SHARE あとりえ・楠本構造設計・Awwによる、茨城・つくば市の「茗溪学園 トレーニング・部室棟」。教育機関のキャンパス内での計画。海外の来客や留学生も多い学校の特徴を考慮し、日本の代表的工法“木造”でつくる大空間の建築を志向。校舎と運動場の間という立地も考慮して“視線が抜ける”形態とする
とりやまあきこ / 一級建築士事務所あとりえ、 楠本玄英構造設計事務所、のはらあん / Atelier Awwが設計した、茨城・つくば市の「茗溪学園 トレーニング・部室棟」です。
教育機関のキャンパス内での計画です。建築家は、海外の来客や留学生も多い学校の特徴を考慮し、日本の代表的工法“木造”でつくる大空間の建築を志向しました。また、校舎と運動場の間という立地も考慮して“視線が抜ける”形態としました。
茨城県つくば市の私立中高⼀貫校である茗溪学園中学校高等学校キャンパス内に完成した、初めての木造建築です。
主に運動活動を想定した多目的に使える半屋外の大空間の他、部室8部屋、トレーニングエリア、学園の花形スポーツでもあるラグビーのグラウンドを見下ろす大テラスなどの機能を持ちます。
茗溪学園には、海外からの来客や留学生も多く、また、教育施設で木を使うことが推奨されている昨今、RC造やS造の建物ばかりの茗溪学園のキャンパス内にも日本の代表的な工法でもある木造の建物、木質の空間を実現させたいと考え、学園の内外に日本の伝統技術と木質空間の良さをアピールできるよう、あえて木造で大きな空間を作ることを提案しました。
中学棟側とラグビー場の間に挟まれた位置に建つこの建物は、言わば学問エリアと運動エリアのちょうど中間点となります。この建物が建つことで、視界が遮られてそれぞれの活動が分断されることないよう、茗溪学園らしい文と武の活動が混ざりあう場所になればと、できるだけ東西に視線と風が通り抜ける形状としています。また、建物内でトレーニングを行う際、湿気や熱気が抜けていくよう上部に開口を配して上下方向の空気の流れも作っています。
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以下、建築家によるテキストです。
茨城県つくば市の私立中高⼀貫校である茗溪学園中学校高等学校キャンパス内に完成した、初めての木造建築です。
主に運動活動を想定した多目的に使える半屋外の大空間の他、部室8部屋、トレーニングエリア、学園の花形スポーツでもあるラグビーのグラウンドを見下ろす大テラスなどの機能を持ちます。
部活動が盛んな同校において、近年の異常気象による猛暑日には外部での活動を断念せざるえない日もある中、「雨天、晴天に関わらず気兼ねなく運動できるよう簡単に屋根がかかった半外部の空間を作りたい」という学園からの要望からスタートした同プロジェクトでしたが、計画を進める中で、現在不足している部室の追加、外部からの来訪者にも休憩してもらえるベンチや荷物置きスペース、新たなトレーニングエリアなどの機能が盛り込まれて行きました。
この建物の設計意図、特徴について
ポイントその1、文武をつなぐ架け橋となる建物に
中学棟側とラグビー場の間に挟まれた位置に建つこの建物は、言わば学問エリアと運動エリアのちょうど中間点となります。この建物が建つことで、視界が遮られてそれぞれの活動が分断されることないよう、茗溪学園らしい文と武の活動が混ざりあう場所になればと、できるだけ東西に視線と風が通り抜ける形状としています。また、建物内でトレーニングを行う際、湿気や熱気が抜けていくよう上部に開口を配して上下方向の空気の流れも作っています。
ポイントその2、木質の建築空間を茗溪学園に
茗溪学園には、海外からの来客や留学生も多く、また、教育施設で木を使うことが推奨されている昨今、RC造やS造の建物ばかりの茗溪学園のキャンパス内にも日本の代表的な工法でもある木造の建物、木質の空間を実現させたいと考え、学園の内外に日本の伝統技術と木質空間の良さをアピールできるよう、あえて木造で大きな空間を作ることを提案しました。
主な構造部材である中断面集成材をそのままあらわす形で使い、その他、耐力壁を担うOSB板、構造用合板や、ピロティの仕上げのヒノキの下見張り、ベンチや靴箱には、父母から提供された無垢の厚板を使い、木加工の技術、木のぬくもりや経年変化を体験でき、広く国内外に向けて学術的にも意義のある場所となることを目指しました。
生徒の皆さん、海外から来る方々に、日本の職人技や、最先端の木造技術を感じてもらえる建物となっています。
ポイントその3、筑波山の峰々を模した屋根形状と日本の心
中庭側からラグビー場側に向かって段々と高くなる3つの棟を持つ屋根形状は、筑波山の峰々の形をイメージしたものです。また、日本の伝統家屋である切妻屋根の家々が建ち並ぶ様も表現しており、特に中学棟の2階から見ると棟の重なりが美しく見えます。
部屋ある部室には、それぞれ筑波山の四季・朝昼夕晩をイメージした4色の和の壁紙をアクセントに使い、1階の多目的スペースには書のデザインを壁に配するなど、運動施設でありつつも、地域の魅力・和の心を意匠に取り込んだ他にはない空間となっています。
ポイントその4、視線と光が通る集中斜材木造架構
⼀般的に、大スパン架構ではトラスや重ね梁などで屋根を支えます。本建物では束材・斜材を柱頭部に集中させて組むオリジナルの架構とし、中間の梁の上部が大きく空く構造計画にしました。
大空間に設けた梁は特注中断面集成材で大部分を構成、部材サイズをせい240mm、幅120mmとし、木造住宅に使用する程度の大きさとしました。筑波山の双耳峰形状と茗溪のイニシャルMに近い斜材の組み方としながら力学的に釣り合うように計画し、木造在来工法でありながらも5m以上の開放された高さを確保、さらに東西への視線を通し、天窓からは自然光が降り注ぐ特別な空間が実現しました。
放射的に上に広がっていく木の斜材群が、茗溪学園の校章に使われている桐の花のようにも見えます。
ポイントその5、茗溪卒業生による設計チーム
茗溪学園の卒業生が中心となったプロジェクトチームを結成し、意匠設計、構造設計、外構植栽、電気設備等に同校関係者が密接に携わったことも大きな特徴です。
主に、茗溪16回生を中心とした設計チームでこの建物の設計に取り組みました。
・設計監理・デザイン監修担当:一級建築士事務所あとりえ とりやまあきこ(16回生)
・構造設計担当:株式会社楠本玄英構造設計事務所 / HK Inc. 楠本玄英(16回生)
・設計協力:Aterilr Aww のはらあん(16回生)
・外構植栽計画:塙ランドスケープデザイン 塙陽一郎(16回生)
また、設計以外でも茗溪関係者が多く関わっています。
・電気設備機器:日産電業株式会社 今澤賢一郎(16回生)
・外構植栽工事:株式会社川上農場 川上剛司(17回生)
・上棟式でお餅を入れたつづら:高橋つづら店 高橋諭(16回生)
・奉献酒セレクト:酒の志筑屋 竹村太一朗(16回生)
・壁面の書:書家 川井恵(16回生)
・古材提供(フリースペースのベンチ、靴箱などに利用):Tさん(在校生父母)
・写真:カメラマン 齋藤さだむ(卒業生父母)
「茗溪学園トレーニング・部室棟」は、同学園で育まれた人的資産とネットワークを活用し、地元の資源や技術を生かして作られました。その存在が、個々の独立心とチームワークを大切にする同学園のシンボルとして、学生たちの心と体を育み、豊かな時を重ねていくことを願っています。
■建築概要
題名:茗溪学園トレーニング・部室棟
所在地:茨城県つくば市
主用途:主に運動活動を想定した多目的スペース、トレーニングエリア、部室8部屋、大テラス
設計監理・デザイン監修担当:一級建築士事務所あとりえ とりやまあきこ
構造設計担当:株式会社楠本玄英構造設計事務所 / HK Inc. 楠本玄英
設計協力:Atelier Aww のはらあん
施工:株式会社渡辺建工
外構植栽計画:塙陽⼀郎 塙ランドスケープデザイン
電気設備機器:今澤賢⼀郎 日産電業株式会社
外構植栽工事:川上剛司 株式会社川上農場
フリースペース壁面の書:川井恵、書道家
構造:木造在来工法
階数:地上2階
建築面積:571.62㎡
延床面積:588.16㎡
竣工:2022年6月
写真:齋藤さだむ
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | ガルバリウム鋼板 t0.4縦ハゼ葺き |
外装・壁 | 外壁 | 構造用合板t9、OSB t9 [耐力壁構造をそのまま見せる仕上げ] |
外装・建具 | 開口部 | |
外装・建具 | 出入り口扉 | 造作建具OSB仕上げ |
外装・建具 | 天窓 | |
外装・その他 | 軒天 | 構造用合板t9 |
外装・その他 | 外部鉄骨階段手摺 | スチールフラットバーにローバル塗装 |
内装・床 | フリースペース 床 | シンダーコンクリート モルタル金鏝押え |
内装・床 | 個室 床 | |
内装・床 | トレーニング室 床 | |
内装・壁 | オープン収納 壁 | オーダープリントクロス(バリソル)[書家 川井恵による作品] |
内装・天井 | 個室 天井 | |
内装・照明 | 照明器具 | (ODELIC) |
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