SHARE 元木大輔 / DDAAが会場設計を手掛けた『京都国立近代美術館「ドレス・コード?−着る人たちのゲーム」展』
元木大輔 / DDAAが会場設計を手掛けた『京都国立近代美術館「ドレス・コード?−着る人たちのゲーム」展』です。
展覧会の会場をデザインする時に常に考えていることは、作品やキュレーションの意味を、空間的もしくは体験的に強化して説明する、ということだ。情報だけであればカタログを読めばわかるし、インターネットの方が効率が良いので、きちんとシークエンスや空間体験として意図や情報が強化される状態を目指している。今回、僕たちが試みた最初の操作は、作品を群れとして見せることだ。単体では「デニムを使ったドレス」でも、まとまりとしてみると「デニムの意味の変化」「形式的なスーツ同士の差異」「微差やディテイールを愛でるファッションの楽しみかた」となる。そのため、一つ一つの作品を展示台にのせるのではなく、大きな島状の什器を作ってまとまりごとに見せることにした。また、京都を皮切りに、熊本、東京と巡回する展示なので、什器はレイアウト変更に対応できる仕様にしたい。そしてできれば展覧会の什器として作られたものではなく、もともとは何か他の用途として製作されたものが良いと思った。デニムやトレンチコートのようなファッションの歴史と韻を踏むように、元々の意味を失い転用されている状態が好ましいと考えたからだ。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
炭坑のワークウェアとして生まれたデニムは、1950年代にジェームス・ディーンによって反抗の象徴になり、大衆に受け入れられ、世界中でユニバーサルな日常着として定着した。防水型のミリタリーウェアだったトレンチコートは、フィルムノアールのムービースターによって記号化され、その形だけが形骸化し定番のファッションアイコンとして消費される。モダニズムに代表される西洋の価値観が世界的に広まった結果、スーツは均質化の象徴となり、組織の属性を表すことになる。そしてその強烈な形式により、ちょっとしたディティールの違いを楽しむという副次的な意味が発生していく。
機能や要望からスタートした原型「アーキタイプ」は、どこかのタイミングでポピュラリティーを獲得すると、表面上や形骸化した形式だけが独り歩きして少しづつ元々の意味からずれて「ステレオタイプ」化していく。そして固定化された退屈な形式から脱却するためのカウンターとして「プロトタイプ」が生まれ、ファッションは新しい意味を獲得して意味が重層化していく。ドレス・コード?展はそんなファッションのさまざまな「タイプ=ドレス・コード」の歴史をアートを踏まえながら編集した批評的な展覧会だ。そしてこれはファッションだけでなく、あらゆる側面で起こっている極めて現代的な事柄だ。
展覧会の会場をデザインする時に常に考えていることは、作品やキュレーションの意味を、空間的もしくは体験的に強化して説明する、ということだ。情報だけであればカタログを読めばわかるし、インターネットの方が効率が良いので、きちんとシークエンスや空間体験として意図や情報が強化される状態を目指している。今回、僕たちが試みた最初の操作は、作品を群れとして見せることだ。単体では「デニムを使ったドレス」でも、まとまりとしてみると「デニムの意味の変化」「形式的なスーツ同士の差異」「微差やディテイールを愛でるファッションの楽しみかた」となる。そのため、一つ一つの作品を展示台にのせるのではなく、大きな島状の什器を作ってまとまりごとに見せることにした。また、京都を皮切りに、熊本、東京と巡回する展示なので、什器はレイアウト変更に対応できる仕様にしたい。そしてできれば展覧会の什器として作られたものではなく、もともとは何か他の用途として製作されたものが良いと思った。デニムやトレンチコートのようなファッションの歴史と韻を踏むように、元々の意味を失い転用されている状態が好ましいと考えたからだ。
僕たちが選んだのは、OAフロアというオフィスの床上げに使われる典型的な建材だ。500mm角のモジュールで自由に組合せることができて、もともと床下に配線をとおすための建材なので、高さを自由に変えることができ、分解可能であり、さらにマネキンを固定するためのビスも効く。通常はタイルカーペットなどが仕上げとして貼られる下地材をむきだしのまま使用している。現代はすでに意味とものが飽和している。なので、すでにある「もの」や「考え方」をすこし読み替えることで、目の前のありふれたものを否定することなく、新しい風景を作り出すことはできないだろうか。ものをよく観察し、形式や関係をデザインしなおす。ファッションだけでなく、物、建築、都市、社会への眼差しをデザインすることは、現代の多様的な価値観と文化を楽しむための方法論でもある。
■建築概要
京都国立近代美術館「ドレス・コード?−着る人たちのゲーム」展 /
The National Museum of Modern Art, Kyoto / Dress Code: Are You Playing Fashion?
施主:京都国立近代美術館 , 京都服飾文化研究財団
場所:京都府左京区
用途:展覧会会場設計
設計:DDAA
プロジェクトチーム:元木 大輔 / 村井 陸
施工:伏見工芸
延床面積:1276.64m²
竣工:2019年8月
写真:長谷川 健太