サン・ゴッタールドのホテル/2005-2009
architecturephoto.netでは、スイスの建築家ミラー&マランタを特集します。(※彼らの代表的な作品を写真と日本語のテキストによって段階的に紹介していきます。)
ミラー&マランタは、クイントゥス・ミラーとパオラ・マランタによる設計事務所でスイス・バーゼルを拠点に様々な建築を生み出している。共にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(以下、ETHZ)で学び、ミラーは1987年に、マランタは1986年に同校を卒業している。そして1994年に共同で設計事務所を設立した。
同世代で国際的に活躍しているスイスの建築家としてはギゴン&ゴヤーやクリスチャン・ケレツを挙げることができる。(アネット・ギゴンとマイク・ゴヤーの二人は1984年にETHZを卒業、クリスチャン・ケレツは1988年にETHZで修士号を取得。)
スイスの最も著名な建築家となったヘルツォーク&ド・ムーロンの二人がETHZを卒業したのが1975年であるから、より若い世代の建築家であると言えるだろう。
近年、国際的にも、スイス人建築家が注目を集めている。
ヘルツォーク&ド・ムーロンはもちろんのこと、EM2NやHHF、クリスト+ガンテンバインなど若い世代の活躍も目覚ましい。彼らはインパクトを持った形態の建築を生み出し、見るものを魅了する。そして、国際的なコンペでの勝利や、国内外の様々なプロジェクトにも関わるなど実績を積み上げている。
このようにスイスの建築が様々な場面で注目を集めているのだが、ミラー&マランタの作る建築は彼らのそれとは少し異なっている。
ミラー&マランタは特別なアイデアによって「建築」をつくるというアプローチをとらない。過去の遺産を参照しながら、緻密な設計、プロポーションの操作、素材の選択、等を地道に行い、それらを集積させることによって出来る限り良い建物を作ろうとする。その先に彼らの目指す「建築」があるのである。
先駆者の実験の積み重ねの上に自分が一歩を積み上げることで、少しの新しさと高い質を生み出す。まるで学問のように建物を作り上げていくのである。
過度にオリジナリティを求める日本の風潮も良く理解できる。しかし、それとは異なるアプローチをとるミラー&マランタの建築を、日本の建築界に紹介することも、十分に価値のあることだと思っている。彼らの建築から何かを感じ取ってもらうことができれば嬉しく思う。