インレ・スタジオ / 西島光輔による、ベトナム・ホーチミン市のデザートレストラン「プロセニウム」
サムネイル:インレ・スタジオ / 西島光輔による、ベトナム・ホーチミン市のデザートレストラン「プロセニウム」

インレ・スタジオ / 西島光輔による、ベトナム・ホーチミン市のデザートレストラン「プロセニウム」

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all photos©大木宏之

インレ・スタジオ / 西島光輔が設計した、ベトナム・ホーチミン市のデザートレストラン「プロセニウム」です。

プロセニウムは、ベトナム・ホーチミン市の中心に位置する小さなデザートレストランの計画名である。1990年代に完成した再開発街区というものがあり、その一画に佇む住居の一階が、本計画の舞台である。街区には元々、ギリシャ風の柱やモールディングを施された、同じような住居がひしめき合っていたという。一昔前の開発者が抱いた、お手軽な建築的憧憬の象徴とでもいうべきこのような装飾は、今日では早くもガラクタ扱い、もしくは単に忘れ去られたりしている。昨今の都市中心部における過剰開発の波は、過去の幻想をさっぱり一掃しようとさえもする。そうこうしている内に、次世代のデザイン言語が、どこかで発見される。生み出された側から上書きされる流行の波、これがベトナム諸都市を巻き込む狂騒的な経済成長の一側面であるにしても、あまりに虚しい。私たちのプロジェクトは、目眩く流行のサイクルを内省するところから始まった。行き着く先は、新たなデザインとの共存により再生を図られた過去のデザイン、ということになろうか。

※以下の写真はクリックで拡大します

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以下、建築家によるテキストです。


プロセニウムは、ベトナム・ホーチミン市の中心に位置する小さなデザートレストランの計画名である。1990年代に完成した再開発街区というものがあり、その一画に佇む住居の一階が、本計画の舞台である。街区には元々、ギリシャ風の柱やモールディングを施された、同じような住居がひしめき合っていたという。一昔前の開発者が抱いた、お手軽な建築的憧憬の象徴とでもいうべきこのような装飾は、今日では早くもガラクタ扱い、もしくは単に忘れ去られたりしている。昨今の都市中心部における過剰開発の波は、過去の幻想をさっぱり一掃しようとさえもする。そうこうしている内に、次世代のデザイン言語が、どこかで発見される。生み出された側から上書きされる流行の波、これがベトナム諸都市を巻き込む狂騒的な経済成長の一側面であるにしても、あまりに虚しい。私たちのプロジェクトは、目眩く流行のサイクルを内省するところから始まった。行き着く先は、新たなデザインとの共存により再生を図られた過去のデザイン、ということになろうか。

一般的なベトナムの住居と同様、既存の建物は、過剰な安全意識と、空間を支配する階段によって特徴づけられる。限られた予算内で、私たちはこの二つをどうにかすることに集中した。

(1) インターフェース
レストランを計画するにあたっては、顧客との関係をどう取り持つのかということが、インターフェースデザインの肝となる。まずは既存の鉄柵を取り払い、前庭を公共の場として開放するところから始めた。ベトナムの近隣にとって、このような場の存在はまれであり、ゆえに貴重である。元からあった中華風ともフランス風ともとれる木製のドアは解体し、代わりにいくつもの枠からなる新しいガラス窓を設置した。窓枠によって分割される風景は、この空間が内外に多様な関係を結びうることを、暗に示している。カウンターが窓の中から外へ飛び出しているが、通行人の意識がその逆を辿ってくれれば有難い。カウンターが通行人のたまり場になったとしたら、なお有難い。

(2) 空間
ベトナムの都市型住居といえば、細長い平面の長屋であり、中央の階段によって前後に仕切られているのが普通である。これはいわゆる生活の知恵の結晶であり、自然光と通風を建物の隅々に送り届けるデザインといえる。ただし、この中央階段は、住宅にこそ適しているが、レストランとしては使いづらいともいえる。建物が狭小の場合はことさらである。そこで私たちは、この階段を単なるデカ物から、空間設計の中心的存在にまで昇華させようと試みた。レストランに必要な諸機能は、新しい階段を室内全体にくねくねと延長させることによって配置する。この新たな塊が、一過性のデザインとして消費されることを嫌ったので、不必要な装飾的要素は極力排除してある。その結果、室内のデザインは、この無味乾燥な連続体と、元々の装飾物との間の対比によって支配されることとなった。

既存躯体への構造的負荷を最小化するため、新しい階段とその連続体は鉄で製作された。階段部分の形は、室内動線の効率を最大化するように決定されている。これが後方に伸びると、まずカウンターになり、オープンキッチンとなり、続いて厨房の壁となり、最終的に倉庫の壁となる。前方に対しては、階段脇に多機能のケーキステーションなるものを形成した後、テーブル兼カウンターが前面窓を貫通して外部まで伸びている。

建設が始まる前の状態から判断して、室内の床仕上げは変更なしとした。前庭の床は新しく製作したコンクリートブロックで舗装したが、その配置は、窓のデザインとなんらかの共通性をもたせてある。これらを除いて、建物全体のカラースキームには、二つの意図が反映されている。一つ目は、デザートを引き立たせる、背景としての色選びである。紺色の壁面は、色彩豊かなケーキと好対照をなすだろう。もう一つは、既存の装飾の陰影を弱めること。暗い色は、いわば過去の中和剤として、一過性の夢を現代に留める。新しく挿入された鉄の塊との調和を求めて。

■建築概要
作品名:プロセニウム
設計者:インレ・スタジオ / 西島光輔
(ホームページ:www.inrestudio.com
場所:ベトナム・ホーチミン市・1区
主任設計者:西島光輔
共同設計者:大西邦子
グラフィックデザイン:柏倉瑛子
(ホームページ:eikokashiwakura.com
一般工事:アンビンヤー
鉄工事:TKインダストリーベトナム
用途:デザートレストラン
面積:78m2
竣工:2016年11月
写真:大木宏之

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