SHARE 髙橋真未建築都市設計事務所と奥山浩文による、東京・世田谷区の二世帯住宅「光庭の長屋」。閑静な住宅街に計画。北向き敷地でも“自然が感じられる”建築を求め、外部との距離感をつくり光と風を取り込む“スリット状の庭”を考案。“防火上必要な技術基準”に適合させ“木質空間”も作る
髙橋真未建築都市設計事務所と奥山浩文が設計した、東京・世田谷区の二世帯住宅「光庭の長屋」です。
閑静な住宅街に計画されました。建築家は、北向き敷地でも“自然が感じられる”建築を求め、外部との距離感をつくり光と風を取り込む“スリット状の庭”を考案しました。また、“防火上必要な技術基準”に適合させ“木質空間”も作る事も意図されました。
東京都世田谷の閑静な住宅街に光庭を持つ、母と娘家族のための木造3階建の二世帯住宅である。
娘家族には二人のこどもがおり、普段から母の家に行き来し、近所に住む姉家族と共に母の家にみんなで集まる仲睦まじい家族だった。母は一人で暮らしていたが、娘家族が一緒に暮らしたいと伝えたことがきっかけに母が住む家を建て替えて三世代が暮らす家をつくることになった。
敷地は、世田谷区の大通りに沿って建ち並ぶ商業系用途地域の中高層ビル群の内側にあり、第1種低層住居専用地域となっている。
街区の北側に位置し、周辺の住宅が密接している環境である。都心では高密度に住宅が建っているため南向きではない居住環境は多い。北を向きながらも光や風などの自然が感じられる建築ボリュームのあり方を検討した。
そこで接道する北側に光と風を導くように奥に深い奥行5mあるスリット状の庭を設けた。
環境シミュレーションを行いながら光庭の幅と奥行きの検討を重ねた。許容建蔽率60%の余剰をそこに集約させ、建物を分節することで南側から光が降り注ぐ明るい家をつくる。その庭を巡るようにそれぞれの住居を配置し、2階へのアクセスは必ずその庭を通るようにする。
庭に面して大きな窓をつくり、庭にはモミジを植えて木々越しにお互いの気配が感じられる住まいとした。その庭を「光庭」と呼んだ。光庭は道路からも適度な距離感をもたらし、南北に風が通り抜ける快適な住環境を両立した。
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以下、建築家によるテキストです。
東京都世田谷の閑静な住宅街に光庭を持つ、母と娘家族のための木造3階建の二世帯住宅である。
娘家族には二人のこどもがおり、普段から母の家に行き来し、近所に住む姉家族と共に母の家にみんなで集まる仲睦まじい家族だった。母は一人で暮らしていたが、娘家族が一緒に暮らしたいと伝えたことがきっかけに母が住む家を建て替えて三世代が暮らす家をつくることになった。
施主からの要望は、まず二つの家族がそれぞれの独立性を保ちながらもお互いが気遣いながら一緒に暮らせること、次に天然木など自然素材を感じられる暮らしがしたいこと、そして母は夫の形見である囲炉裏テーブルと、建て替え前に家具の相談があり設計者の私がデザインした囲炉裏テーブルのまわりで団らんできるL型のベンチを持っていきたいこと、最後に母が日常的に開催しているフラワーアート教室を行えて、制作した作品を展示できる空間をつくることであった。
敷地は、世田谷区の大通りに沿って建ち並ぶ商業系用途地域の中高層ビル群の内側にあり、第1種低層住居専用地域となっている。
街区の北側に位置し、周辺の住宅が密接している環境である。都心では高密度に住宅が建っているため南向きではない居住環境は多い。北を向きながらも光や風などの自然が感じられる建築ボリュームのあり方を検討した。
そこで接道する北側に光と風を導くように奥に深い奥行5mあるスリット状の庭を設けた。
環境シミュレーションを行いながら光庭の幅と奥行きの検討を重ねた。許容建蔽率60%の余剰をそこに集約させ、建物を分節することで南側から光が降り注ぐ明るい家をつくる。その庭を巡るようにそれぞれの住居を配置し、2階へのアクセスは必ずその庭を通るようにする。
庭に面して大きな窓をつくり、庭にはモミジを植えて木々越しにお互いの気配が感じられる住まいとした。その庭を「光庭」と呼んだ。光庭は道路からも適度な距離感をもたらし、南北に風が通り抜ける快適な住環境を両立した。光庭を開くことでまちとつながり、共有することで家族を結ぶ計画である。
1階は母の住まい、2~3階は娘家族の住まいとして独立性を保ちつつ、日常のちょっとした動作の先に光庭やモミジの木が見えながらお互いを見守る構成を考えた。囲炉裏テーブルとベンチは光庭を臨む位置に配置し、そこでは母のフラワーアート教室を行い、家族の団らん空間となり、光庭に面してアート作品が展示できるようにギャラリー空間をつくった。
1階・2階ともワンルームになるようにすることでどこからでも光庭を眺められるようにした。光庭を通り抜けるように配置した外部階段から2階の玄関へつながり、こどもたちは毎日光庭を駆け上がり1階で暮らす母と視線が合う。3階にはルーフテラスをつくり、光庭から段々と立体的な庭になるように構成した。光庭を中心に2つの家族がめぐるように暮らす住まいを考えた。
現在の木造住宅は石膏ボードで覆われた内観や均質すぎる既製品の外装材が都市に溢れている。高気密高断熱化した住宅は閉鎖的になり、時の移り変わりや自然を感じる機会を失ってきている。敷地は準防火地域であるため、木造3階建てを計画すると準耐火建築物にする場合が多い。その場合は柱・梁の架構を石膏ボードで防火被覆する必要がでてくる。木構造を露出する場合に燃え代設計をすることもできるが一般流通材よりも大きい材料を使う必要がある。
そこで都心でも木の建築を感じられる住宅とするために、準耐火建築物と同等な性能をもつ防火上必要な技術基準(建令136条の2第二号ロ準延焼防止建築物)に適合する建築を検討した。その場合、小径120mmとした一般流通材で木材の柱・梁の露出は可能となり、木製の階段もデザインすることもできた。外壁は防火構造等により壁厚を抑えて広い内部空間を確保した。
ただし、外壁の開口部においては隣地境界線から1m以内にある開口部はFIX窓にするなど敷地が広くないと開閉できる窓が作れないなどの厳しい条件があるが、「光庭」をデザインしたことにより、光庭に面する開口部には制限はかからないため自由な開口でつくることができる。また道路からの奥行が5mと離れているため延焼のおそれのある範囲にもかからない。よって光庭に面する開口部を大きくとり、まちにも開き、木・アルミの複合サッシや曲面ガラスをつかって内部空間にも広がりをつくりつつ、木の温かみが感じられる空間ができた。
また、それぞれの居室の天井高さを確保するために構造計算ルート2の採用と令和元年建築基準法21条の改正(高さ大規模建築物の緩和)をいち早く取り入れ、軒高9m超えの大型な木質空間を実現した。
四季のうつろいを感じられる空間をつくるために光庭に差し込む太陽の光の見え方や質感を検討した。太陽の角度に向かってタイルを斜め45度に傾けてみる。45度というのは春や冬の訪れを肌で感じる時期(2月下旬、10月中旬)の南中時の太陽の角度である。太陽の光が3階ルーフテラスのルーバーの陰影により可視化されタイルの角度と重なる。素焼きタイルの焼きむらや凹凸が天候により毎日異なる表情をつくる。光庭の外壁を眺めると季節を感じ、四季のうつろいを知らせてくれる、それはSeason Clockとなる。
素焼きタイル以外の外壁は、硅砂と天然石と水系材料の樹脂を混ぜ合わせて出来た陶磁器質骨材で構成し、透湿性が高く建物の下地の水分を外気へ放出する。都市にありふれた人工的な素材に対して、繊細な天候の変化に応じて呼吸をする生の外皮であり、まちの環境をつくっていくことを意識した。
この住宅には2つの家族が登場するが、娘家族のこどもたちにとって祖母である「母」のつくる手料理や母が大事にしている囲炉裏テーブルすべてが生活の一部であって、別々の家族という認識がなかった。こどもたちは自由に駆け回り遊び、さまざまな境界をあいまいにして明るく家族を繋いでいく。その姿は生きる喜びであり、この家族にしかない瑞々しい関係性を建築にしたいと光庭に思いを巡らせた。光庭は人と人、まちと程よい距離を保ちながら気配を紡ぎ、時のうつろい、柔らかな風や温度、光と緑の日常の美しさと生の感覚を内包する。お互いに見合い気遣い、優しさに包まれてともに住まう家を目指した。
■建築概要
題名:光庭の長屋
所在地:東京都世田谷区
主用途:長屋(2世帯住宅)
設計:髙橋真未建築都市設計事務所
協働:奥山浩文
階数:地上3階
構造:木造
構造設計:川村構造設計室
施工:栄伸建設
家具工事:株式会社築紫
敷地面積:81.31㎡
建築面積:48.76㎡
延床面積:114.86㎡
設計:2019年10月-2020年3月
工事:2020年9月-2021年4月
竣工:2021年4月
写真:中村絵
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | 平型屋根用スレート葺き:グランネクストシンプル(Kmew) |
外装・壁 | 外壁 | タイル貼り:スライスボーダー(AGORABRIX 国代耐火) |
外装・建具 | 外部建具 | 木・アルミ複合サッシ:アルタスウッドウィンドウ(ニュースト) |
外装・建具 | 1階玄関扉 | |
外装・その他 | 3階ルーフテラスルーバー | |
外装・その他 | 1階車庫・玄関軒天井 | |
内装・床 | 1階2階3階居室床 | オークフローリング:オークEクリアコート(東京工営) |
内装・床 | 洗面・トイレ床 | 長尺塩ビシート:フロアリュームマーブル(東リ) |
内装・壁 | 1階・2階・3階壁 | |
内装・壁 | 1階キッチン壁 | タイル張り(平田タイル) |
内装・天井 | リビングダイニング天井 | 化粧木シート貼り:化粧木サンフットホワイトオーク板目(HOXAN) |
内装・キッチン | キッチン天板 | |
内装・照明 | 2階照明 |
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