小田切駿 / ハヤオオダギリアーキテクツが設計した、東京・港区の服飾店「MIKAGE SHIN AOYAMA」です。
構築的な特徴を持つモードブランドの初の実店舗です。建築家は、“足を運びたくなる”場を目指し、身体・衣服・建築が融合する“インスタレーション”としての空間を志向しました。そして、機能も担う“約40mの金属の曲線”を全体に駆巡らせました。店舗の場所はこちら(Google Map)。
RC造の地下1階、地上2階の建築に、ファッションブランドの物販店舗+事務所を計画するインテリアの改修プロジェクトである。
「ECサイトでも衣服が買える現代で、あえて足を運びたくなるような店舗」が求められたことから、多くの商品を陳列して収益性を高めるという一般的な店舗設計の手法を取らず、身体・衣服・建築が一体となるようなインスタレーションとして計画した。
この空間には長さ約40m、直径25mmのステンレス鋼材の曲線が構造的に自立しながら立体的に駆け巡っており、それが高さや曲率を変えながら、あるところではハンガーラックに、あるところではショーウィンドウとしての機能も担い、人々の身体の運動を導いていく。
人の気配、空気の流れ、洋服の重みにこの曲線が反応し、物質の力強さと繊細さを空間いっぱいに表現することで、ブランドの世界観と調和するのではないかと考えた。
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video©川本航佑
以下、建築家によるテキストです。
概要
RC造の地下1階、地上2階の建築に、ファッションブランドの物販店舗+事務所を計画するインテリアの改修プロジェクトである。
「ECサイトでも衣服が買える現代で、あえて足を運びたくなるような店舗」が求められたことから、多くの商品を陳列して収益性を高めるという一般的な店舗設計の手法を取らず、身体・衣服・建築が一体となるようなインスタレーションとして計画した。
この空間には長さ約40m、直径25mmのステンレス鋼材の曲線が構造的に自立しながら立体的に駆け巡っており、それが高さや曲率を変えながら、あるところではハンガーラックに、あるところではショーウィンドウとしての機能も担い、人々の身体の運動を導いていく。
人の気配、空気の流れ、洋服の重みにこの曲線が反応し、物質の力強さと繊細さを空間いっぱいに表現することで、ブランドの世界観と調和するのではないかと考えた。
設計プロセス
洋服の数量、レジカウンターやアクセサリー什器などの家具の位置を考慮しながら、来店者の動線や滞在スペースを誘導するように、鋼材を飛ばすルートと建築本体に固定する部分を検討した。結果的には固定点は床に4点、天井に1点となり、全体として約40mの長さとなった。そこから固定点間をつなぐはね出し部分の自重および洋服荷重による応力や変形の程度を検証しながら、部材断面および形状が決定されていった。
この鋼材は見た目上は直径25mmのシームレスなSUSの丸鋼であるが、実際は固定点に近く応力が比較的大きい部分には無垢材を使用しながら、はね出している部分はパイプに切り替え、溶接によって繋いでいる。さらにパイプの部分は場所に応じて、肉厚を3.0mm、2.0mm、1.5mmと切り替えることで、はね出していくにしたがって徐々に軽くしていき、自重による転倒・たわみを最小限にしていく計画となっている。またジョイント部分には研磨処理を施し、シームレスなSUSの表情をつくりだした。
施工プロセス
この曲線を設計するにあたり、通常の平面図や断面図ではなく、内部空間内の立体座標リストによって形状を定義した。そして座標間をつなぐ曲線のニュアンスは、鋼材そのものの物性や、曲げ加工時の職人の身体性に委ねる計画とした。結果として、自由曲線を幾何学的に定義しやすい円弧に置き換えて製作していくという従来のプロセスでは実現し難いような、立体的なフリーハンドのような曲線となった。
曲線の製作に入る前に、立体座標リストを用いて現場に原寸模型を作成した。手で曲げられるやわらかい材で作ることで、建主・設計・施工の三者で空間を体感し、現場で調整を加えた。その後原寸模型を製作所に運搬し、それをガイドにしながら鋼材が曲げられた。
この建築の構造体の背景には、様々な関係者の身体感覚による調整がある。また、完成後もゆれやたわみを許容するような形で存在することで、なにか時間の流れを内包するような、やわらかい建築の在り方を実現できるのではないかと考えた。
動的な建築の可能性
私たちが建築を構想し、設計し、施工し、そして人々がそこに訪れ自分自身の身体によって空間を経験するに至るまで、本来建築することにはすべての段階において“運動”が伴う。
鉛筆によって描かれるフリーハンドの線のブレ、模型材料の物性による偶発的な表情、現場での身体的な発見や職人の手の動きなど、あらゆる運動による偶発性によって物事の可能性は広がっていく。
それはCADや3Dモデリングによって厳密に定義された形状を現場に再現するような、理性的・静的な構築とは異なる方向の可能性であり、即興的、偶発的、あるいは時間の流れや変化を許容するような、自由で広がりのある動的な世界の構築へとつながっていくのではないだろうか。
■建築概要
題名:MIKAGE SHIN AOYAMA
所在地:東京都港区北青山3-7-11
主用途:物販店舗+事務所
設計(内装):小田切駿 / ハヤオオダギリアーキテクツ
構造設計(内装):瀧本信幸
設計協力:川本航佑、柴田達乃助
施工:株式会社白水社
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階、地下2階
建築面積:46.66㎡
延床面積:134.52㎡
設計期間:2023年6月5日~2023年8月24日
施工期間:2023年8月25日~2023年9月11日
竣工:2023年9月11日
建築写真:瀬尾憲司
現場写真・模型写真:小田切駿+川本航佑+柴田達乃助
図面:小田切駿+髙橋まり