SHARE 坂牛卓 / O.F.D.A.による、千葉県勝浦市の住宅「茜の家」と論考「リフレームされた空間」
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坂牛卓 / O.F.D.A.が設計した、千葉県勝浦市の住宅「茜の家」と論考「リフレームされた空間」です。
こうした心の覚醒を建築や都市のデザインにおいて生み出したいという考えは独立して建築を作り始めた世紀の変わり目ころから持っていた。そして建築は建築という動かず毎日同じ姿を見せる物理的実体にも増して、建築以外のもの、例えば建築の外部における植物、人、空模様、内部ではペットや住人達に大きな力があるように思い始めた。そして建築はそうした建築以外の物を切り取るフレームのようなものではないかという仮説から「Architecture as Frame」(フレームとしての建築)という本を上梓した。その考えは今でも基本的には変わらない。しかしどうも自分の中には建築にも少しの力を期待している節がある。
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以下、建築家によるテキストです。
リフレームされた空間
―茜色の空間に託すもの
敷地は千葉県外房勝浦の海から緩やかに上る傾斜地の上の方にある。傾斜地とは言っても角度は緩く絶景が広がるという場所ではない。別荘地として開発されたので一つ一つの敷地は広く協定で塀を禁止しているのでゆったりとした広がりのある住宅地という風にも見える。加えて東京からアクアラインを使えば2時間余りで来られるという利便性のせいで老後をこちらで生活するという定住者も多い。クライアントも既にリタイアして趣味の陶芸を千葉で、都会文化を東京で楽しむ、二拠点居住を考えこの建物を計画した。
クライアントの希望は、陶芸をするアトリエを作ること。車で寄り付いて雨に濡れず玄関とアトリエに入れること。外を見るための建物ではなく落ち着いた室内環境を生み出すこと。ベッドルームを3つ作ること。そのくらいだったと思う。こうした希望に対して我々は最初に3つの案を提示してそのうちの一つが選ばれた。それはほぼこの完成案に近いものだった。あまり迷いもなく間取りが決定されたのはまれなことである
この案の特徴は玄関を入ったところに大きなギャラリーがありこの場所を中心に動線が作られていることである。部屋を移動するときは概ねこのギャラリーを通過するように計画されている。このギャラリーは茜色をしている。この色は各部屋の折り上げた天井にも使われておりあたかも夕焼けの光が差し込んでいるかのような感覚を生み出している。ギャラリーは壁も天井も茜色に染まり天井高も高くひときわ印象的な場所となっている。建物に入った時、部屋を移動するときにハッとして心を覚醒させる強さを持っているように思う。
こうした心の覚醒を建築や都市のデザインにおいて生み出したいという考えは独立して建築を作り始めた世紀の変わり目ころから持っていた。そして建築は建築という動かず毎日同じ姿を見せる物理的実体にも増して、建築以外のもの、例えば建築の外部における植物、人、空模様、内部ではペットや住人達に大きな力があるように思い始めた。そして建築はそうした建築以外の物を切り取るフレームのようなものではないかという仮説から「Architecture as Frame」(フレームとしての建築)という本を上梓した。その考えは今でも基本的には変わらない。しかしどうも自分の中には建築にも少しの力を期待している節がある。
直近の3つの住宅を思い返してみるとどの建物にもこの住宅と同様に部屋と部屋を移動するときに経由する場所にかなり強い印象を持った場所を作っているのである。もう少し抽象的に言えば空間の質の不連続性を作ることで建物を多様なものにしようとしてきたのである。
この不連続な空間をどのように形容したらいいのだろうか?建物全体は内外部に開かれ多様な関係性を持ったフレームのようなものではあるのだが、この不連続を形作るインビトゥイーンの空間それ自体はむしろある孤立した強い独立性を持っている。この家の重心として精神的な核となっている。つまり建築全体がフレームであるならばその中で再度強いフレーミングをしているのである。その意味でこれはリフレームされた空間と言えるであろう。
そこで直近3つのリフレームされた空間について簡単に説明しておこう。
高低の家 東京 2009
1つ目は2009年に竣工した「高低の家」である。この建物は3種類の空間で構成される。トップライトから光が舞い降りる細い廊下空間(写真右)。それに繋がる天井が低く暗い空間(写真中央)。さらにそこにつながる天井の高い明るい空間である(写真左)。ここで3つの空間は異なる質を持ち不連続性を持ち中央の空間がリフレームされた空間となっている。
三廊下の家 甲府 2010
2つ目は2010に竣工した「三廊下の家」である。この建物は名前の通り東西に3つの廊下があり3つの室と和室、書斎、居間、食堂、水回りがこの廊下によって接続されている。3つの廊下のうち中央のもの(写真中央)は天井も高く強い印象をもった空間となっている。ここでもこの中央の空間はリフレームされた空間と言えよう。
内の家 東京 2013
3つめは2013年に竣工した内の家である。この建物は四つの個室が白い吹き抜け空間の周りにまとわりつくように配置されており部屋の移動でこの白いボイドを通ることになる。この白いボイドは1階広間の黒い空間ともそれに続くグレーの個室空間とも異なる異質の空間でこの建築をリフレームしているのである。これら3つの建物のリフレームされた空間同様、本建物の中心にある茜色のギャラリーも同質のリフレームされた空間となっている。
茜の家 勝浦 2015
4つのリフレームされた空間に共通することは建物全体コンセプトである「フレームとしての建築」が開かれたものであるのに対して、内省的な場と言えるであろう。
これからしばらくは建築以外と建築自体とのデュアルな力のバランスに建築を載せてみようと考えている。
■建築概要
設計者:坂牛卓 / O.F.D.A.
所在地:千葉県勝浦市
設計監理:坂牛卓、佐河雄介
用途:専用住宅
敷地面積:652.51 m2
建築面積:192.02 m2
延床面積:148.35 m2
竣工:2016.02
構造設計:金箱構造設計事務所
施工:後藤工務店
写真:上田宏