三菱地所設計 / 藤貴彰+稲毛洋也+カン・デユェンが設計した、イタリア・ヴェネチアのジャルディーニ・マリナレッサ庭園に設けられた茶室「ベネチ庵」です。
2023年のヴェネチアビエンナーレ国際建築展での発表作品です。建築家は、世界情勢が不安定な時代の“人と人とを繋ぐ場”を目指し、世界で展開可能な“普遍性”と“固有性”を備えた建築を志向しました。そして、パスタ等の現地の廃棄物を建材に転用して空間を作りました。
ヴェネチアの緯度から形態を導き、食品廃棄物を建材化した物質循環と向き合ったサステイナブルな茶室を、ヴェネチアンラグーンを臨む公園に設計しました。
このプロジェクトは2023年ヴェネチアビエンナーレ国際建築展におけるEuropean Cultural Center主催の「TIME SPACE EXISTENCE」で発表されました。
Covidや戦争の影響で、世界は分断に満ちています。
お茶(日本茶、コーヒー、紅茶、チャイなど)は世界各国で異なる文化を持ちますが、人と人とを繋ぐコミュニケーションのきっかけであることは共通しています。
Covidの影響は限定的になりつつありますが、世界情勢は決して万全とは言えません。私たちは改めて人と人とをつなぐ場として茶室を作りたいと考えました。
このプロジェクトでは、コミュニケーションスペースとして茶室を、世界各地で展開可能な普遍性を持ち合わせていながら、かつ固有性を体現するものとして考えました。
そこで着目したのは、地球の緯度と廃棄物です。ヴェネチアの緯度が約45度であることと、廃棄物にも地域性があることに着目し、イタリアの廃棄物(パスタ、コーヒー、コルク、紙)を建築材料として、茶室を構成することにしました。
地域が変われば緯度・廃棄物が変わるため、ルールは共通しながらも、全く別の茶室が生まれます。緯度に合わせて透過度を操作することによって、光や風の制御も地域に合わせて適切に行うことができます。
以下の写真はクリックで拡大します
video©Yuta Sawamura
video©Shohei Yokoyama
以下、建築家によるテキストです。
ヴェネチアの緯度から形態を導き、食品廃棄物を建材化した物質循環と向き合ったサステイナブルな茶室を、ヴェネチアンラグーンを臨む公園に設計しました。
このプロジェクトは2023年ヴェネチアビエンナーレ国際建築展におけるEuropean Cultural Center主催の「TIME SPACE EXISTENCE」で発表されました。
ベネチ庵は以下をテーマとしています。
「人と人とのつながり」について考える
Covidや戦争の影響で、世界は分断に満ちています。
お茶(日本茶、コーヒー、紅茶、チャイなど)は世界各国で異なる文化を持ちますが、人と人とを繋ぐコミュニケーションのきっかけであることは共通しています。
Covidの影響は限定的になりつつありますが、世界情勢は決して万全とは言えません。私たちは改めて人と人とをつなぐ場として茶室を作りたいと考えました。
「普遍性と固有性」について考える
このプロジェクトでは、コミュニケーションスペースとして茶室を、世界各地で展開可能な普遍性を持ち合わせていながら、かつ固有性を体現するものとして考えました。
そこで着目したのは、地球の緯度と廃棄物です。ヴェネチアの緯度が約45度であることと、廃棄物にも地域性があることに着目し、イタリアの廃棄物(パスタ、コーヒー、コルク、紙)を建築材料として、茶室を構成することにしました。
地域が変われば緯度・廃棄物が変わるため、ルールは共通しながらも、全く別の茶室が生まれます。緯度に合わせて透過度を操作することによって、光や風の制御も地域に合わせて適切に行うことができます。
「水」について考える
世界中で水不足が叫ばれています。ヴェネチアでも運河が干上がっていると先日日本でもニュースになっていました。一方でアクア・アルタによる浸水が度々起こっているというニュースも耳にします。
歴史を紐解くと、人類が住居を作るようになってからの建築史は、水をコントロールする歴史でもあります。木・金属・ガラス・石・タイルといった水に耐えられる材料が使われるようになり、世界中ほぼ同じ材料で建築物は作られています。時には水を欲し、時には抗ってきたのが人類です。ベネチ庵の上部構造はパスタや紙といった水に極めて弱い素材でできています。
これらの材料に新技術を用いて耐水性を持たせました。この技術は、どんな有機物にも化学変化によって耐水性を与えることができ、その上やがては土に還る素材特性を持っています。これにより、
屋外に利用できる素材の可能性が大きく広がります。もちろん、お茶も水がなくては始まりませんし、ベネチ庵はラグーンを臨む公園にあります。
水からできたお茶を味わい、水を見、水に抗う新素材の茶室に包まれる。ビエンナーレのテーマである「Laboratories of the Future」にもぴったりの展示となりました。
「持続性」について考える
展示期間終了後は、廃棄物でできた茶室を分解し、家具として再構成できるようになっています。家具にする前提で部材寸法を決めていったので、家具だったものが展示期間中のみ茶室になっていたといった方が良いかもしれません。
会期終了後は、所有希望者の望む造形に組み替えて、棚やテーブルに生まれ変わります。ブロックチェーン技術を用いて、展示終了後にどこの誰にいくつの部材が渡ったかをトレースできるように考えています。また、同時に3Dデータも提供し、部材が足りなければ自ら3Dプリントなどで出力できるようにします。
100%プロダクトでもなく100%セルフビルドでもない、所有者が容易に手を加えられる、愛着を生む家具です。
茶人 松村宗亮(裏千家茶道準教授)によるテキスト
二畳足らずの茶席にお客様と対座して美や建築、人生などの清談を楽しみながら一服差し上げる。お客様の背後にはヴェネチアの海を行き交う船、そして高い空。今回このプロジェクトを通じて私は500年以上歴史ある茶の湯や茶室について様々な発見や可能性を得ることが出来ました。
茶室は「市中の山居」として茶を楽しむ特別な空間として独特な発展をしてきましたが、その基本的なコンセプトとしては世俗の塵を持ち込まない非日常な世界、というものがあります。茶空間にはその目的を達成する為の露地であり、蹲、躙口、光の入り方や天井の高低など様ざまな仕掛けがあります。
今回茶会をさせて頂いたヴェネチ庵は2畳弱で広さとしては利休作の茶室「待庵」と同程度であり、一般的には極侘びであり、多少、緊張感を強いるような空間でもあると称されています。
その一方で利休以後は織部や遠州の茶室に代表されるようにより広く明るく広間での茶会が好まれる歴史がありました。
しかしこの庵は極小の空間でありながら視界は開けており、かつ、ゆるやかな仕切りがあり、見えない「結界」のようなものが存在していることを感じました。 確かに数メートル横では観光地ならではの喧騒や会話などが聴こえてはくるのですが明らかにお客様と私との空間は外とは離れた世界がありました。
多くのイタリアでのお客様から「ここに来たら心がリラックスした」「別世界を感じた」とお言葉をいただいたのは偶然ではないかと思います。
土壁や躙口、蹲などはなくとも公園を露地に見立てた極小の侘び茶室でありながら緩やかな結界で無限の広間のような明るさを感じることができる、小間と広間の長所を兼ね備えた今まで体感したことのない唯一無二の茶室がそこにはありました。
またヴェネチアの地域に根差した建築資材は元来の茶室の木材、草、紙、土、石で作られた茶室同様の温もりや心地良さを感じることができ、その点も茶会をする上でいい影響を与えてくれました。
特に印象的だったのが緯度に合わせた光の入り方で、時の移り変わりにあわせて主客に注ぐ柔らかな日差しは茶室を教会などで感じる静謐な宗教空間のような場に変えてくれる特別なものでした。
今まで歴史ある茶室から日本各地、世界の様々な場で茶会を開催させて頂いてきましたが、今回の「ヴェネチ庵」での茶会は今まで感じたことのない茶会が開催出来、また本来の茶の目的の一つである「主客の一座建立」を体感できたとても喜び大きい時間になりました。
今後もこのプロジェクトが更に発展していき世界の様々な場でこのような空間が生まれ、あのような平和でリラックスできる時間が作られることを切に祈っています。
素晴らしい機会をいただき本当にありがとうございました。
■建築概要
題名:ジャルディーニ・マリナレッサ庭園 ベネチ庵
所在地:ヴェネト州ヴェネチア県
主用途:茶室
設計・施工:藤貴彰(tyfa/Takaaki Fuji+Yuko Fuji Architecture, 三菱地所設計)、稲毛洋也(三菱地所設計)、De Yuan Kang(三菱地所設計アジア社)
協力:European Cultural Center、無茶苦茶(茶会プロデュース)
構造:ミウラ折りフレーム構造
階数:地上1階
敷地面積:6.25㎡(土台部分)
建築面積:2.56㎡
延床面積:2.56㎡
設計:2023年1月~2023年4月
工事:2023年5月~2023年5月
竣工:2023年5月
写真:Yuta Sawamura
動画:Yuta Sawamura、Shohei Yokoyama