高橋勝建築設計事務所が設計した、京都市の「黒門通の住宅」です。
京町家を調査診断して性能向上の改修をする計画です。建築家は、永く住み継がれる建築を目指し、耐震補強等を行うと同時に全ての居室が外部と繋がる平面構成に刷新しました。また、ファサードは街並みを参照した“格子戸”を用いて整えられました。
京都市内に建つ古い京町家の調査診断+性能向上改修である。
黒門通は秀吉による天正の地割によって猪熊通と大宮通の間に新設された通りで、沿道は住宅が立ち並ぶほか、染工場が多く立地している。本計画の町家周辺にもまだポツポツと町家が残っており、風情を感じる景色が散見される。
ここで生まれ育ち独立した子世帯が、次は自分たちの子育ての為またこの京町家に戻り両親と一緒に三世代住まう、住み継ぐための京町家改修計画となった。
既存は離れ含め、間口3間、ウナギの寝床状の延べ面積約197㎡と広い町家。古くから染工場に使われてきた歴史もあり、ミセの間の地中には以前大きな染壺が埋まっていると聞いた。確かにこの家が面する黒門通に建つ町家の格子をみると、染屋格子の割合が高い。
内部は長年繰り返されてきた場当たり的な改修、間取り変更により奥行方向に廊下が多く主な居室が外部に面しない暗く快適とは言えない住まいとなっていた。また1階の間口方向の耐力壁が殆どなく、耐震的に危険な状態であった。
今回の改修では今後永く住み継いでいける住まいとなるよう、評点1以上とする耐震改修も兼ねた大幅な間取り変更、H28省エネ基準値に対し余裕をもった断熱改修、水回りの刷新を行い、通りに面したファサードは黒門通の風情に配慮し意匠を整えた。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
住み継ぐための京町家の性能向上改修
京都市内に建つ古い京町家の調査診断+性能向上改修である。
黒門通は秀吉による天正の地割によって猪熊通と大宮通の間に新設された通りで、沿道は住宅が立ち並ぶほか、染工場が多く立地している。本計画の町家周辺にもまだポツポツと町家が残っており、風情を感じる景色が散見される。
ここで生まれ育ち独立した子世帯が、次は自分たちの子育ての為またこの京町家に戻り両親と一緒に三世代住まう、住み継ぐための京町家改修計画となった。
既存は離れ含め、間口3間、ウナギの寝床状の延べ面積約197㎡と広い町家。古くから染工場に使われてきた歴史もあり、ミセの間の地中には以前大きな染壺が埋まっていると聞いた。確かにこの家が面する黒門通に建つ町家の格子をみると、染屋格子の割合が高い。
内部は長年繰り返されてきた場当たり的な改修、間取り変更により奥行方向に廊下が多く主な居室が外部に面しない暗く快適とは言えない住まいとなっていた。また1階の間口方向の耐力壁が殆どなく、耐震的に危険な状態であった。
今回の改修では今後永く住み継いでいける住まいとなるよう、評点1以上とする耐震改修も兼ねた大幅な間取り変更、H28省エネ基準値に対し余裕をもった断熱改修、水回りの刷新を行い、通りに面したファサードは黒門通の風情に配慮し意匠を整えた。
三つの庭と全ての居室の関係を整える
既存状態ですでにあった中庭、奥庭は樹木が大きく育ちすぎて暗く陰鬱な印象であったが、樹木や地面を整えるとウナギの寝床の住空間に貴重な光と風、景色を提供できる。それに加え、既存町家の躯体形状を見ると玄関すぐ奥が元々は外部であることがわかった(屋根をつけて居間の一部になっていた)。
今回は半坪だけ減築し、玄関から居間に向かう通路に面した半坪庭として復活させた。この通路はガラスのトンネルとして一度外部にでるような体験のあと居間に入る設えとしている。
この半坪庭、中庭、奥庭を軸に、すべての居室を再配置し、すべての居室と外部を関係させた。中庭は濡縁を大きなテラスへと拡張させ、子供たちが中⇒外⇒中と走り回れる仕掛けとしつつ、住民がより外部と関係出来る活動可能な庭としている。
2階レベルにおいては、半坪庭は一坪の大きさとなり2階サブリビングと寝室2に対して光と風を提供している。また、天井を排し大きな空間となった2階和室から簡単にアクセスできるようにした天井裏収納からも中庭の緑が感じられる位置関係である。
通りに配慮した立面計画
改修前の西面のファサードは、タイルと大理石、アルミ手摺、バイク駐車の為のバーチカルシャッターが取りつく場当り的な対処の結果の状態であったが、今回倉庫スペース用の大きな四枚引き戸を誂えるさい、ファサード全体を整える事とした。
大きな面積を占める引戸は黒門通に多いデザインの格子戸(親通し切子2本格子)とし、1階外壁は落ち着いた黒漆喰を塗った。2階開口の手摺は擬宝珠付きの桧で造り直し、耐久性のある薩摩葦の簾で内部と通りの程よい距離感をつくっている。
技術の継承の場としての京町家改修現場
今回の親から子へ住み継ぐための町家の改修は、長年この家に出入し、施主の古くからの友人でもある斉藤大工とともに進めた。結果的に1年弱かかった改修工事では、斉藤大工から複数の若い大工への技術の継承の場でもあったと思われ、現場では厳しくも丁寧で温かい継承の共同作業に何度も出会う事が出来た。
大工からの提案である、階段手摺や通りに面した手摺へ彫られた擬宝珠、枠材の納め方に白銀比などが潜み、大工に継承されてきた審美性も垣間見える空間となっている。それらは明文化されていない口伝での技術や審美性であるが、それこそが我々の中を通り過ぎていく貴重で重要なミームとも思えてならない。
これからもこの住まいと大工の付きあいは続いていく。そして数十年後またこの住宅に改修が必要になったときに、ここで学んだ大工が現場を受け継いでいく事を願っている。
住宅医的手法
今回の改修は既存住宅の調査診断および性能向上改修は設計者の住宅医(一般社団法人住宅医協会が認定している資格)としての手法を利用した。
本計画での改修手法の特徴としては、ローコストな土間基礎と1/15の傾斜にも追随できる面材耐震壁の採用及び平面計画の組み合わせである。また耐震要素である外壁側の追加的な面材取付で出来た隙間を断熱材打ち込みスペースにするなどコスト、性能維持のためのスペースの合理化にも配慮している。
■建築概要
題名:黒門通の住宅
所在地:京都市
施主:個人
設計監理:髙橋勝建築設計事務所 髙橋勝
構造設計:アトリエSUS4 能戸謙介
施工:斉藤工務店
構造形式:在来及び伝統木造
構造規模:木造 地上2階
敷地面積:155.00㎡
建築面積:120.48㎡
床面積:197.76㎡
1階:120.36㎡
2階:77.40㎡
高さ:8,716mm
設計:2020年10月~2021年7月
監理:2022年8月~2022年2月
撮影:笹倉洋平