SHARE 村山徹+加藤亜矢子 / ムトカ建築事務所による、神奈川県相模原市の住宅「ペインターハウス」 と 冨永美保によるテキスト「身体化されていく建築について」
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村山徹+加藤亜矢子 / ムトカ建築事務所が設計した、神奈川県相模原市の住宅「ペインターハウス」です。
また、tomito architectureの冨永美保が執筆した、この作品についてのテキスト「身体化されていく建築について」も合わせて掲載します。
冨永によるテキストは、ムトカによる設計者目線でのコンセプトテキストと対照的に、今現在そこでおこっている出来事や建物の空気感、クライアントの様子を、柔らかな眼差しで記述しています。
異なる視点からの二つのテキストにより、「ペインターハウス」をより深く知ることができると思います。
※以下の写真はクリックで拡大します
■ムトカ建築事務所によるテキスト
ペインターハウス
3人家族のためのアトリエ併設住宅である。プランは910モジュールを基本とした6,460mm×5,460mmの平面の真ん中に階段を置き、その片側に壁を設け部屋を分節する、という至極単純なものになっている。だが、ただそれだけでは退屈なものになるため、その平面を1階と2階でくるりと反転し、同じ2つの平面が上下にひねりをもって現れる構成とした。素材は建売住宅で一般的に使われている物の使い方と扱い方を少し変えている。外壁の下見板調のサイディングは耐力壁を黄色、非耐力壁をグレーに張り分けし、正面左のコーナーだけ飛び出させる。屋根はFRP防水をパラペットの外側まで包む。窓は枠だけ隠れるようにガラスのサイズに合わせて内壁に穴を開ける。床のタイルカーペットは壁に反り上げる形で納める。仕上げに美術作家である施主がこれらのさまざまなきっかけを読み取り、色を入れていく。
こうした判断はすべて建売住宅の凡例の内側にある。そこに迷いや意図はない。だからあらゆる成り立ちに意味が付着しないある種の健やかさをもった家となった。可笑しなものが心地よく氾濫し、おまけに周りを少しだけ元気づかせる「明るい」家である。
■冨永美保によるテキスト
身体化されていく建築について
オープンハウスに伺ったとき、トーンの落ちた淡いからし色の壁が目に入って、素敵ですねとお施主さんに話しかけてみると、自らがんがん塗装されているそうで、塗料の調合やタイミングについて、こだわり塗装のいろはを教えてくださいました。塗装だけでなく、ロフト等もお施主さんが作ったとのことです。 外壁がまだら模様になっているところを指さして、将来壁を抜けるところを示しているんだよと教えて下さいました。
住み始めて2ヶ月ほどしか経っていないはずなのに、すでにお施主さんはこの住宅のプロというか、体の一部のように考えているというか、まるで楽しいからお洒落しちゃう、痒いから掻いた、冬物はコレですみたいな、そんなふうに住宅を身体化されている感覚が新鮮でした。
mtkaさんが設計者として建築に関わるときに、「繊細に綿密に計画をし尽くすこと」の判断のものさしが、ものだけではなく、むしろ人の性質や時間にたいして向けられているように感じられました。
使い手に判断の引き出しを発見してもらえるような、愛のある手の放しかたとはどういうことなのかは、時間をかけて試行錯誤をした結果にこそ現れます。
竣工のその瞬間ではなく、そのあと時間をかけて変化していくことを楽しめる建築は幸せだなあと感じつつ、今後いくつの転機や変化がこの建築に巻き起こるのだろうと想像を掻き立てられる、とても有機的な建築でした。
(冨永美保/tomito architecture)
■建築概要
建物名称:ペインターハウス
所在地:神奈川県相模原市
用途:専用住宅
設計:ムトカ建築事務所 担当/村山徹 加藤亜矢子
構造アドバイス:ハシゴタカ建築設計事務所 担当/髙見澤孝志
敷地面積:82.65m2
建築面積:35.28m2
延床面積:70.56m2
設計期間:2014.3-2014.5
工事期間:2014.6-2014.9
写真:新建築社