SHARE 川島範久+佐藤桂火 / ARTENVARCH が空間デザインを担当した、AGC旭硝子のミラノサローネ2015におけるインスタレーション「GLACIER FORMATION」
photo©Ayako Nishibori
photo©Ayako Nishibori
川島範久+佐藤桂火 / ARTENVARCHが空間デザインを担当した、AGC旭硝子のミラノサローネ2015におけるインスタレーション「GLACIER FORMATION」です。
“ガラス(glass)と情報(information)で氷河のような空間(glacier formation)をつくる。”
情報を映し出すガラスでできた、情報の塊のとしての氷河のような空間をつくる。人がその中に入り込むことで情報に包み込まれる体験をつくりだし、情報と空間の新しい関係の構築を試みた。
Glascene©はAGCが新たに開発したガラスで、合わせガラスの中間膜に特殊な加工を施すことで、通常は透明でありながら、光を「投影」するとそれを受け止め染まることができるガラスである。Inforverre©は映像を「表示」するディスプレイをガラスに接着し一体化させる技術であり、隙間がなく密着させることで、映像の視認性を上げると同時に、ガラスでディスプレイを構造的に支持することができる。
※以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
川島範久+佐藤桂火 / ARTENVARCH が空間デザインを担当した、AGC旭硝子のミラノサローネ2015におけるインスタレーション。ミラノ市トルトーナ地区のスーパースタジオで、映像を投影することのできるガラスGlascene©と、映像を表示することができるガラスInforverre©の可能性を最大限引き出す展示空間をデザインした。
“ガラス(glass)と情報(information)で氷河のような空間(glacier formation)をつくる。”
情報を映し出すガラスでできた、情報の塊のとしての氷河のような空間をつくる。人がその中に入り込むことで情報に包み込まれる体験をつくりだし、情報と空間の新しい関係の構築を試みた。
Glascene©はAGCが新たに開発したガラスで、合わせガラスの中間膜に特殊な加工を施すことで、通常は透明でありながら、光を「投影」するとそれを受け止め染まることができるガラスである。Inforverre©は映像を「表示」するディスプレイをガラスに接着し一体化させる技術であり、隙間がなく密着させることで、映像の視認性を上げると同時に、ガラスでディスプレイを構造的に支持することができる。
現在、建築・都市空間の全てをガラスだけで構築することが技術的には可能である。そこに、透過・反射というガラスが元来備える特性に、投影・表示という新しい特性が加わったとき、建築・都市空間と人間が相互に情報を交感し合う新しい都市の未来像を描くことができるのではないかと考えた。
そこで、200㎡の展示空間全体で、50枚のGlascene©と一部Inforverre©を利用した50枚の高透過ガラス、計100枚のガラスを用いて、人が入り込めるようなガラスだけでできた空間をつくった。ガラスの高さは人の背より高い2.1~3.3mとした。 2枚のガラスを60°の角度を持ったV字に配置し、底辺二辺をV字枠で、頂部の接点を金物で拘束し、互いに支持し合うようにすることで1組のガラスコラムとして自立させた。
7つのプロジェクターを展示空間全体に配置し、それぞれのプロジェクターから投影される映像の円錐状の広がりに合わせるように、50組のガラスコラムを配置した。また、ガラスの小口を光らせるために、底辺のV字頂部に調色のできる照明を仕込み、中央部の背の高いコラムを照らすための白色の照明も設置した。これらの映像や光は、ガラスのV字の角度が60度であることで、複数のガラスの間で幾度も反射していく万華鏡のような効果が得られた。いくつかのガラス面には振動スピーカーを設置し、ガラス面全体が音を発し、光と同様に広がっていく。それぞれのGlascene©には、複数のプロジェクターによって重ね合された映像が投影されるようにした。人が投影される映像を遮った際に、人の影の部分に異なる映像がうつり込み、人もまた情報の一部となる。
映像作品は、勅使河原一雅と遠藤豊による。ボイジャー計画の”ゴールデンレコード”から抽出した人の顔、ロケット、惑星などの映像をプログラムによって変換して生成することで、見る者に様々な解釈を許容する。このような情報空間はともすればノイジーになってしまう。情報は押しつけがましくない方法でそっと人を後押しする(Nudgeナッジする)ように伝わっていく方がのぞましい。そもそも情報は身の回りに偏在している。風の音、空気のにおい、手触り、目に見えているものすべてが、それを情報だと思う人にとっては情報であり、能動的に対峙すると情報のもつ意味合いは大きく変わってくる。氷河もある人にとってはただ氷であっても、科学者にとっては数百万年分の大気の歴史を教えてくれる情報の塊なのだ。
太古の昔から存在するアナログなガラスに、投影・表示というデジタルな性質が加わることで、ガラスはモードチェンジする空間をつくることができるマテリアルとなる。そのような新しいガラスは、構造(ハード)を可変とすることなく、パワー(エネルギー)を利用して様相の全く異なる空間をつくることを可能とし、情報と空間の新しい関係性を構築するものとなる。それは、人をスマホの画面から解放し、より「自然」な情報との関係性を取り戻すキッカケとなるかもしれない。
■建築概要
GLACIER FORMATION -Milan Design Week 2015-
所在地:イタリア ミラノ トルトーナ地区 スーパースタジオ
開催期間:2015.04.12-19
施主:AGC 旭硝子
クリエイティブ・チーム:
空間デザイン :川島範久+佐藤桂火 / ARTENVARCH
担当 / 川島範久、佐藤桂火
演出・技術監修: 遠藤豊 / LUFTZUG
担当 / 遠藤豊、岸本智也
映像デザイン:勅使河原一雅/ qubibi
サウンドデザイン: 堤田佑史 / WHITELIGHT
PR:山本真澄 / dairy press
コーディネート:伊藤里絵子 / IXI
運営:ADK arts
施工:Xilografia
規模・寸法:
会場面積:200㎡
ガラス枚数:100枚
GLASCENE:50枚
INFORVERRE:5枚