SHARE 河部圭佑建築設計事務所による「くしゃくしゃ構造の『洞窟』」
河部圭佑建築設計事務所が設計した「くしゃくしゃ構造の『洞窟』」です。
鉄筋コンクリート造の中層ビル内に制作した空間作品である。プログラムとしては、ヴァイオリン独奏と映像投影によるパフォーマンスが行われたが、詳しくは後述する。
場所は名古屋市中区錦2丁目で、戦後は繊維問屋街として栄えた。町の成立ちは、江戸時代に徳川家康が名古屋城を築城した際の城下町を原形としており、大戦下に一度焼け野原になったが、戦災復興都市計画では道路幅員を拡張しながらもかつての町割りが再生された。
今回、空間作品を挿入した中層ビルも、間口が狭く奥行きの深い、いわゆる「うなぎの寝床」状の町割りが建物の平面形となっている。木造から鉄筋コンクリート造へ建材や工法の近代化を経て建設された6階建のビルは、エレベーターと階段という垂直動線を道路側に設けているため、1階部分の間口は更に狭くなり、奥に行けば少し大きな空間が広がるという空間形式を持つ。一方、1階の天井高は4mと高い。このビルと同じような成立ち・形式の建物は、かつての城下町エリア内に多く散見され、地域のタイポロジーとなっているが、近年にあっては、その歴史的・文化的価値や空間的特徴を背景に、愛知県主催の芸術祭の主要舞台にもなっている。
制作した空間作品は、1階の奥に広まった場所に配置しているため、道路からは狭い間口を通して、作品の一部分が切り取られるようにして見える。建物の奥へ入って行くにつれて作品の全貌が現れてくる。すなわち、この空間作品は、上述した町の歴史や空間形式との関係性の上に成り立っていると言える。
ここでは、シート状のものを一度くしゃくしゃにしてから広げ、ランダムな皺によってある程度形状を固めるという実験的な構造・工法を試みている。展示空間の床面積と同じ巨大なサイズの厚手の紙を、10人くらいの人手で一気に圧縮する。動線や視線の抜け、音響的な効果、スクリーンとしての機能性を考えながら、形状を調整し広げる。一部は床に着地し、一部は天井から吊り下がることで内部空間を保持する構造物である。空間そのものがギュッと凝縮したような、情熱的なエネルギーが集まったような空間を目指した。
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以下、建築家によるテキストです。
鉄筋コンクリート造の中層ビル内に制作した空間作品である。プログラムとしては、ヴァイオリン独奏と映像投影によるパフォーマンスが行われたが、詳しくは後述する。
場所は名古屋市中区錦2丁目で、戦後は繊維問屋街として栄えた。町の成立ちは、江戸時代に徳川家康が名古屋城を築城した際の城下町を原形としており、大戦下に一度焼け野原になったが、戦災復興都市計画では道路幅員を拡張しながらもかつての町割りが再生された。
今回、空間作品を挿入した中層ビルも、間口が狭く奥行きの深い、いわゆる「うなぎの寝床」状の町割りが建物の平面形となっている。木造から鉄筋コンクリート造へ建材や工法の近代化を経て建設された6階建のビルは、エレベーターと階段という垂直動線を道路側に設けているため、1階部分の間口は更に狭くなり、奥に行けば少し大きな空間が広がるという空間形式を持つ。一方、1階の天井高は4mと高い。このビルと同じような成立ち・形式の建物は、かつての城下町エリア内に多く散見され、地域のタイポロジーとなっているが、近年にあっては、その歴史的・文化的価値や空間的特徴を背景に、愛知県主催の芸術祭の主要舞台にもなっている。
制作した空間作品は、1階の奥に広まった場所に配置しているため、道路からは狭い間口を通して、作品の一部分が切り取られるようにして見える。建物の奥へ入って行くにつれて作品の全貌が現れてくる。すなわち、この空間作品は、上述した町の歴史や空間形式との関係性の上に成り立っていると言える。
本プロジェクトの依頼は少々特殊であった。依頼者は、名古屋市における新たな文化芸術活動の推進を標榜して組織された名古屋市文化施策推進体制準備委員会である。委員会は、「分野を超えた協働」をテーマとするレジデンシープログラムのパイロット事業を企画し、私を含め4名のメンバーを招集した。インストーラーの青木一将、ヴァイオリニストの城戸かれん、アーティストの西山弘洋、建築家の私である。予算、日程、場所が条件として与えられ、あとはメンバーどうしでコミュニケーションを図りながら自由に構想してほしいという依頼内容だった。
分野の異なるメンバーシップの協働であることを考えると当然なのかもしれないが、出来あがったものは、既存のジャンルやメディアには分類できない「何か」であった。建築であり、舞台芸術であり、反響板であり、衣装であり、絵画であり、インスタレーションである、1つのもの。多義的な装置と言えば適当だろうか。
ここでは、シート状のものを一度くしゃくしゃにしてから広げ、ランダムな皺によってある程度形状を固めるという実験的な構造・工法を試みている。展示空間の床面積と同じ巨大なサイズの厚手の紙を、10人くらいの人手で一気に圧縮する。動線や視線の抜け、音響的な効果、スクリーンとしての機能性を考えながら、形状を調整し広げる。一部は床に着地し、一部は天井から吊り下がることで内部空間を保持する構造物である。空間そのものがギュッと凝縮したような、情熱的なエネルギーが集まったような空間を目指した。
この装置は先ず、音楽が演奏される劇場を構成する。既存のコンクリートの空間は楽器の音を強く反響し過ぎるため、演奏には向いていなかったが、この装置の内部に奏者が入り演奏することで、音が適度に吸収される。また、ランダムな皺は音をさまざまな角度に反射するので音響装置として相応しい。原理としては、コンサートホールに設けられる反響板と同じである。
またこの装置は、音楽と連動する映像が映し出されるキャンバスでもある。映像自体は平面的なものであるが、3次元的なスクリーンに像を成すことで、立体的な形と色彩として鑑賞される。演奏者は、この装置と同様の方法で作成された紙の衣装を身に纏っているので、描画される対象の一部にもなっている。映像は劇場空間を照らす照明としても機能している。このように、さまざまな表現メディアが絡まり合いながら1つの作品を形成している。
通常、建築は計画主義的に創造される。図面を描き、模型を作り、計画がなされ、建設は基本的に計画通りに遂行されることが望まれる。しかし、このプロジェクトでは、音楽や映像を鑑賞するという行為が持つライブ感との相性から、計画主義的ではない建築が相応しいのではないかと考えた。
音楽がコンサートホールで演奏されるように現れる、生っぽい建築の姿を期待した。
■建築概要
作品名:くしゃくしゃ構造の『洞窟』
所在地:愛知県名古屋市中区錦2丁目
設計:河部圭佑建築設計事務所
担当:河部圭佑、伊藤桜
共同制作:青木一将、城戸かれん、西山弘洋
主催:名古屋市文化施策推進体制準備委員会
完成 / 発表:2021年3月
撮影:三浦知也
写真提供:名古屋市文化施策推進体制準備委員会
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
内装・床 | 床 | パンチカーペット(サンゲツ) |
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