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以下、建築家によるテキストです。

京都の山科地区に拠点を構える医療法人が新築する、看護学校を設計した。
地域との密接な繋がりが感じられ、そこで学ぶ学生だけでなく周辺に暮らす人々にとっても心の拠り所となる建築を志向した。

敷地は交通量の多い国道に近接している。周辺にはチェーンの飲食店や量販店、大きな看板広告、近代的なバラックが連なる典型的なロードサイドの風景が広がっている。
こうした風景は日本の随所に見てとることができるが、一見均質に見える風景の中にも、それぞれの地域の特性は控えめに存在している。

看護学校の敷地はきちんとした矩形ではなく、不規則で特徴のある輪郭を持っている。
このような敷地に対して、幾何学的で整然とした形状の校舎を建てるのではなく、むしろ敷地の所与の形を、建築自体を構成する線として有機的に取り入れることで、地域の風景との滑らかで密接な繋がりを表現した。

学校に沿って走る流線形の道路を北側に進むと、医療法人の病院群が広がっている。校舎を流線型の道路形状に沿って造形し、道路の方向性を際立たせることによって、新しい看護学校と、北側に広がる病院群をシームレスに架橋した。

また、医療法人の病院群にはすべて、タイルの意匠が施されている。本建築の外壁にも同じようにタイルをまとわせることで、既存の病院群と物質的に呼応させることを意図している。タイルの色はベージュとし、柔らかく温もりのある、有機的な表情を乾いたロードサイドの風景に加えた。

流線型に造形されたタイルの外壁は、ロードサイドの風景にはためく「旗」のようにも見立てることができる。
国旗やレインボーフラッグがそうであるように、旗は場所や属性、アイデンティティを指し示す象徴としての働きを持つが、均質に見える寄る方のない風景の中にこそ、立ち帰るべき場所を指し示す旗が必要とされるのではないか。

不規則な敷地の輪郭に建築をフィットさせるために、3層の織物を着重ねしたような構成を持っている。
1層目：倉庫や更衣室、トイレなど、窓のない諸室を集中させた外側（道路側）の層
2層目：主動線の役割を持つ、チューブ状の中間層
3層目：実習室や講義室など、開放的な窓のある諸室を集中させた内側（中庭側）の層

世間の喧騒からは一枚隔てられた静けさが、学びの場所には必要とされる。
賑やかな道路に面する層には、あえて窓を必要としない諸室を集中させ、逆に中庭に面した層には、窓のある開放的な諸室を集中させた。開放的な諸室に面した中庭には、タイサンボクの並木を背にした石畳を据えた。たたずんだり、談笑したり、学生達や職員が自由に過ごすことができる「アジール」としての中庭を、学校の中心に設けている。

国道沿いの風景の先には、御陵（みささぎ）のうららかな山々が広がっている。その方向に向かって大きな開口の窓を設けているため、学生たちは、街並みの奥に御陵の山並みを目にしながら過ごすことができる。一方で、地域の人々は、この窓を通して学生たちの学びの姿を目にする。

建築によって生み出される風景に人々の記憶は宿り、徐々に思い出として想記される存在になっていく。「モニュメント」という言葉の原義は「思い出させるもの」である。この建築が周囲に暮らす人々や在学生、学校を旅立った医療人にとって、常に立ち帰る場所を思い出させてくれる「モニュメント」となることを志向した。

■建築概要

題名：洛和会京都看護学校
所在地：京都府京都市山科区
主用途：専修学校
設計：細尾直久 / HOSOO architecture　担当／細尾直久、鈴木一平、加地星香、鈴木清巳
　　　TT Architects　担当／高吉輝樹、山口久美子、松本元気、内海果奈
構造：bananaLab　担当／佐久間譲　
設備：GE設備計画　担当／平野利治、吉田昌弘、敷田修一
照明コンサルタント：ライティング プランナーズ アソシエーツ　担当／窪田麻里、木村光、柯永林
サイン計画：大伸社　担当／芝野健太、矢野顕
施工：あめりか屋　担当／加藤裕之、大森規雄、井本久雄、森田弘昭、岡田周士、佐々木信介、柴坂理駆、西之原匡紀、三好晃太郎、萬谷優、吉本結衣、吉田隼人
構造：鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
階数：地上3階 塔屋1階
敷地面積：3621.43㎡
建築面積：2272.28㎡
延床面積：5772.99㎡
設計期間：2022年3月～2023年9月
施工期間：2023年10月～2025年1月
竣工：2025年1月
写真：杉野圭、山岸剛

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