SHARE 谷口景一朗+望月蓉平+加瀬美和子による、東京・世田谷区の住宅「下馬の住宅」
谷口景一朗(スタジオノラ)+望月蓉平+加瀬美和子が設計した、東京・世田谷区の住宅「下馬の住宅」です。
密集地において隣家との距離感は相対的なものだ。光を入れ、風を通し、開放的にするため、内外の境界面としての窓が必要となるが、壁に大きく穿つ窓は住まい手にとっても隣家にとっても互いの存在をはっきりと自覚させてしまう。実態として昼夜問わずカーテンが閉められ、その結果環境的に開かれず、周囲にも閉じているというメッセージを放つことになる。窓をオブジェクトとして強い輪郭を持つものでなく、背面にある通奏低音として扱えないかと考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
世田谷区下馬に建つ住宅。住まい手は夫婦と小さな子供3人。住宅が密集する低層住居専用地域の一角にある旗竿敷地において、環境的・体験的に最適に開かれている住空間を獲得することを試みた。
「通奏低音としての窓」
密集地において隣家との距離感は相対的なものだ。光を入れ、風を通し、開放的にするため、内外の境界面としての窓が必要となるが、壁に大きく穿つ窓は住まい手にとっても隣家にとっても互いの存在をはっきりと自覚させてしまう。実態として昼夜問わずカーテンが閉められ、その結果環境的に開かれず、周囲にも閉じているというメッセージを放つことになる。窓をオブジェクトとして強い輪郭を持つものでなく、背面にある通奏低音として扱えないかと考えた。
高さを500mmに絞り、隣家の窓レベルとずらすことで周囲との視線を見切り、水平剛性をブレースで確保することで東西南北ひとつながりの窓を2層に巡らせた。四周に回した窓から入る柔らかい光の回り込みにより室内は常に明るい。隣家の窓レベルとのずれに加え、外周のブレースは境界面に厚みを与え、外からの覗き込みは気にならない。床と立体的な関係を持った窓は、場所に応じて高窓や地窓になり、内部に広がりを与える。生活の目線高さに窓がなくとも、光や風、気配があちこちの方向から回り込む住空間となった。
「インターフェイスとしての窓」
建物の構成は、窓をきっかけとしてボリュームをずらして積み重ねた形とし、軒下空間やバルコニー空間を形成すると共に敷地の持つ制約に応えた。内部空間は外部との関係性が多様となるように窓の上下に床を張ったスキップ状の立体構成とした。ここで、4周に廻る窓が単なる内外の境界面ではなく、H≒500mmの厚みをもつ空間のインターフェイスとして機能することに気が付いた。各層をつなぐ階段を上り下りすることで感じる感覚は、内部と外部を横断する体験に近く、内部空間に外部のような空間がなだれ込んできているように感じる。結果として、層と層は外部空間のようなバッファゾーンを介してつながることとなった。
「この場所における自由な住環境」
空間と空間の界面に常に窓がいることで、光や風、視線、気配があちこちの方向から緩やかに回り込む住空間となった。それは内部空間と外部空間が一体となったようなビビッドな空間ではないが、淡い彩度をもちながら確かに緩やかに混ざり合っている。都内の密集住宅地にありながら、周囲からの視線を気にせずやわらかく自然を享受できるこの住宅は、この敷地における開き方の一つの解だと考える。窓というインターフェイスを介してつながるこの住宅は、家族の成長に合わせて互いの距離感を適度に変化させながらつながりをつくる、豊かで柔軟な生活の場となるだろう。
■建築概要
建物名称:下馬の住宅
所在地:東京都世田谷区
主要用途:専用住宅
設計・監理
建築:谷口景一朗(スタジオノラ)+望月蓉平+加瀬美和子
構造:福島佳浩
施工
建築:広橋工務店
設備:エスケーホーム企画
電気:正光社
規模
敷地面積:90.80m2
建築面積:51.60m2(建蔽率56.83% 許容60%)
延床面積:106.32m2(容積率103.91% 許容150%)
階数:地上2階
軒高さ:4,849mm
最高高さ:6,768mm
主体構造・構法:木造一部鉄筋コンクリート造
基礎:べた基礎
工程
設計期間:2017.8〜2018.4
工事期間:2018.5〜2019.4