SHARE 青木弘司 / 青木弘司建築設計事務所による賃貸併用住宅の改修「調布の家」と論考「リノベーションからフラグメンテーションへ」
photo©山岸剛
青木弘司 / 青木弘司建築設計事務所が設計を手掛けた賃貸併用住宅の改修「調布の家」です。末尾には、青木による論考「リノベーションからフラグメンテーションへ」も掲載しています。
以下、建築家による論考です。
リノベーションからフラグメンテーションへ
賃貸併用住宅の改修である。一旦内部をスケルトンにして、構造的な補強と設備的なリニューアルを行った。オーナーの住戸に関しては、3層にわたる木造の軸組を現した上で、子供たちが自立した後の夫婦ふたりの生活の場として、空間を再構築している。
ところで、従来のリノベーションの事例に見られるような、新旧の対比が現れてしまうようなデザインは、どこか時間的な断絶に加担しているようなジレンマを感じる。既存の空間をフレーミングして単なる骨格と位置付けて設計する手法は、この家の25年間の時間的な蓄積に対する、ある種の敬意を欠いた態度のように思われた。過去を標本化せず、生きた設計の対象として捉え直したい。
ここでの時間に関して、もう少し丁寧に見てみると、既存の家には、そこに住まう家族によって生きられてきた時間が存在しているし、本や写真、家具などの家族の持ち物には固有の時間が内在しているともいえる。さらにいうと、既存の柱や梁といった建築的部位は、いわゆる慣習的な要素であり、社会的な蓄積としての時間が宿っている。そして、今回の計画の中で想定していったさまざまな物事によって、これから紡がれていく時間もあるはずだ。これらの時間を一元化するのではなく、今までの時間も、これからの時間もバラバラのまま並存させたいと考えた。
この家では、既存の部分も、今回の計画によって付加される部分も、あらゆる雑多なモノも全て断片化し、価値の優劣なく並置している。あらゆるモノが断片化することは同時に、モノとモノの関係性の種類に膨大なバリエーションを与えることであり、その結果として、リビングルームやダイニングルームといった主要な部屋のシーン以外にも、無数のシーンが断続的に現れる。住み手は、持続的に空間に関わりながら、日々あたらしい楽しさや悦びを発見していく主体となる。
このような断片化(フラグメンテーション)は、建築の時間的な射程を拡張し、身体と空間の拮抗した関係を構築するための、ひとつの方法論といえるのかも知れない。