SHARE 井原正揮+井原佳代 / ihrmkによる、東京都港区の、都市の中の複数の空間それぞれに生活の為の機能を与え、それらを繋ぐ道路を外廊下とみなし、都市で暮らす新しい形を提案した「はなれのはなれ」
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井原正揮+井原佳代 / ihrmkが設計した、東京都港区の、都市の中の複数の空間それぞれに生活の為の機能を与え、それらを繋ぐ道路を外廊下とみなし、都市で暮らす新しい形を提案した「はなれのはなれ」です。
都心ではタワーマンションが林立し、マクロな開発によって都市とそのスケールが肥大化している。その中でミクロなスケールの隙間を見つけ、ねぐらや餌場を森に点在させる野生動物のように、その時々の状況に合わせ生活する場所を変え、都市に溶け込んで棲むという選択肢もあるのではないかと考えた。
このプロジェクトの「敷地」は東京都心部に建つ築35年の鉄筋コンクリート造4階建てのビルの一角にある車庫、そしてそこに近接するワンルームマンションの1室である。
車庫を仕事場と居間を兼ねた「土間」と読み替え、ワンルームマンションを「寝室」として賃借、それらを繋ぐ道路を大きな「外廊下」と捉える。そして、土間と寝室をお互いの「はなれ」と位置づけ、それらの間を夫婦と子供の3人家族が毎日行き来する。どちらにも主従を決めず、街全体をひとつの「家」と捉えた「はなれのはなれ」である。
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以下、建築家によるテキストです。
都市の隙間に棲む
都心ではタワーマンションが林立し、マクロな開発によって都市とそのスケールが肥大化している。その中でミクロなスケールの隙間を見つけ、ねぐらや餌場を森に点在させる野生動物のように、その時々の状況に合わせ生活する場所を変え、都市に溶け込んで棲むという選択肢もあるのではないかと考えた。
このプロジェクトの「敷地」は東京都心部に建つ築35年の鉄筋コンクリート造4階建てのビルの一角にある車庫、そしてそこに近接するワンルームマンションの1室である。
車庫を仕事場と居間を兼ねた「土間」と読み替え、ワンルームマンションを「寝室」として賃借、それらを繋ぐ道路を大きな「外廊下」と捉える。そして、土間と寝室をお互いの「はなれ」と位置づけ、それらの間を夫婦と子供の3人家族が毎日行き来する。どちらにも主従を決めず、街全体をひとつの「家」と捉えた「はなれのはなれ」である。
車庫を「土間」へと読み替えるために、家具のような小さなスケールの設えを挿入した。床や天井、そして壁の上部は仕上げを加えず既存コンクリート現しとした上で、トイレや収納、キッチンカウンターを、38mmのラワン合板(30mm厚の合板下地の両面に4mm厚のラワン合板貼り)で製作した。また、内外をできるだけ近づけるため、出入り口はラワンの3枚建て引込戸とした。そのためには延焼ラインからセットバックする必要があったが、その結果前後に発生した半外部のポーチと併せて、都市と住居が緩やかに繋がることを期待した。
このビルが建った当時、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のモデルのひとつとされるこの町では、多くの個人商店が軒を連ねていたそうだ。奥の居住空間の玄関を兼ねた手前の店舗は土間と木製の簡易な引戸によって構成され、それらが街と住宅を緩やかに繋ぐことで、店舗は商店と商店の間を行き交う人びとを繋ぐサロンとして賑わっていた。
現在、マクロなまちづくりの余波を受けて本来の性格を失ってしまったこの町で、残された隙間を見つけ、点在する住まいが都市と繋がるささやかな居場所になることで、地に足をつけたミクロなまちづくりのきっかけとなればと願っている。
(井原正揮+井原佳代 / ihrmk)
■建築概要
所在地:東京都港区
竣工:2015.10
用途:住宅+事務所
構造:木造(既存部鉄筋コンクリート造)
規模:地上4階
最高高さ:17,250mm
敷地面積:112.30㎡
建築面積:112.30㎡
延床面積:413.47㎡
施工:todo
写真: 望月小夜加