佐藤研吾 / In-Field Studioによる、東京・墨田区の「喫茶野ざらし」。自身の文化経済圏を築くアートプロジェクトとして構想された店舗で、福島と東京を往来する設計者が施工者・運営者としても関わり、現代都市における“野っ原”をつくることを目指す photo©comuramai
佐藤研吾 / In-Field Studioによる、東京・墨田区の「喫茶野ざらし」。自身の文化経済圏を築くアートプロジェクトとして構想された店舗で、福島と東京を往来する設計者が施工者・運営者としても関わり、現代都市における“野っ原”をつくることを目指す photo©comuramai
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佐藤研吾 / In-Field Studioが設計した、東京・墨田区の「喫茶野ざらし」です。自身の文化経済圏を築くアートプロジェクトとして構想された店舗で、福島と東京を往来する設計者が施工者・運営者としても関わり、現代都市における“野っ原”をつくることを目指しました(※現在、中島・青木・佐藤の3人は運営を辞退しているとのこと。詳細は末尾を参照) 。In-Field Studioは、現在一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所 に改組されています。店舗の公式サイトはこちら 。
「喫茶野ざらし」は、アーティストの中島晴矢、インディペンデント・キュレーターの青木彬、そして筆者(佐藤研吾)の3人で始まったアートプロジェクトである。東京都墨田区の裏路地にあった木造2階建の比較的小さな建物を改修し、アーティスト・ラン・スペースとして喫茶店をスタートさせた。1970年代にゴードン・マッタ=クラークがニューヨークで立ち上げた「FOOD」プロジェクトを参照し、現代の都市・東京において、自分たち自身の文化圏、経済圏を築き上げることを目指したのであった。
「喫茶野ざらし」というネーミングにはいくつかの意図が組み込まれていた。
まずは現代都市における“余白”、東京に“野っ原”を作り出すこと。いままで東京で住み暮らし、それぞれのやり方で都市空間に対するアプローチを試みてきた3人のやりとりの中で浮かび上がった場のイメージが「野」であった。「野」には都市の外側、外縁という、東京の枠を超えて外部と接続していくような思惑もあった。
このプロジェクトに筆者は、建物改修の設計者であり、また施工者であり、そしてスペースの運営者でもあるという、複数の当事者として関わった。それゆえにこのプロジェクトでは、素材をどこで、どのように集め、どのように組み合わせて、誰が作るか、というあらゆる作業内容を細かに調整していった。
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佐藤研吾 / In-Field Studioによる、東京・墨田区の「喫茶野ざらし」。自身の文化経済圏を築くアートプロジェクトとして構想された店舗で、福島と東京を往来する設計者が施工者・運営者としても関わり、現代都市における“野っ原”をつくることを目指す photo©comuramai
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以下、建築家によるテキストです。
限定から生まれる可能性
「喫茶野ざらし」は、アーティストの中島晴矢、インディペンデント・キュレーターの青木彬、そして筆者(佐藤研吾)の3人で始まったアートプロジェクトである。東京都墨田区の裏路地にあった木造2階建の比較的小さな建物を改修し、アーティスト・ラン・スペースとして喫茶店をスタートさせた。1970年代にゴードン・マッタ=クラークがニューヨークで立ち上げた「FOOD」プロジェクトを参照し、現代の都市・東京において、自分たち自身の文化圏、経済圏を築き上げることを目指したのであった。
「喫茶野ざらし」というネーミングにはいくつかの意図が組み込まれていた。
まずは現代都市における“余白”、東京に“野っ原”を作り出すこと。いままで東京で住み暮らし、それぞれのやり方で都市空間に対するアプローチを試みてきた3人のやりとりの中で浮かび上がった場のイメージが「野」であった。「野」には都市の外側、外縁という、東京の枠を超えて外部と接続していくような思惑もあった。
また、落語の演目「野ざらし」からも名前を拝借している。喫茶店が立地するのが隅田川に近い吾妻橋付近にあり、美女の幽霊に出会うべく川でシャレコウベを釣ろうとする滑稽な艶噺、演目「野ざらし」の舞台がまさにこの辺りなのであった。ユーモアとグロテスクを併せ持つご当地落語の気配をプロジェクトの中に招き入れようとしたのだった。
このプロジェクトに筆者は、建物改修の設計者であり、また施工者であり、そしてスペースの運営者でもあるという、複数の当事者として関わった。それゆえにこのプロジェクトでは、素材をどこで、どのように集め、どのように組み合わせて、誰が作るか、というあらゆる作業内容を細かに調整していった。
当時、筆者は福島県大玉村と東京をおよそ週一で行き来するような移動生活を送っており、その移動自体が固有の創作環境であり、この改修プロジェクトを進めるためのリソースであると考え、大玉村から素材や制作物の断片を東京へ持ち込むことを企てた。村の製材所で挽いたクリの板材をテーブルや椅子の天板として使ったり。村内で手に入れたスクラップ金属を溶かし、ドアノブを鋳造したり。村でコメの収穫後大量に発生するモミ殼を、漆喰に混ぜて壁に塗ったり。村で作った藍染めの布を、その漆喰壁の目地として埋め込んだり、室内の照明器具のシェードにしたり。大玉村から素材を持ち込む、というある種の創作手法の枠組を設定し、そのフレームの中で何を作ることができるかを考えた。こうした限定から生まれる創作の可能性については、数年前から意識的に取り組んでいる(画策している)テーマである。
施工者として、工事を一部請け負い、なるべく自分自身が建設作業に関わることに積極的であるのも、建設作業における技術の幅と限界を知り、そこで得た知見と実感をデザインにフィードバックさせていきたいからだ。この「喫茶野ざらし」プロジェクトでは、さらに運営者としても関わっていたのであるから、什器や家具はもちろん、訪れる人々も含めた空間全体の質感に至る想像力は、関係者と対話を重ね、工事が進むにつれてより深まていくことができた。筆者にとってそれはとても稀有で濃密な創作体験であったと振り返る。
「喫茶野ざらし」は、2020年2月に営業を開始したが、直後からCOVID-19の影響をもろに受けた。そして、およそ開業から半年が経った後に青木、中島、筆者・佐藤の3人が運営を辞退する形となり、以降は株式会社4anso(現・株式会社喫茶野ざらし)が営業を続けている。青木・中島・佐藤の三人は店を出た後も、まさに“野ざらし”となって、引き続き「野ざらし」の名で3人での活動を続けている。
2022年1月
佐藤研吾
■建築概要
題名:喫茶野ざらし
設計:佐藤研吾 / In-Field Studio(現・一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所)
所在地:東京都墨田区、日本
主用途:喫茶店
種別:改修
施工:In-Field Studio(現・一般社団法人コロガロウ / 佐藤研吾建築設計事務所)/ 佐藤研吾、北條工務店、Davo、河原伸彦、渡辺未来、瀬辺茂
階数:地上2階
構造:木造
建築面積:40.12㎡
延べ面積:79.18㎡(うち改修部分40.12㎡)
設計期間:2019年6月~2020年2月
工事期間:2019年9月~2020年2月
撮影:comuramai
建材情報 種別 使用箇所 商品名(メーカー名) 外装・壁 壁 既存まま(モルタルこて仕上げにEP)
外装・建具 開口部 鋼製建具(中村仲製作所 )+無塗装
ドアノブ:真鍮鋳物
内装・床 客席床 モルタルこて仕上げ
アカマツ無垢板
框:クリ
内装・床 厨房床 長尺シート
内装・壁 客席壁 籾殻入り漆喰
藍染め+柿渋染め布貼り [眠り目地]
スギ板浮造り加工+柿渋
藍染め+柿渋染め布クッション
内装・壁 厨房壁 フレキシブルボード t6+柿渋+UC
内装・天井 厨房天井 フレキシブルボード t6+柿渋+UC
内装・家具 家具 クリ材天板
スギ材天板 [柾目]
鋼製脚
内装・照明 照明 鋼製骨組
真鍮鋳物
シェード:藍染め+柿渋染め布
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