坂牛卓+O.F.D.A.による、東京・新宿区の住宅「坂牛邸」

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坂牛卓+O.F.D.A.による、東京・新宿区の住宅「坂牛邸」

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坂牛卓+O.F.D.A.が設計した、東京・新宿区の住宅「坂牛邸」です。こちらのページではこの作品の動画も見ることができます。

土地に出会ったのは2017年の2月である。それから設計は始まった。しかし設計はいきなりスケッチブックに何かを書くということからは始まらない。というのは設計とは自分が今まで考えてきた、作ってきた自らの設計の蓄積の上に作られていくからである。自分の中に内面化された概念の建築と応答しながら生まれてくるのである。そこで一体自分はそれまで何を考えて建築を作ってきたのかを振り返り簡単に述べてみたい。

※以下の写真はクリックで拡大します

以下、建築家によるテキストです。

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建築は流れと淀み
土地に出会ったのは2017年の2月である。それから設計は始まった。しかし設計はいきなりスケッチブックに何かを書くということからは始まらない。というのは設計とは自分が今まで考えてきた、作ってきた自らの設計の蓄積の上に作られていくからである。自分の中に内面化された概念の建築と応答しながら生まれてくるのである。そこで一体自分はそれまで何を考えて建築を作ってきたのかを振り返り簡単に述べてみたい。
僕はそれまで自分の建築設計を説明する二つの作品集を作ってきた。一つは2010年に出した『Architecture as Frame』(三惠社)という本で、日本語で言えば『フレームとしての建築』である。建築は建築内外の風景を切り取るフレームのようなものであるという考えをまとめたものである。そんなふうに思う最初のきっかけは恩師篠原一男の上原通りの家を見たときに始まる。この建物はY字型の構造が特徴的で室内にもY字の斜めの柱が空間の中に露出する。その建物を見たときにここの住人はこの柱に頭をぶつけないのだろうかと思って恩師に聞くと師は、人は建築に慣れるものでありぶつかることはないと言うのであった。それを聞いて僕は建築はできたときは新鮮だけれど時間の経過の中で空気のような存在になってしまうのだろうかと少し残念に感じた。そしていつまでも新鮮でいられる建築とはないものかと考えるようになった。
そのとき建築それ自体ではなく、建築の内外にある自然、人、動物、家具など動き変化するものが建築を新鮮に保つヒントであり、建築はそうした建築の外部にあるものを感じさせる額縁、あるいはフレームのようなものであればいいのではないかと思うようになったのである。そしてそんな考えで作り続けてきた建築をまとめて本にしたのが上述『Architecture as Frame』である。例えば連窓の家#1,2,3の持つ窓群や、リーテム東京工場の大きなピロティ、富士製氷工場のトンネルのような穴は皆風景や人を切り取るフレームなのである。
さてその6年後2016年に僕は次の作品集と建築の考え方をまとめた本『Architecture as Frame and Reframe』を出版した。『フレーム、リフレームとしての建築』である。タイトルにリフレームという言葉が加わった。フレームとしての建築に操作が一つ加わったのである。つまりフレーミングしたらそのフレーミングのどこかを再度フレーミングしてその部分を強調したいということを考えた。というのもフレームとしての建築を上梓後に設計したものにはほとんどすべてフレームのどこかに強調されたフレームが入り込んでいることに気がついたのである。高低の家の茶色くて天井高の低い空間、三廊下の家の真ん中の廊下の長くて高い空間、茜の家の茜色の空間、内の家の白い吹き抜けなどは皆そういう強い空間なのである。
さてそんなフレームやリフレーム空間をここ数年別の角度から考えるようになった。フレームを風景を切り取るものと捉えるのではなくフレームとは人、物、光、風などが通り抜ける枠であると捉え直すことである。言い換えると建築とは人、物、光、風などの「流れ」によって作られている、建築は殻でありその中を流れる連続的な流動体によって建築は成り立っていると思うようになったのである。そしてリフレームはその時流動体の連続性を切断するあるいは停滞させるような要素となっている。つまりフレームによって分節された空間がAAAと並んでいるのが「フレームとしての建築」であるとするならリーフレムされた空間がそこに入るとABAという不連続な並びになるということである。それはAAAというスムーズな流れに対して、停滞を孕んだ流れと言いかえてもいいだろう。つまり「建築は流れと淀みによってできている」と言えるのである。

アルファ・スペース
さてもう一つそれまで考えていた僕の自邸への思いがあるそれは土地探しのところで記した通り、私たちは畳屋をリノベしてカフェのようなパブリックな空間を持つ家を作りたいと思っていたその理由である。
僕は2012年に塚本由晴さんとアルゼンチンに行ってワークショップをやった。その時ワークショップの課題を僕らの事務所の近所である新宿区荒木町の一画を敷地とした住宅とすることにした。ただしそれはただの住宅ではなく、プライベートな住宅の一部にカフェでもライブラリーでもキッチンでもいいけれど住人以外の人々が入って来られるパブリックな場所を挿入することを条件としたのである。そしてそのパブリックな場所をぷらすアルファの場所という意味で『アルファー・スペース』と呼んだのである。家が地域とつながること、あるいは住宅街に活気が現れること、などからアルファー・スペースは有効だろうと考えたのである。その考えがあったので畳屋の土間をカフェのような空間にしようという考えが自然と現れたのである。

運動と風景
そんな二つのこと「建築は流れと淀み」「アルファー・スペース」を考えている頃にこの住宅の設計は始まったのである。ここで話は2017年の2月に戻る。僕はほとんどあまり何も考えずに購入した50㎡程度の敷地を前にして二人のための家を設計することになった訳である。敷地の法的条件から考えるとここで作れる建物の構成は半地下を含む3層で各階30㎡程度の住宅である。この全体ヴォリュームをまずどう使うか考えた。そして自然と上述した「アルファー・スぺース」をどこに置くかという問いが最初に現れた。アルファー・スペースはパブリックな場所として土足にしたい。とすると3層の真ん中に持ってくるのは使い勝手が悪いので自然と地下に配置することになった。そして日当たりなどを考えると二人がくつろぐ広間は最上階。中間には書斎と書道室という働く場を持ってくるのが自然であった。これで建築の構成は大体決まった。
次に考えたことは3階建になるこの家の動線空間の扱いである。小さな家の階段空間はどうしたって隅に追いやられる。しかし建築は「流れ」でできていると考えている僕としてはこの動線空間の中で流れている住人(つまりは自分や配偶者)こそがこの家を構成している要素なのである。そこを動き回る自分が快適にスムーズに流れることによってこの家は生気を得るのだと考えるようになった。これは自分がこの家のヒロイックな主人公であると言うのではなく、建築を構成する重要な要素であるという意味である。そこで自分がこの家の中をあたかも散歩をしているかのごとく楽しめるものとし、散歩をしながら思索したり昼寝したり休憩できたらなお良い。動き回る「流れ」と停まって休憩したり寝転がったりする「淀み」の場所が並存するような空間の連鎖を作ろうと考えたのである。そして次に散歩しながら楽しむものとして風景を埋め込もうと考えた。それはインテリアと言ってもいいのだがあえて「風景」という言葉を使うことにした。というのも「風景」に含意された距離感を大事にしたかったからである。建物の中で建物の遠くが見える場所を作ることが散歩をよりダイナミックな経験に変えてくれると思ったのである。そこで休憩したり寝転がったりするであろうような場所から、建物のなるべく遠くが見えるような抜けを設えたのである。
地下のソファから斜めの壁に穿たれたフレームを通して書斎が見えさらにその向こう吹き抜け奥の本棚を見上げる抜け、地下と玄関をつなぐ玄関から地下を見下ろす抜け、玄関から書斎に上がる階段に座って玄関框ドアから道路越しに対面する家を見る抜け、中2階まであがったところで廊下の向こうに見える浴室を通して見えるベランダの植栽を見る抜け、2階に上がる直前にガラスの手摺り越しに書架を見下ろす抜け、などである。
そこには近景としてのフレーミングがありその向こうに中景、遠景が用意されることで実際の距離以上の距離感を感じることができるのである。小さな家の中にある距離感の落差が建築の中に表現の強度を生むのだと考えたのである。
「流れと淀み」「アルファスペース」という僕に内面化された概念の建築がアルファ―スペースを起点とした人の「運動」と「運動」の合間に見られる「風景」を楽しむ家というこの神楽坂の土地の上に具体化されるコンセプトとなって発酵したのである。
高齢の夫婦が住む家のコンセプトが「運動」というのは如何なものかと思うかもしれない。それについては神楽坂に住むことを決めた時に決心がついていた。この建物内を移動する程度の運動に耐えられなければ所詮この急坂の多い街に暮らすのは不可能だし、半ば本気で家は健康寿命を維持する道具でもあるのだろうと思っている。

■建築概要
作品タイトル:坂牛邸
設計:坂牛卓+O.F.D.A.
施工:(株)木村工業
住所:東京都新宿区
主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦
設計−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
設計者:坂牛卓+O.F.D.A.
担当:坂牛卓 中川宏文
構造:金箱構造設計事務所 担当/金箱温春 潤井駿司 
施工−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
建築全般:(株)木村工業 担当/田村正喜 原口博幸
杭工事:(株)東部 担当/岩﨑航平
土留工事:(有)落合商事/落合雄二
土工事:(有)将建 担当/茂木仁史
コンクリート工事:三島圧送工業(有) 担当/古谷欣隆
鉄筋工事:(有)相和 担当/中村修
型枠工事:(有)大友工務店 担当/岩本学
木工事:担当/佐藤 訂(棟梁) 
木工事(プレカット):高山木材(株) 担当/圓山芳文
屋根板金・樋工事:(有)トウキョウルーフ 担当/安田慎治
防水工事:(有)小笠原工業 担当/小笠原直人
外装工事:(株)国松 担当/飯田剛
金属製建具・ガラス工事:コーホクトーヨー住器(株) 担当/大槻友彦
木製建具工事:(有)辰巳屋興業 担当/鈴木洋
左官工事:(株)伊藤左官工業 担当/小関裕史
塗装工事:(株)Y・Sコーポレーション 担当/山崎史郎
内装工事:高橋内装 担当/高橋健二郎  
家具工事:(有)松本家具製作所 担当/西谷大介
電気・換気設備工事:(有)中村電機商会 担当/中村誠
給排水衛生設備工事:スマイル(株)担当/曽根田 功
空調設備工事:田中空調(株) 担当/原田武一 
ガス設備工事:サンエー住設(株) 担当/横山竜二
構造・構法−−−−−−−−−−−−−−−−−
主体構造・構法:木造(一部鉄筋コンクリート造)
基礎:ベタ基礎
規模−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
階数:地上2階地下1階 
軒高:7392mm 最高の高さ:7800mm
敷地面積:52.95m2
建築面積:31.62m2(建蔽率59.72% 許容60%)
延床面積:93.38m2(容積率130.56% 地下室緩和 許容160%)
地下階:33.80m2
1階:31.62m2
2階:27.96m2 


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