SHARE 島田真弓+寺田和彦 / MIGRANTが設計し施工の多くを施主や有志と行った、長野・白馬村の「MOUNTAIN HUT」
島田真弓+寺田和彦 / MIGRANTが設計し施工の多くを施主や有志と行った、長野・白馬村の「MOUNTAIN HUT」です。
島田と寺田は、手塚建築研究所出身の建築家。
白馬村の入り口、堀之内にある小さな山小屋のような建物です。この土地には2014年まで、スキーヤーやスノーボーダー、登山家たちの集まる伝説のシェアハウスがありました。白馬でそれらをやりこんでいた人が集って暮らすようになり、一時期は20人以上がその建物で寝泊まりしていたこともあったそうです。その建物が長野県神城断層地震で全壊してしまい、更地のまま数年が経ちました。この場所にもう一度人の集まる場所をつくりたい。そんな相談からプロジェクトが始まりました。
少ない予算で建物をつくりあげるために、基礎、設備、プレカットだけを業者にお願いし、建て方以降は週1度、賛同してくれる友人を集めて自分たちの力でつくりあげました。最初は同世代の大工さんに一人来てもらって教えてもらいながら進めていきました。MIGRANTが発注と人集めをして、毎週の現場にはシェアハウスの元住民や、白馬のスキーヤーたち、安曇野松本の同世代の友人たちがたくさん集まってくれて、施工に携わった人は延べ232人。建て方以降4ヶ月、施工日は25日という短時間でできあがりました。
まず構造は、素人が建て方することを念頭に置いて、建物自体の高さを最小限に抑え、柱をとても短くしました。梁をかける作業を足場がなくてもできるように、登り梁をA型に地組みして桁梁に載せるだけという簡単な構造にしました。屋根はコストと施工性からルーフィングとポリカでまず雨仕舞をし、山小屋っぽさのあるチャーミングな外観になるようにポリカの上に木を貼ることにしました。
ちょうど、シェアハウスの元住民が近くで木こりをやっていて、曲がりがあって使われなくなった丸太を譲ってくれるとのこと。屋根に木を貼りたいと相談したら、昔その地域で屋根材として使われていた「へぎ板」の作り方を教えてくれました。丸太から木を薄く割ってつくるへぎ板づくりの作業は楽しいけれどかなり大変。現場のたびに代わる代わるみんなで木を割って、数週間かけてなんとか枚数を揃えました。
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以下、建築家によるテキストです。
白馬村の入り口、堀之内にある小さな山小屋のような建物です。この土地には2014年まで、スキーヤーやスノーボーダー、登山家たちの集まる伝説のシェアハウスがありました。白馬でそれらをやりこんでいた人が集って暮らすようになり、一時期は20人以上がその建物で寝泊まりしていたこともあったそうです。その建物が長野県神城断層地震で全壊してしまい、更地のまま数年が経ちました。この場所にもう一度人の集まる場所をつくりたい。そんな相談からプロジェクトが始まりました。
建物をつくりたいとは言っても、住む場所として建てるわけでも、事業用として建てるわけでもないので、かけられる予算はほんの少し。それでもこの場所になんとか人の集まる場所を再建したいという思いに賛同し、設計を始めました。
提案したのはたった7.5坪の小さな建物でした。気軽に入れる入り口の土間、飲食店ができる最低限の厨房とトイレ、食事や寝泊まりができる板の間というとてもシンプルな構成です。小さな建物には、人をワクワクさせる不思議な魅力があると思っています。狭さによる不便は使い方次第でなんとかなるし、工夫を必要とすることは面白さでもある。広くてなんでも揃っている建物にはない、小さいからこその魅力が詰まった建物にしようと考えました。
少ない予算で建物をつくりあげるために、基礎、設備、プレカットだけを業者にお願いし、建て方以降は週1度、賛同してくれる友人を集めて自分たちの力でつくりあげました。最初は同世代の大工さんに一人来てもらって教えてもらいながら進めていきました。MIGRANTが発注と人集めをして、毎週の現場にはシェアハウスの元住民や、白馬のスキーヤーたち、安曇野松本の同世代の友人たちがたくさん集まってくれて、施工に携わった人は延べ232人。建て方以降4ヶ月、施工日は25日という短時間でできあがりました。
設計者が自分の手でつくるからには、通常のセルフビルドとは一線を画したクオリティでつくりあげたいという強い思いがありました。セルフビルドの良さ=素人仕事の味 とはならずに、もう少し頭を使ってみんなでやるからこその豊かな空間をつくりあげたい。つくっていてワクワクするような、できあがってからもみんなの愛着が沸くようなかっこよさと可愛さのある建物。手間がかかっても後に残る魅力を大事にしたいという思いでつくっていきました。
まず構造は、素人が建て方することを念頭に置いて、建物自体の高さを最小限に抑え、柱をとても短くしました。梁をかける作業を足場がなくてもできるように、登り梁をA型に地組みして桁梁に載せるだけという簡単な構造にしました。屋根はコストと施工性からルーフィングとポリカでまず雨仕舞をし、山小屋っぽさのあるチャーミングな外観になるようにポリカの上に木を貼ることにしました。
ちょうど、シェアハウスの元住民が近くで木こりをやっていて、曲がりがあって使われなくなった丸太を譲ってくれるとのこと。屋根に木を貼りたいと相談したら、昔その地域で屋根材として使われていた「へぎ板」の作り方を教えてくれました。丸太から木を薄く割ってつくるへぎ板づくりの作業は楽しいけれどかなり大変。現場のたびに代わる代わるみんなで木を割って、数週間かけてなんとか枚数を揃えました。普通の現場だったら手間がかかりすぎて職人にはやってもらえないようなことを、友人たちの力があるからこそ成し遂げられたのです。苦労してつくったへぎ板の屋根は、外観の最大のチャームポイントになっています。
内外装はホームセンターで買える、破風材や野縁などの下地材を中心に使いました。低価格ながらちゃんとした無垢材であり、節や多少の曲がりは良い味になります。板の間の床には一部、伐採したばかりの丸太を製材したブロックをそのまま並べて使っています。年輪をそのまま見せた本物すぎる木の表情はすごく魅力的です。そのうち割れてきて、すいてきて、暴れてくると思いますが、それも味。問題があればまた工夫して使っていけばよいのです。
内装ではしっくいでタイルをつくりました。素人仕事で塗ったしっくいの味のある仕上げよりは洗練されたイメージにしたかったし、普通の陶器のタイルよりは味のあるキュートなイメージにしたかったのです。タイルであればみんなで手分けをして短時間でつくれるという利点もありました。2日間集中的に人を集めて、左官職人の友人に指導をしてもらいながら子供も大人も真剣に鏝を握ってしっくいタイルをつくりました。平滑だけれど形が少し不揃いなしっくいタイルの絶妙なテクスチャが、内部空間の最大のチャームポイントになっています。
クリスマスに完成してから2ヵ月。人の手を借りてつくることで、建物をつくる過程そのものがコミュニティ形成のきっかけとなり、目指していた「人の集まる場所」の雰囲気は施工中からすでにできあがっていたと思います。思惑どおり、手伝いに来てくれた友人たちを中心として、たくさんの人がこの小さな建物を訪れてくれるようになりました。さらにこれからは、自分たちで厨房に立ちカフェをやったり、ワークショップなどイベントを企画したり、設計者という枠組みを超えて、積極的にこの場所に楽しいことを起こしていきたいと思います。
(島田真弓)
■建築概要
「MOUNTAIN HUT」
所在地:長野県北安曇郡白馬村神城15150-2
延床面積:24.84㎡
用途:住宅+飲食店
施主:忠田 圭史
設計・監理:MIGRANT
施工:施主+MIGRANT+有志によるハーフビルド
竣工:2019年12月
PHOTO:INUTOMO HONDA