SHARE 湯浅良介による建築展「Pole Star」。洋菓子店の上階のスペース“un”での展示。自身の建築の“捉え方”の表現を求め、華美な装飾が施され光を反射し回転する“柱”を製作。構造とは異なる“柱”の意味に注目し“想像の銀河”を重ねて構想
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- 2022年11月19日(土)–11月27日(日)
湯浅良介による建築展「Pole Star」です。
洋菓子店の上階のスペース“un”での展示です。建築家は、自身の建築の“捉え方”の表現を求め、華美な装飾が施され光を反射し回転する“柱”を製作しました。構造とは異なる“柱”の意味に注目し“想像の銀河”を重ねて構想された作品です。展覧会の開催期間は、2022年11月19日~11月27日(開場時間10:00-19:00、休廊日なし)。入場無料です。
夜空の下、人間が肉眼で観測可能な星は 5千個だが、天の川銀河の中には 4千億個の星がある。僕らの銀河以外にも宇宙全体の中には 1兆個の銀河がある。目で見ることのできないほど遠くにあるもの、どうしたって出会えない何か、そういった “見たり触れたりすることはできないが存在するもの” が僕らの頭上の先に広がっている。
今よりずっと夜空の星がよく見えただろう遠い昔には、頭上の宇宙が想像の対象としてもっと身近なものだったのかもしれない。どんなに考えても及ばない相手に人間の想像力のキャパシティも拡げられただろうか。
人間は誕生してから雨風を凌ぐために最初は洞窟に住んでいたが、やがて石や骨、木を建てた住居に暮らすようになった。“建てる” という行為とその “建てられたもの” には特別な意味合いがあった。ストーンヘンジやモアイ像、トーテムポールなどが存在するように、今でも墓石や石を積み上げる行為が目には見えない何かとの関わりを持つために必要とされることがある。
普段目にする建物では、柱は屋根や床を支えるために構造的に必要なものとして扱われるが、西洋の大聖堂や日本の寺社仏閣には必要以上の太さや本数、装飾的な表面の設えを見ることができる。身近なところでは家の柱に何かを飾ったり、印を付けて特別なものにすることも、そういった “建てられたもの” に特別な意味合いを宿すことと似通ったところがあるだろう。何かを “建てる” という行為は見えないものとの関係に形を与えること、つまり、想像力の始まりのようなところがある。
あなたがいるこの部屋の中央に建つ、構造的には不要な、華美な装飾を纏わせた柱。時計の秒針と同じ速さで回転しながら光を反射している。それは星々のリフレクション。目蓋の裏の想像の銀河。目には見えない、そこには行けない、触れることもない、それでも存在している、そういうものが必要なことがある。見えるもの、触れられるものの存在と実感を与えてくれることもある。そのための夜空かもしれない。今のところは。
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以下、建築家によるテキストです。
湯浅良介によるテキスト「目蓋の裏の銀河」
夜眠る時、部屋の灯りを消して布団に入る。目を瞑ると、目蓋の裏に無数の光の点が見える。子供の頃はそれを宇宙だと思っていた。目蓋の裏に見える宇宙の中を漂うことが眠るということなのだと思って目を閉じた。
僕たちが住む地球は太陽系に属し、太陽系は天の川銀河に数ある惑星形の中の一つ。その天の川銀河も銀河群に属し、銀河群は銀河団に属し、銀河団は「宇宙の大規模構造」に属している。こんなふうに宇宙は階層構造になっていて、僕たちが見ることのできる情報はせいぜい天の川銀河まで、とされている。
夜空の下、人間が肉眼で観測可能な星は 5千個だが、天の川銀河の中には 4千億個の星がある。僕らの銀河以外にも宇宙全体の中には 1兆個の銀河がある。目で見ることのできないほど遠くにあるもの、どうしたって出会えない何か、そういった “見たり触れたりすることはできないが存在するもの” が僕らの頭上の先に広がっている。
今よりずっと夜空の星がよく見えただろう遠い昔には、頭上の宇宙が想像の対象としてもっと身近なものだったのかもしれない。どんなに考えても及ばない相手に人間の想像力のキャパシティも拡げられただろうか。
人間は誕生してから雨風を凌ぐために最初は洞窟に住んでいたが、やがて石や骨、木を建てた住居に暮らすようになった。“建てる” という行為とその “建てられたもの” には特別な意味合いがあった。ストーンヘンジやモアイ像、トーテムポールなどが存在するように、今でも墓石や石を積み上げる行為が目には見えない何かとの関わりを持つために必要とされることがある。
普段目にする建物では、柱は屋根や床を支えるために構造的に必要なものとして扱われるが、西洋の大聖堂や日本の寺社仏閣には必要以上の太さや本数、装飾的な表面の設えを見ることができる。身近なところでは家の柱に何かを飾ったり、印を付けて特別なものにすることも、そういった “建てられたもの” に特別な意味合いを宿すことと似通ったところがあるだろう。何かを “建てる” という行為は見えないものとの関係に形を与えること、つまり、想像力の始まりのようなところがある。
あなたがいるこの部屋の中央に建つ、構造的には不要な、華美な装飾を纏わせた柱。時計の秒針と同じ速さで回転しながら光を反射している。それは星々のリフレクション。目蓋の裏の想像の銀河。目には見えない、そこには行けない、触れることもない、それでも存在している、そういうものが必要なことがある。見えるもの、触れられるものの存在と実感を与えてくれることもある。そのための夜空かもしれない。今のところは。
“Pole Star”をキュレーションした編集者の水島七恵によるテキスト「垂直な視線」
どこか懐かしい、甘い時間を呼び起こす洋菓子店「SAVEUR」(サヴール)2Fの小さな空間「un」(アン)。フランス語で「ある一つの」という意味を持つunは、SAVEURを手がけるYAECAが昨年ひらいた空間だ。「ここからはじまる一つ一つが、次の一つにつながっていく」。そんな想いが込められたこの空間の次の一つを託されたとき、私は湯浅良介の作品を通してつないでいきたい。そう直感した。
湯浅の生業であり専門は、建築設計である。肩書きで言えば建築家がごく自然だと思うが、湯浅はその響きに対してはどこか居心地悪そうに距離を置いている、ように感じる。もっといえば「建築」という、人間の等身大よりもずいぶん巨大なスケールを内包した言葉には一瞬足りとも安住する気配がない。私はそこに、湯浅自身が抱えるにぎやかな孤独を感じていた。
逆説的かもしれないけれど、だからこそ、unという空間のなかで湯浅が設計した何かを見たいと思ったのだ。「建築家としての作品を作って欲しいです」。そう私が告げたとき、きっと戸惑いがあったのではないか。湯浅にとって作品を作るという行為は、むしろ建築という輪郭の外側へと越境していく営みであったはずだから。
数週間後、湯浅からあがってきた展示の案は、私の予想を軽やかに超えていた。色鉛筆によるスケッチで描かれていたのは、華美な装飾をしたきらきらと光る一本の柱と、それを見つめる一人の人間の姿。つまりは「柱」を建てるという、誰もが知る建築のエレメントを作品「Pole Star」の真ん中に据えてきたのだ。
「ドローイングやオブジェを作るなど、様々な方法はあるけれど、最終的には自分が建築をどう捉えているのか。そこから逃げずに表現したいと考えた。この世界は宇宙の法則や自然の摂理があって成り立っているものだけど、建築とはそうした非人間的な事象を受け入れ、ときに抗いながら調律するもの。人間を通して立ち現れる “もの” のことを指すと思う」
湯浅のこの言葉になぞれば、大地を支えながら重力に抗して立ち上がる柱には、まさに人間の意志や行為の象徴を感じる。そしてまた、その意思には水平移動に慣れた人間の、垂直への衝動や憧れが含まれているような気がしてならない。それは天と地をつなぐ垂直な視線。何万光年と離れた銀河と人間が生きる世界をつなぐ架け橋。私たちのこの身体は元素から成っているが、現代の科学ではこの元素が宇宙に輝く星々の内部で作られたものだとわかっている。
まだ見ぬ想像の世界や暮らしをあたかも存在しているかのように考え、言葉にしてスケッチをし、図面を引き、生身の身体では届かないスケールに対して肉薄していく。建築という営みには人間の浪漫と奥行きが含まれている。目蓋の裏に銀河を見た。
■展覧会概要
展覧会タイトル:Pole Star
会期:2022年11月19日(土)~27日(日)
開場時間:10:00~19:00
休廊日:なし
会場:un(東京都大田区田園調布2-51-1 SAVEUR 2階)
入場料:無料
出展作家:湯浅良介
キュレーター:水島七恵(pendulum)
DMデザイン:加納大輔
お問い合わせ:office@yuasaryosuke.com