/石崎進男
ケアプロデュース:RX組 担当/青山幸広
グラフィック:BOAT INC. 担当/飯高健人
施工:長井工務店
制作家具:松本家具製作所
アースオーブン制作:光芸土 担当/クドウシュウジ
構造:鉄骨造
規模:地上2階
敷地面積:499.14㎡
建築面積:334.68㎡
延床面積:606.35㎡
設計期間:2021年7月~2023年6月
工事期間:2023年7月~2024年4月
写真:Tomoyuki Kusunose