石上純也建築設計事務所が設計した、山口・宇部市の「House & Restaurant」です。
旧知の友人の為の住宅兼店舗です。建築家は、“時間と共にその重みを増していく”空間の要望に、地面に穴を掘りコンクリートを流して土の中の躯体を掘り起こしガラスを嵌める建築を考案しました。また、不確定要素を許容し使い方の発見更新を繰り返して作り上げました。
フレンチレストランオーナーによる住宅兼レストランのプロジェクト。
建主とは昔からの友人で、最初の作品である「レストランのためのテーブル」も彼の依頼でつくったものだ。まず彼から「できるだけ重々しい建築を設計してほしい」との要求があった。「時間と共にその重みを増していくような建物がほしい。ツルツルのものではなく、自然の粗々しさを含むような建物。本格的な料理にはそういう空間が必要なんだ」「昔からずっとここにあるようで、これからもあり続けるようなもの」と。
平面構成は、北側にレストラン、南側に住宅を配置している。それらを3つの庭で隔て、そのうちひとつを通して行き来できる。手作業で工事を行い、それによる微妙なズレや偶然現場で起こったことを共有しながら、それらを許容し、歪みと不確定要素を自然に伴いながら建築を立ち上げていくことを考えた。具体的には、地面に穴を掘ってコンクリートを流し込み、固まったら土に埋まった躯体を掘り起こし、ガラスを嵌めて内部化することで建築とする。
最初の計画では、土は洗い流し、コンクリートの灰色の躯体が現れるイメージだった。しかし、土がこびりついている状態がとても印象的で、そのまま残すことに決めた。この段階で初めて洞窟の雰囲気を感じ、そこから新たなイメージで建物を再計画していこうと考えた。内部の設計を進めるにあたり、設計図と実際に掘り上がった躯体の表面座標の差異を3Dイメージで可視化すると、微細な差異が重なり合い、予測していなかった新しい空間が生まれていた。そういった場所を発見し、そこに合わせた使い方のイメージを更新していった。
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施工中の様子
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以下、建築家によるテキストです。
家とレストラン
フレンチレストランオーナーによる住宅兼レストランのプロジェクト。
建主とは昔からの友人で、最初の作品である「レストランのためのテーブル」(『新建築』0310)も彼の依頼でつくったものだ。まず彼から「できるだけ重々しい建築を設計してほしい」との要求があった。「時間と共にその重みを増していくような建物がほしい。ツルツルのものではなく、自然の粗々しさを含むような建物。本格的な料理にはそういう空間が必要なんだ」「昔からずっとここにあるようで、これからもあり続けるようなもの」と。
彼の考えでは、「老舗」のレストランをつくりたいとのことであった。家でもありレストランでもあり、子供や孫にも引き継いでいけるような建物を望んでいた。家に友達を招くようにレストランにゲストを招き、特別な人は住宅のリビングに招待したり、宿泊してもらうこともある。レストランが営業していない時には、レストランのホールは家族の居場所になり、子供たちはそこで勉強をしたりもする。
平面構成は、北側にレストラン、南側に住宅を配置している。それらを3つの庭で隔て、そのうちひとつを通して行き来できる。手作業で工事を行い、それによる微妙なズレや偶然現場で起こったことを共有しながら、それらを許容し、歪みと不確定要素を自然に伴いながら建築を立ち上げていくことを考えた。具体的には、地面に穴を掘ってコンクリートを流し込み、固まったら土に埋まった躯体を掘り起こし、ガラスを嵌めて内部化することで建築とする。
まず、スタディを重ねたヴォリューム模型を3Dデータ化し、3次元座標データをTS(トータルステーション)測量機に入力して現場で杭打ち観測でポイントを出し、同時にiPadで位置や形状を確認しながら数人の職人が手作業で緻密に穴を掘っていった。途中で草が生えたり土が少し崩れるなど、手作業によるズレや予期していなかったこともできるだけ許容した。掘り出した躯体にはたくさんの土がこびりついていた。場所によって地質が異なり、こびりついた土の性質も表情も異なっていた。
最初の計画では、土は洗い流し、コンクリートの灰色の躯体が現れるイメージだった。しかし、土がこびりついている状態がとても印象的で、そのまま残すことに決めた。この段階で初めて洞窟の雰囲気を感じ、そこから新たなイメージで建物を再計画していこうと考えた。内部の設計を進めるにあたり、設計図と実際に掘り上がった躯体の表面座標の差異を3Dイメージで可視化すると、微細な差異が重なり合い、予測していなかった新しい空間が生まれていた。そういった場所を発見し、そこに合わせた使い方のイメージを更新していった。
ガラスの位置や枚数、家具の配置や大きさ、設備の位置や納まりなども、躯体に合わせて設計をするというプロセスの逆転が起こった。たとえば、ガラスは現場の実測を元にガラスを嵌める位置を調整し、3Dスキャンデータから搬入時や開閉時にガラスが躯体と接触しないかどうかの検証、ヒンジ位置の調整などの作業が行われた。水回りは、配管ルートを簡略化するために、給排水を3つの中庭を一直線に通るよう計画し、水栓や排水のパイプや換気ダクトなどが中庭から室内にガラス窓を貫通するように設えている。
不確定要素を許容し、その都度試行錯誤しながら少しずつコンクリートの塊を建築に変えていく。建主はこれからここに住み始め、レストランを営み、今後もこの場所を更新していくだろう。
(石上純也)
■建築概要
事務所名:石上純也建築設計事務所
建築名称:House & Restaurant
所在:山口県宇部市
用途:住宅+レストラン
階数:地上1階
地域地区:(第一種中高層住居専用地域 法第22条区域)
主体構造:土型枠打放しコンクリート
建築設計:石上純也建築設計事務所 担当/石上純也、阿部妙子、Jaehyub Ko、中山拓也
構造設計:佐藤淳構造設計事務所 担当/佐藤淳 福島佳浩
照明・家具デザイン:石上純也建築設計事務所 担当/石上純也、中山拓也
照明アドバイザー:岡安泉照明設計事務所 担当/岡安泉
カーテン:安東陽子デザイン 担当/安東陽子
建築施工:アキタ建設 担当/秋田政人、松本学、福田宇気、中山拓也、遠田明音、井上由紀
設備施工:エコー設備管工 担当/田代浩一
外構・造園施工:SOLSO 担当/板垣雄太、高山造園 担当/桐生和也
ガラス:明治硝子 担当/柏原健祐
建具:ヤナギヤ 担当/柳屋芳雄
家具:五反田製作所 担当/宮本茂紀、水田藍
RC家具:I.D.Works 担当/竹橋勇人
敷地面積:914.69m2
建築面積:270.72m2
延床面積:195.41m2
建蔽率:29.60%(許容60%)
容積率:21.36%(許容200%)
各階床面積:1階/195.41m2
設計期間:2013年7月~2016年5月
施工期間:2016年11月~2022年3月
撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE、Photo Ikko Dobashi、junya.ishigami+associates
建材情報種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) | 外装・屋根 | 屋根 | 打放しコンクリート 防水用浸透性コンクリート改質材
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外装・壁 | 外壁 | 打放しコンクリート 土型枠仕上げ
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外装・建具 | 開口部 | FIX強化ガラス t=5~10mm
強化ガラス扉 t=12mm
FIX鏡 t=8mm
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内装・床 | 床 | 撥水防塵処理 コンクリートビシャン仕上げ
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内装・壁 | 壁 | 浸透強化仕上げ剤 打放しコンクリート 土型枠仕上げ
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内装・天井 | 天井 | 浸透強化仕上げ剤 打放しコンクリート 土型枠仕上げ
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内装・床 | リビング・キッチン・風呂・トイレ・レストラン厨房 床 | 浸透性コンクリート表面強化剤 防水用浸透性コンクリート改質材 打放しコンクリート金ごて仕上げ
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内装・水廻り | 便器 | サティスG サティスS (LIXIL)
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内装・水廻り | 洗面所 水栓 | シンク水栓金物(FONTE TRADING)
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内装・水廻り | 風呂 水栓 | シンク水栓金物(FONTE TRADING)
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