小室舞 / KOMPASのウェブサイトに、東京の住宅の改修「SETAGAYA HOUSE RENOVATION」の写真が11枚掲載されています。小室はヘルツォーク&ド・ムーロン出身の建築家です。
1階で歯科医院を営む施主家族が暮らす、元々二世帯住宅だった築18年鉄骨造3階建ての店舗併用住宅の住居部分の改修計画です。3人家族の暮らしと不相応な二世帯住宅の間取りの改善、夏暑く冬寒く昼間から暗いという環境の改善、量販住宅的な空間の質の改善、という3つが改修の主目的でした。
リノベーションで木造やRCの既存躯体を露出して活かす手法は一般的ですが、耐火被覆で露出できない鉄骨造かつ内断熱を追加する必要により全面に内装を施さなければいけない状況の中で、どうやって単なる張りぼてでなく各内装に必然性を持たせられるのか、また、ワンルームという間取り内にどれだけ多様性や奥行きを共存させるかが内装における課題となりました。
まず、2・3階それぞれが家族用に計画された既存に対し、2階をパブリックな場としてのリビングダイニング、3階を寝室などのプライベートな場として使い分けることとし、予算の都合上プライベート側はなるべく既存を利用することとしました。主要空間の2階は間仕切りや吊天井をなくし、既存の梁を隠しつつ設備や照明を内包する梁型や垂れ壁で緩やかに仕切りながらもなるべくおおらかで気積の大きなワンルームを確保しました。
80㎡ほどの各階ごとに小さなバルコニー3つと各部屋にばらまかれた窓で外周に開口部は豊富でしたが、煩い前面道路と近接した隣地建物によってほとんど使われず閉じられており、間仕切りの多さも相まって昼間から暗い状態でした。そこで3階中央で物置と化していたキッチンを撤去して2・3階をつなぐ吹き抜けにしてその上部にトップライトを配すことで、最も暗かった中央部に自然光を取り入れ、住居全体への煙突効果での自然換気も可能にしました。
そして既存開口部は外周部の環境に応じて取捨選択を行いました。唯一角で開けたバルコニーは不要な浴室跡を使って拡張してリビングと大きくつなぎ、他の使われていない開口部は換気等に必要な箇所以外は熱の逃げを防ぐように断熱材で閉じたり、造作家具と組み合わせることで見た目の統一を図りながら外部との距離をコントロールできるようにしました。
外壁沿いにキッチン・デスク・ベンチ・棚などの機能を散りばめ、断熱材の炭化コルクなどの特性を持つ内装材を場所に応じて用いることで、中央は空っぽながら各面ごとが個性を持ち、ワンルームながら場所ごとに変化をもたらしています。落ち着いた色調の下層部から明るい色調の上層部を経て真っ白な吹き抜け空間へと断面方向にも素材感の変化を与え、平面方向と断面方向での多様性の掛け合わせに自然光が加わることで、奥行きと変化のある豊かなワンルームにできるのではないかと考えました。
大きなアイランドキッチンを囲みながら自然の移ろいを感じ、人々の暮らしと共に時間を重ねて深みを増す空間になることを祈っています。