SHARE 阿曽芙実建築設計事務所による、大阪府堺市の住宅「moon」
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阿曽芙実建築設計事務所が設計した、大阪府堺市の住宅「moon」です。
この作品は、京都工芸繊維大学教授のエルウィン・ビライらが審査員を務めた「第10回関西建築家新人賞」を受賞しています。
家族は、共働きの両親と鍵っ子の子供たちという現代社会においてよくある核家族の構成である。忙しい毎日において、平日の朝と夕方が家で過ごす時間の中心となる。通り過ぎる時間の流れの中での家族と建築との出会いを考えた時、家の中に名前のない余白の空間を挿入することにした。「余白」はある時には広場であり子供たちにとって安心できる中庭的な存在にもなる。そして、日々の喧騒から一瞬とぎれる場所。そうした現代社会の日常の不足な時間や空間を補える場所をつくろうと思った。
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以下、建築家によるテキストです。
敷地は堺市の閑静な住宅地に位置する。周辺は40 年ほど前に行われたミニ開発によって袋小路を囲んで120m2 ほどに区分けされた敷地に木造2 階建てが並んでいる。袋小路を囲むコミュニティは層が厚く、新しい若い家族への期待に溢れていた。
家族は、共働きの両親と鍵っ子の子供たちという現代社会においてよくある核家族の構成である。忙しい毎日において、平日の朝と夕方が家で過ごす時間の中心となる。通り過ぎる時間の流れの中での家族と建築との出会いを考えた時、家の中に名前のない余白の空間を挿入することにした。「余白」はある時には広場であり子供たちにとって安心できる中庭的な存在にもなる。そして、日々の喧騒から一瞬とぎれる場所。そうした現代社会の日常の不足な時間や空間を補える場所をつくろうと思った。
四角いヴォリュームに差し込まれた1 枚の壁。壁が広がり細長い谷間のような隙間をもつことでて住空間の中に余白が生まれる。ある用途の場所から他の用途の場所へ移動する時、その余白を横切り、通過する。余白が場所同士を繋ぎ、回遊させる。日常の間に日常とは質の違う余白としての空間を紛れ込ませることで、同じ距離や時間の移動の経験が膨らみ、また途切れ、違う経験となる。それは、街と住居の間でも同様に機能し、住居に帰って来ると、まずその余白の空間が家族を迎える。
日常の隙間にできた余白の空間は、隙間というのが相応しい廊下ほどの幅で、光を取り入れるために入り口がラッパ状に広がった先に開口がある。開口からの光はゆるやかなカーブの壁をグラデーションに染め、その隙間の反対側の奥の丸いトップライトからは、薄暗くなった空間にぽかんと月のような柔らかい光が降り注ぐ。廊下ほどの幅であることと壁がカーブしていることで、住居としては日常の物が自然と排除された空間となり、建築としての空間が素のままに住居の中に存在できる。
街と住居、住居の中での日常の間にぽっかりと空いた、日常をひときわ引き立たせてくれる静かで柔らかく優しい空間。現代社会の活動的で雑多な日常と背中合わせになって、より生活者の日常にも心にも余白をもたらせる場所を住居の中に提案した。
■建築概要
所在地:大阪府堺市
主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦+子供2 人
主体構造:木造
階数:2 階
敷地面積:123.09m2
建築面積:54.75m2
延べ床面積:88.82m2