SHARE 高田博章 / 高田博章建築設計による、東京の住戸「六本木のリノベーション / 空間の補助線」
高田博章 / 高田博章建築設計が設計した、東京の住戸「六本木のリノベーション / 空間の補助線」です。
六本木にある築20年以上経過した複合ビルの1住戸を改修した。当該物件は繁華街の中心地に位置し、店舗や事務所などのテナントが入るビルの最上階にあり、間取りが1LDK、床面積19坪の住戸である。こうした建物の1室をリノベーションする場合、対象は主体構造から切り離されている部分が主となり、さらに効率的かつ画一的に設けられた開口部と外部に広がる繁華街との関係性も希薄なために、都市と切り離された操作可能な内部空間の充実化が1つの基調となる。いわば都市の反風景である。今回のプロジェクトでは、境界にゆとりをもたせて、冗長性のある室内計画を行った。
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以下、建築家によるテキストです。
六本木のリノベーション/空間の補助線
六本木にある築20年以上経過した複合ビルの1住戸を改修した。当該物件は繁華街の中心地に位置し、店舗や事務所などのテナントが入るビルの最上階にあり、間取りが1LDK、床面積19坪の住戸である。こうした建物の1室をリノベーションする場合、対象は主体構造から切り離されている部分が主となり、さらに効率的かつ画一的に設けられた開口部と外部に広がる繁華街との関係性も希薄なために、都市と切り離された操作可能な内部空間の充実化が1つの基調となる。いわば都市の反風景である。今回のプロジェクトでは、境界にゆとりをもたせて、冗長性のある室内計画を行った。
居室間を隔てる壁の代わりとして、本棚、飾り棚、収納、作業机の機能を併せ持った家具を配置した。コンパクトに整理し、集約された家具は、高密度な境界を形成する。その重厚感のある家具を宙に持ち上げることで、軽やかな境界へと転換させる。こうしてできた間仕切りとしては不完全な家具の下には引戸を設け、上部にはガラスの欄間を設えることで、柔らかな境界を形成している。家具に1トンの荷重がかかっても、スムーズに引戸が開閉できるよう設計している。
間仕切り家具の下部にある引戸を開閉することで、境界としての強度(たるみ)を調節することができる。引戸を開放することで、通風を確保するという環境的性能の向上はもちろんのこと、屈めば人の往来も可能にする。小さな子供や猫の視点、または平座位など視点を低くすると、2つの居室と廊下や玄関までが1つの大きな部屋へと伸張する。引戸は型板ガラスの框戸になっており、視線をほのかに遮りつつも、光を充分に透過させるため、閉扉して部屋を区切った状態でも閉塞感のない居室となる。
欄間部分は採光や視覚的拡がりを得るばかりではない。間仕切り家具の上部は、猫が歩けるように計画しており、猫の行き来を妨げぬように欄間のガラスを一部外している。その名の通りキャットウォークとなっている。人も猫も、どこにいても住戸内の様子を感じるとることができる。
気配によりプライバシーを確保するという暮らしの中にある振る舞いと、柔らかな境界により、住宅内で繰り広げられる活動は、個々に切り取られたり、つなぎ合わされる。ここでの暮らしは、間取りに囚われない。
空間とは、間取りや断片的な視点などによる情報の集積ではなく、体験するシームレスな活動や、経験した視点を結び合わせた全体性の表れだと考えると、壁であり家具であり建具でもあるこの境界面は、ぼんやりとした曖昧なものなのかもしれない。
■建築概要
用途:住戸
所在地:東京都港区
延床面積:71.33m2
工事種別:改修
設計期間:2014年6月~2014年8月
工事期間:2014年10月~2014年12月
設計:高田博章建築設計
施工:タナカワークス
写真:山口伊生人